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テクノロジー

遺伝学のイノベーションによるバイオテクノロジーの投資機会拡大


キーポイント

  • 遺伝学は、バイオテクノロジー産業において一連の新たな治療法や薬剤の基礎を築いてきた

  • 標的治療は、がんを含む一部の疾患をもつ患者の展望を変えてきた

  • イノベーションと新薬の継続的な開発は、魅力的な長期的投資機会を提供している

がんや心臓病から、深刻な希少疾患に至るまで、生命を救う治療法の開発は、医学のひとつの主要分野である遺伝学に対する理解の向上により、過去数年で躍進しました。

DNAの発見およびヒトゲノム計画の完了( いずれも4月に節目となる記念日を迎えました ) から今日行われている有望なイノベーションまで、遺伝学は数多くの薬剤成功例の基礎を築いてきました。

遺伝子治療の分野に絞っただけで、2022年におよそ400の治療法が開発中でした。これらは、2025年までに発売される新薬の約20%を占めると予測されています。1

さらに、一部の治療に遺伝学を利用して患者を選択した場合、事前選択用バイオマーカー(生体内物質で、病状の変化や治療の効果の指標となるもの)を利用しない時において、成功率が高くなることが判明しています。2

バイオテクノロジー中で急速に成長しているこの遺伝学分野は、刺激的な長期投資機会を生み続けると当社は考えています。

がん治療における遺伝学 

遺伝学の躍進により最もプラスの影響を受けた治療領域は、まさに腫瘍学(がんの診断および治療)です。遺伝子の変化や遺伝子の差異が多くのがんの根底にあるという事実は、これらの特定の変化や差異を標的として有効な薬剤を設計できることを意味します。これらの薬剤は広く「標的治療」と呼ばれ、米国では遺伝的欠陥を特異的に標的とした180以上のがん治療法が承認されています。3  

乳がんは、がんの中で最も一般的な形態であり4 、治療において大きな進歩がもたらされた分野です。乳がん細胞内で発見された細胞表面受容体であるHER2の識別と測定により、この特定疾患を標的とした複数の薬剤の開発が可能になりました。

ハーセプチン(Herceptin)はおそらく、世界で最も知られたがんの標的療法のひとつです。25年前に承認された同薬は、競合他社が市場に参入するまで年間約70億ドル(約1兆円)の売上を達成しました。5 ハーセプチンは、HER2陽性の乳がんをもつ女性にとって、疾患治癒と生存の見通しを劇的に変えました。

最近では、第一三共と 英アストラゼネカがHER2陽性の乳がん患者に向けに Enhertu(トラスツズマブ デルクステカン)を開発しました。この薬剤は生存率の向上を含み、より広範な臨床的成果を示しています。最新の臨床データが昨年の米国臨床腫瘍学会の年次総会でがん専門家に発表された際には、乳がん治療を画期的に変える可能性を示したことで、参加者は総立ちになり拍手を送りました。6 アナリスト予想による潜在的売上高は2026年に最低50億ドルに上り7 、関係企業にとって新たな商業的大ヒットとなる可能性があります。        

さらに深いイノベーション

患者の症状経過を改善する潜在性をもち、バイオテクノロジー部門で話題となっているもうひとつの革新的薬剤が、腫瘍学専門のバイオテクノロジー小型株企業、Ideaya による ダロバセルチブ(darovasertib)です。同社は転移性ブドウ膜黒色腫(MUM)において、「説得力がある」初期段階のデータを収集しました。MUMは患者が失明する可能性があるがんで、肝臓に転移する可能性もあり、米国および欧州連合で1万4,000人以上の患者がいます。8

MUM患者の約95%が、がん増殖を引き起こす共通の遺伝子変異をもっており、ダロバセルチブはこれを標的とします。9 同薬が後期臨床試験で有効性を示し続けた場合、患者にとって有意義な治療の選択肢を提供する可能性があり、現在これが Ideaya にとって5億ドルの事業機会になると予想されています。10  

腫瘍の標的治療は、小規模のバイオテクノロジー企業とその投資家にとって、アクセスしやすい臨床開発分野となっています。一般に、有効性が高く、遺伝的特徴によりメリットがある確率が高い患者を選択できることで、成功率が比較的高く費用対効果の高い機会を得られる可能性があります。

当社ではまた、この分野の中小企業が近年、合併吸収のターゲットの大部分を占めていることにも注目しています。腫瘍学に焦点を当てた大手バイオ医薬品企業が、自社の研究開発パイプラインに製品を追加しようとしているためです。 

神経学における遺伝学

遺伝学は多くの神経変性疾患の根底にあるとも考えられていますが、この種の疾患の遺伝的基盤に関する業界の理解は初期段階にあります。それでも、遺伝学が腫瘍学と同様に神経性疾患の治療に利用できるかどうかについて、興味をそそる点が多数あります。

米国食品医薬品局(FDA)は最近、運動ニューロン疾患としても知られる筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者のうち遺伝的に定義されたサブグループの最初の治療薬として、アイオニス/バイオジェンによる tofersen(トフェルセン)を承認しました。同薬はSOD1として知られる特定の遺伝子変異をもつALS患者(治療の選択肢が限られている)に対する治療法の選択肢を提供する可能性があります。患者数が少ないことから、治療薬の商業的機会はおそらく限られていますが、遺伝学ベースの神経変性疾患薬のさらなる開発への戸口を開く可能性があります。

他方、デナリ・セラピューティクスはこの分野におけるパイオニアです。バイオジェン、サノフィ、武田薬品を含む大企業パートナーと共に、ALS、パーキンソン病、アルツハイマー病などの疾患に対する後期臨床薬の候補を多数有しています。 

最も一般的な疾患および最も希少な疾患における遺伝学

最も一般的な疾患としては、心血管疾患による死者数が最も多く、コレステロールなどの脂質が主要な原因となっています。脂質低下薬は、心臓病の気がある多くの人々に対するリスク軽減に非常に効果的です。しかし、心血管疾患の危険因子や原因は他にも特定されており、バイオ医薬品企業は遺伝学に対する理解を利用することで、これら多数の疾患タンパク質の根本的な生成を特異的にターゲットとする薬剤を設計しています。

たとえば アルニラムとアイオニス/アストラゼネカは、心臓が体中に血液を送り出すのを困難にさせるTTR心筋症におけるタンパク質の有毒な蓄積を予防する薬剤を開発中です。潜在的な売上高は50億ドルを超えると推定されています。11

一方で、アイオニス/ノバルティス、アムジェン/アローヘッドその他は、心臓発作に関与するタンパク質Lp(a) およびアポC-IIIを低下させる薬剤を創薬中です。これらが成功した場合にも、商業的に有意義な躍進となる可能性があると当社は見ています。そしてこれらの薬剤の共通点は、遺伝子コードを標的とし、タンパク質生成を阻止することで作用することです。  

これとは対極的に、遺伝子コード中の単一の変異により引き起こされる、希少疾患が数百とあります。現在知られていない希少疾患はもっと多いと考えられます。発達障害に関する英国ベースの10年がかりの膨大な研究が最近、説明のつかない疾患をもつ子供のある13,500例以上の家族の遺伝子コードを分析し、5,500例に診断を下すことができました。このプロセス中に60の新たな疾患が特定されました。12

学界や企業は長年にわたり、欠陥遺伝子を阻止・修正し、これらの疾患を治療するための方法を模索してきました。もちろん、これまでの過程で課題もありましたが、現在では脊椎性筋萎縮症や特定の遺伝性の小児失明といった症状を1回の点滴で治療するのに効果的な遺伝子療法が複数承認されています。

欧州および米国の規制機関は最近、男性4万人のうち1人が抱える血液凝固の疾患である血友病Bに対するCSLおよび uniQure の遺伝子療法も承認しました。13 患者数が5倍の血友病Aの治療については、期待が高まっている バイオマリンの遺伝子療法がもうすぐ米国で承認されると当社では見ています。これは1回の点滴で、血液凝固に極めて重要なタンパク質を生成する遺伝子の欠落を補います。これらの治療法を総合すると、患者に対する「1回で完了する治療」の選択肢を提供できる可能性がありますが、関係企業がこのイノベーションにどのような価格設定をするか、そして患者負担についてまだ決まっていません。 

遺伝学の未来

当社では、初の遺伝子編集薬が今年承認されると予想していますが、これは遺伝医学に新たな一歩をもたらすものです。バーテックスおよび クリスパー・セラピューティクスのExa-cel は、βサラセミアや鎌状赤血球症の患者の人生を変える可能性のある1回きりの治療を目的としています。  

これらの治療法や薬剤は、今日バイオテクノロジーセクターで起こっているイノベーションのほんの一部の例に過ぎません。業界全体で、企業がパイプライン(新薬候補)開発に遺伝学を活用しており、過去70年間の進歩を基盤として今日も最先端を進んでいます。当社では、さらに多くの疾患に新たな治療法が発見され、ひょっとすれば完治さえ望めると考えています。そして長期投資家にとっては、この極めて重要なイノベーションに投資しつつリターンを得られる可能性があります。

(オリジナル記事は6月19日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

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