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Investment Institute
マーケット見通し

ホーム&アウェイ 


筆者は、二つの国で生活し働いています。それは、英国(ホーム)と米国(アウェイ)です。現在、二つの国の運命は、かつてないほどに大きく異なっています。米国経済は市場で予想されたよりも強く、一方で英国は景気後退(リセッション)に入りました。米国株式市場は、新たなテクノロジー革新によって力を得ています。一方で英国株式市場は、バリュートラップ(割安の罠、割安と判断して投資した銘柄がそのまま放置される現象)と思われる事態に陥っています。両国ともに今年は重要な選挙が控えています。選挙結果がどうなるかは不明です。政権の交代は、米国株式市場にとって下落リスクとなる一方で、英国株式市場にとっては、上昇のきっかけとなるかもしれません。 


ほぼゼロ成長の英国経済

英国の国内総生産(GDP)の四半期前期比成長率は2022年と2023年の8四半期の平均でほぼゼロ成長となりました。英国経済は近年では、2020年のパンデミック期や2008年から翌年にかけての金融危機の時期を除き、最も弱い低迷期を迎えています。1995年から2007年の期間では、GDPの平均四半期成長率は+0.7%であり、2010年から2019年の期間では、+0.5%でした。英国立統計局(ONS)が15日に発表した英GDPは12月も前月比で0.1%のマイナス成長となりました。結果、メディアでは、昨年7~9月期及び10-12月期の二期連続のマイナス成長となり、英国はテクニカル・リセッション入りしたことが報じられました。 

同時に、ONSによれば、コア・インフレ率は10~12月期に5%を超え、また、失業率は3.8%でした。これはスタグフレーション(景気が後退していく中で物価上昇が同時に進行する現象)でしょうか。もしくは、非常に低い生産性の罠、働く人が増えているのに生産性が低下している状態に陥ってるのでしょうか。マクロ経済の状況は投資戦略に高い確信度を与えるものではないのでしょうか。筆者は、英国債について投資妙味があると見ています。市場では、英国の経済情勢を鑑みると英イングランド銀行(BoE)がどこかの時点で積極的に利下げを行うという見方も出ています。市場の現在の予想では、BoEは欧州中央銀行(ECB)ほどには利下げしないと見られています。足元の二年間でみると、ユーロ圏は穏やかに成長している一方で、英国は停滞しています。また、1ポンドは1.25ドル付近で取引されており、2022年に付けた安値1.07ドルに再び近づいても不思議ではないと見ています。

2020年の二重のショック

英国の欧州連合からの離脱(ブレグジット)が2020年1月31日に完了した直後に、英国は新型コロナの感染に見舞われました。輸出の実質成長率は、1995年から2019年の期間に四半期平均で1.1%に達していましたが、ブレグジット完了以降は0.25%に低下しました。輸入は、消費支出の成長速度が減速しなかったために、ブレグジット後も成長速度を維持しています。政府支出は四半期平均で見ると、ブレグジット後に伸びが約二倍になりましたが、この伸びは新型コロナ感染拡大の余波や公共部門の給与問題に対処するよう求める政治的な圧力を反映したものです。一つの結論として、ブレグジットは英国企業の輸出能力を損なって、全体的な成長の足を引っ張っていると考えられます。OECDのデータで見ると、2016年1~3月期と比較する場合、英国経済は実質2.3%の成長にすぎませんが、米国では10%、フランスやイタリア、スペイン、カナダではもっと高い成長率になりました。

難しい投資戦略

投資戦略を考える際に、状況はあまり芳しくないと見ています。英国は、年内に実施が見込まれている総選挙で政権交代の可能性がありますが、特に、経済のゼロ成長に反してインフレ率と金利が比較的高水準のまま続くような場合には、政権交代の可能性が強まるでしょう。この状況は、英国の株式や債券について、海外投資家の投資意欲を掻き立てるものではないと思われます。これは、マクロ経済や政治状況が不確かなだけではなく、労働党の経済政策案の詳細がまだほとんどわかっていないからであり、また、為替リスクもあるからです。今年はこれまで(執筆時)のところ、英国株式は、2.0%強下落しており、現地通貨ベースの比較でも、中国を除く他の株式市場と比べてもパフォーマンスが劣っています。 


株式は割安だが、英国はバリュートラップか?

FTSE 350指数は、英国上場株式の時価総額合計の約9割を含んでいます。12か月予測PER(一株あたり収益率)は約10. 8倍で取引されています。この水準を2008年からの15年間平均PERと比べ、標準化して標準偏差を取ると約マイナス0. 78です。これを下回るのは主要市場で中国のみです。米国は1. 46であり15年間平均を超えています。英国市場の益利回りは約9%であり、これは英10年国債利回りの2倍を超えています。ここで問題になるのが、英国株式市場はバリュー・トラップなのか否かです。英国では、2015年以降株式市場のトータルリターンが他市場と比べて低迷し、割安化が進んでいます。英国株式の過去10年の年率リターンは5%でしたが、その間、S&P500は約12%、MSCIワールドは9.2%、ストックス欧州600指数は7.1%でした。

もしくは、安い買い物か? 

ここでよい面を考えると、英国株式は英国社債よりも高いリターンをある程度継続して提供してきました。過去5年、10年、20年の期間で、FTSE 350のトータルリターンは英社債指数(ICE BofA スターリング社債指数)のトータルリターンよりも年率換算で約3%高くなっています。英国の投資家にとって、株式は有効な投資対象資産と思われます。英国企業には、グローバル市場にかかわりを持つ企業や、ITや生命科学のようなダイナミックに発展するセクターの企業がある一方、大手銀行や生活必需品やファッション・ブランド、資源関連企業など、比較的優良と思われる企業があります。指数でみると、2023年EPS成長率は予想値で約9%に低下しました。市場予想では、2024年の5%成長の後に、2025年には8%成長に加速すると見込まれています。配当利回りは4%であるために、今後数年間は10%前後のリターンになる可能性があると見ています。 

経済がゼロ成長になる中で、株式のパフォーマンス向上を促す何らかのきっかけが現れる可能性があります。中央銀行の利下げ、ポンド安、政権交代の可能性はすべて、投資家の確信度にプラスの影響を与える可能性があります。また、英国の上場企業は債務負担が比較的少ないと思われます。ブルームバーグのデータによると、英国 350 指数について、企業収益性 (EBITDA:利払い前・税引き前利益、減価償却の総和で求められる利益) に対する負債の比率は0.42であり、 S&P 500 指数は1.39、ストックス欧州600指数は2.61であるため、相対的に低い負債水準にあります。


米国はスイッチが入ったまま 

依然として英国株式市場はグローバルの株式市場の中では、ニッチな市場であり、英国内投資家だけが興味を持ち、プライベート・エクイティの資金が事業再生の機会をうかがう程度の市場ではないかと思われます。グローバルでの株式投資は、引き続き米国株式に向かっており、成長力が比較的強い米国で、大型の情報技術(IT)銘柄は、市場全体のトータルリターンと利益成長の多くの部分を占めています。先週のアップルとテスラのパフォーマンスは比較的さえない動きとなりましたが、マグニフィセント7(大手テック企業の、アップル、テスラ、アファベット、アマゾン、マイクロソフト、エヌヴィディア、メタ)の他の5銘柄や、ITセクターは引き続き好調なパフォーマンスを示しています。ITセクターは、S&P500の昨年1年間のトータルリターンの約50%を牽引し、時価総額加重ベースで市場の一株当たり利益の約50%を占めています。生成人工知能(AI)や関連技術の普及が続く限り、筆者はこのセクターに対してポジティブな見方を続けます。

利回りは現状安定している

2022年には、デュレーションが長い資産としてみなされている米国のテクノロジー株式は、長期金利の上昇によって将来の利益の現在価値が低下したために、パフォーマンスは打撃を受けました。しかし、現在は、長期金利が安定しており、利益成長は改善しています。また、マクロ経済環境も依然堅調に推移しています。市場では、米国経済が着陸することなく成長を続けるとの見方も増えてきました。プラスの成長が続く一方で、インフレ率が米連邦準備制度理事会(FRB)の目標を上回った状態が続く場合には、FRBは利下げを行う必要はないと思われます。13日に労働省が発表した米国のインフレ率は市場予想を超え、特にサービス・セクターでのインフレが根強い為に、利下げの必要がないという見方が強まってきました。


FRBの予測を観測

しかし、実際には、米国でのモノの価格上昇は2022年末以降前年比ではマイナスになっており、サービス・セクターのインフレは2023年1月に7.6%という頂点に達し、その後は徐々に低下しています。サービス・セクターのインフレ率は1990年以降平均4%を超えていますが、住居費が実際の住宅市場の状況に近づいてくれば、サービスのインフレ率は低下に向かうと見ています。また、ここで重要な点は、モノの価格の上昇率は非常に低位であったりマイナスであったりする一方で、世界の競争力にあまりさらされないサービス・セクターのインフレ率が上昇するということは珍しいことではありません。米国ではこうした状況が1997年から2021年までの間起こっていました。当時、平均インフレ率はFRBの目標近くにあり、FRBは、サービス部門のインフレ率を引き下げようとすると、景気後退や大規模な信用問題のリスクが高まることを認識していたために、この相反する動きを容認していました。そして、2005年頃から、財・サービス価格の急激な上昇を受けて金融引締めが実施された時には、引締めが住宅危機の引き金となりました。 

FRBがマクロ経済の兆しに反応しつつ、小幅ながら頻繁に金利を変更しながらも、しばらくは現在の金利水準近くに金利を維持しようとするシナリオは、可能性が高まりつつあります。しかし、これまでのところ、ソフトランディング(景気の軟着陸)のシナリオの可能性が高いと見ています。中国の最近の低いインフレ率が世界的な低インフレの到来につながり、一方で、今後数カ月間は米国のサービス部門のインフレが継続するとすれば、市場では、依然として6月からの利下げが基本シナリオとなると思われます。筆者としては、次回の連邦公開市場委員会(FOMC)で参加者の金利予想を示すドットプロットに注目したいと考えています。ドットプロットが予想の変化を示さなければ、米国の債券市場はその後暫く価格上昇(利回り低下)の方向に向かうと見ています。また、FRBは、長期の中立金利(景気への影響が緩和的でも引き締め的でもない、景気が安定的に成長する中立的な実質利子率)が現状考えている約2.5%のままであり、現状の金融政策は過度に引き締まっていることを確認する可能性があると見ています。

各データの出所: Refinitiv DataStream、ブルームバーグ。2024年2月15日現在。

過去の実績は将来の結果を示すものではありません。

(オリジナル記事は2月16日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

本資料で使用している指数について

FTSE350指数:FTSEラッセル社が算出している、ロンドン証券取引所に上場する企業のうち、時価総額上位350位の企業の銘柄で構成されている時価総額加重平均型指数です。

S&P500指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出している、米国の500社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。

ストックス欧州600指数:STOXX社が算出している、欧州先進国における株式市場の600社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。

MSCI ワールド指数:MSCI社が算出している、先進国の株式市場の値動きを示す時価総額加重平均型指数です。

ICE BofA スターリング社債指数:ICEデータ・インデックス社が公表している英国社債の値動きを示す指数です。

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