不確実性の偏在と長期投資の機会
低迷する経済成長、不安定な地政学的背景、そして迫り来る米大統領選の最終結果に対する懸念など、投資家には考慮するべき多くの材料があると思われます。
世界銀行が今年年初の報告1 で、今後5年間の世界経済は30年間で最も低迷する成長となり、貿易増加率は新型コロナ拡大前10年間の平均の半分になると予測しましたが、この報告は市場の不安心理を強めました。
しかし、世界が現在直面している多くの問題にもかかわらず、投資家に安心感を与える材料は多くあると、当社は見ています。金利はピークを過ぎたように見え、債券市場の状況は改善し、株式は上昇を続けています。世界銀行でさえ認めていますが、世界経済は課題を抱えているにせよ、少なくとも景気後退(リセッション)のリスクが後退したことで、1年前よりも良い状況にあると思われます。多くの経済指標を見ると、世界的な景気サイクルが2023年に底に達したと思われます。この状況において、投資家は先を見据える必要がある一方、プラスに向かう兆候がいくつかあります。
過去の実績は将来のリターンの目安にはなりませんが、2024年1~3月期に多くの株価指数が上昇したことは依然として注目に値します。S&P 500、ナスダック、ダウ・ジョーンズ、日経平均、欧州ストックス600指数は、この期間にいずれも過去最高値を更新しました。2
債券市場では債券利回りが上昇しているため、社債戦略には引き続きインカム獲得の機会があり、また、中央銀行が利下げに踏み切る時や、または、もし株式の強気相場が失速する場合には、債券価格が上昇する可能性もあります。加えて、ハイイールド債券は、株式のようなトータル・リターンを実現しながらも、ボラティリティが比較的低いという構造的な魅力を維持しています。
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好況の牽引役
世界経済の成長は2024年に鈍化した後2025年に回復すると、当社は予想していますが、世界経済のエンジンは依然として前進していると見ています。経済協力開発機構(OECD)は今年2月に、2024年の世界成長率見通しを昨年11月時点の見通しの2.7%から2.9%に引き上げました。3
当社グループも3月末時点で、2024年の成長率は2.9%、2025年には3.1%に上昇すると予測しています。しかし、確かに問題もあります。つまり、英国は2023年10~12月にかけて、テクニカル・リセッション(二期連続の国内総生産(GDP)マイナス成長)に陥った一方、ユーロ圏と日本はリセッション入りを瀬戸際で回避しました。
対照的に、アジア諸国では多くの国が堅調なGDP成長を記録しており、独自の問題を抱える中国も2023年の成長率目標「5.0%前後」を達成しました。一方、インドは引き続きGDPの重要な牽引役であり、2023年には世界の成長率に16%貢献しました。4
世界の成長の中心にあるのは、例外的な成長を続ける米国であり、昨年10~12月期のGDP成長率の確定値は3.4%で、昨年7~9月期の4.9%と比較し低下しましたが、改定値の3.2%(速報値は3.3%)から上方修正され、市場が当初予想していた2%をはるかに上回りました。
マクロ経済面で楽観論の根拠は、少なくともそれが顕在化している部分では、インフレ圧力がおおむね緩和されつつあり多くの経済圏で低下を続けていることを背景に、金利が低下するという見通しにあります。
インフレ率は、中東紛争の継続から生じる上振れリスクもあり、今後数四半期にわたりいくつかの経済圏で下がりにくい状況になると、当社グループは予想しています。しかし、全体としては、先進国の中央銀行は今年の中頃から金融政策の緩和を開始すると見ています。新興市場地域の中央銀行は広く緩和を開始しましたが、インフレ率が2024年の間に中央銀行の目標に沿った水準まで低下すれば、一層の緩和の継続が可能になると見ています。
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テックブーム
金融政策が緩和的になるという見通しが株式市場のリターンを押し上げていると考えていますが、最近の株式市場パフォーマンスに大きな影響を与えているのはテクノロジー部門であり、それは主に、生成人工知能(AI)の長期的な成長可能性に対する楽観的見通しが理由と見ています。
ある分析では、生成AIは現在労働者の多くの時間を割いている活動を自動化することで、世界経済に数兆ドルの価値をもたらす可能性があるとのことです。5 生産性の向上は経済成長と生活水準の向上を意味し、ひいては幅広い産業でリターンを押し上げると見ています。
今世紀初頭のテックブームとその急落の場合とは異なり、現在の強気相場は、売上や利益と並んでテクノロジー業界の優れた成長率を反映していると、当社グループは見ていますが、こうした特徴は、前回のブームではほとんど見られませんでした。当然ながら、このセクターも成長の強弱は起こりえる為に、市場が現在の上昇速度を維持できる可能性は低いと思われますが、当社グループは、この長期的なトレンドが市場と投資家に力強い影響力を持ち続けると見ています 。米国テクノロジー株のリターンは、市場全体や景気循環性の高いセクターの株式のリターンを総じて上回ってきました。当社グループは、このトレンドが長期的なものとして今後も続くと考えています。
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ESGの定着
持続可能性は2023年の厳しい市場環境の影響もあり、また、規制疲れも手伝って、この1年ほどの期間は市場の注目点からは外れていました。しかし、環境・社会・ガバナンス(ESG)への配慮は究極的には長期的トレンドの部分を成していると見ています。最近のグリーンボンド部門の拡大状況を見ると、その市場規模は過去5年間で500%増加しています。
脱炭素化と生物多様性損失の削減を推進する新技術は絶えず開発されており、投資家が投資を行うための新たなビジネスモデルを提供しています。AIと同様、グリーン化(環境に優しい経済への変化)は定着しつつあると見ています。これは現代の主要な投資テーマのひとつであり、今後もそうであり続けると思われます。
地球の気温が上昇を続け、異常気象が深刻さを増し、自然の生息地が悪化していく現状において、グリーン化は必要と考えています。より持続可能な未来への移行を支援し、資金を調達する必要性は以前よりも高まっており、投資機会も拡大していると見ています。再生可能エネルギーのコストは低下しています。2010年~2021年の間に、再生可能発電の生涯発電コスト(建設費と運転費を含む)の世界平均は、太陽光で88%、陸上風力と洋上風力でそれぞれ68%と60%低下しました。6 RMIの報告書によると、10年後までに太陽光発電のコストは半分に、風力発電のコストは4分の1削減されると予測しています。7 さらに製鉄、化学、農業などの分野でも、テクノロジーを用いて排出量削減という課題に取り組んでいます。
ESGはもはや経済の周辺領域ではなく主流になっており、世界はESG問題に適応する必要があると考えています。ブルームバーグNEFによると、世界のクリーン・エネルギーへの支出は昨年17%急増し、再生可能エネルギー設備、電気自動車(EV)、水素製造システムなどを含め、過去最高の1.8兆ドルに達しました。8 しかし2050年までにネット・ゼロ(温室効果ガスの排出が正味ゼロ)の目標を達成するためには、この2倍以上の資金が必要であり、こうした状況は、比較的大きな投資機会を提供する可能性があります。
機関投資家の視点
機関投資家、つまり年金や保険の負債に対応する資産運用を目的とする投資家にとっては、金利や信用スプレッドがどうなるかが重要となると思います。中央銀行が政策金利を引き下げ始めると、イールドカーブ(金利曲線)は勾配が急になり、長期金利が低下する余地が限られます。また、2021年~2023年にかけてのインフレ・ショックや、世界的な貯蓄と投資のバランスの変化に対する懸念は、長期債利回りのリスク・プレミアムの上昇につながると思われます。このことは、債券ポートフォリオのキャッシュフローにとってプラスであると同時に、債券市場でデュレーションが大きく動くことはないと思われます。
持続可能性目標を達成するために長期的な資本を配分する機会は、今後も増え続けると見ています。低炭素またはネット・ゼロ・カーボン戦略は今や、債券の世界に広く浸透しており、ネット・ゼロの目標を達成するために必要な資本支出は今後も高水準で推移するため、グリーンボンドの発行はさらに拡大すると思われます。社債市場は非常に健全であり、このことは、環境その他の持続可能な開発目標に関連する債券の継続的な発行を促進すると思われます。
(オリジナル記事は3月26日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
本資料で使用している指数について
※ダウ・ジョーンズ工業株価平均指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の優良企業30社の値動きの平均を示す株価平均型株価指数です。
※S&P500指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
※ナスダック総合指数:米国NASDAQに上場している全銘柄の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
※欧州ストックス600指数:STOXX社が算出・公表している欧州先進国における株式市場の600社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
※日経平均株価:日本経済新聞社が算出・公表している日本の株式市場225銘柄の値動きの平均を示す株価平均型株価指数です。
※本資料中の指数等の著作権、知的財産権、その他一切の権利はその発行者に帰属します。
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