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Investment Institute
マーケット見通し

米国市場は割高だが(それだけの価値があるかもしれない)


米国市場のバリュエーション(価値評価)は上昇を続けています。株価収益率は2年ぶりの高水準にあり、社債の信用スプレッド(国債の利回りと社債利回りとの差)は連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを開始する前の水準に戻っています。割安なものはあまり見当たりません。しかし、これは懸念すべきことでしょうか?確かに、現在(執筆時)のバリュエーションには考慮すべきリスクがあります。しかし、経済が好調であり、重大な信用問題を示す証拠が見当たらず、また、企業のバランスシートや収益性が健全であることなどが、資本市場のパフォーマンスを牽引しています。米国のGDP成長率が従来の予想を上回り続けていることから、2024年の企業収益は成長すると予想されます。さらに、市場では、政策金利はいずれ引き下げられると予想されています。インフレ率の低下によって利下げされるのであれば、金利の低下は株式や債券にとってプラスに働くと考えられます。今のところ、市場の価格が下落する場合には、市場では「押し目買い」の反応があると見ています。


債券、特に社債戦略に注目したい年 

投資適格社債戦略やハイイールド社債戦略に対する強気の見方は、筆者の中核テーマのひとつです。この見方はこれまでのところ成功しています。2023年から続けている「債券の年」というテーマに沿って、社債市場のリターンは堅調に推移しています。市場の金利見通しが変動したにもかかわらず、米国やユーロ圏、英国の社債指数(以下、指数については、本記事末尾の“本資料で使用している指数について”をご参照ください)はそれぞれ6%を超える良好なリターンとなりました。米国投資適格債指数は3月3日時点の1年間のトータル・リターンが6.75%で、BBB格の指数は7.8%でした。欧州の投資適格指数は7.5%、BBB格の指数では8.0%でした。英国の社債市場のリターンも同様の水準でした。

ハイイールド社債市場指数の過去1年のトータル・リターンは欧米ともに10%を超え、適格社債市場以上に力強いものでした。米国ハイイールド社債市場の1年間のトータル・リターンは11%、欧州では10.3%でした。米国市場で比較的信用リスクの高いCCC格以下の債券市場に投資する投資家は、15%という比較的高い株式市場並みのトータル・リターンを得たことになります。つまり、国債のデュレーションを長くする戦略や利下げを見越した戦略は比較的効果の薄い戦略となりましたが、社債に比較的多く投資する戦略は効果を得ることができました。過去12か月間、ほぼすべての格付けで、国債と比較してプラスの超過リターンとなりました。

2024年に入ってから現在のトータル・リターンは、債券市場の利回りが上昇した結果、やや低下しています。しかし、デュレーションの短い投資適格社債や、ハイイールド社債、レバレッジド・ローンは年初来現在まで、プラスのリターンを達成しています。一方、最近は債券利回りが横ばい、ないし、低下しているので、3月は債券市場ではプラスのリターンが期待できると見ています。

バリュエーションが懸念材料か?  

過去1年間のパフォーマンスは、インカムと信用スプレッドの縮小に起因するプラスの価格変化に牽引されました。米国の投資適格社債市場の平均スプレッドは、1年間で約30ベーシス・ポイント(bp)低下しました。社債の格付け毎のスプレッドは、1年前の米国地銀に対する一時的な懸念以来、ほぼ着実に縮小しています。実際、この懸念がピークに達して以降のスプレッドの変化は、米投資適格社債指数で64bp、欧州で75bpの縮小でした。この信用リスク・プレミアムの低下は、投資家が比較的高格付けの企業に対する信頼の高さ、米国経済や全般的な企業収益の強さを反映していると見ています。

執筆時、米国の投資適格社債のスプレッドは100bp前後で推移しています。欧州のスプレッド(通常スワップ・カーブに対して測定)は86bpで推移しています。執筆時点で、利回りは米国が5.4%、欧州が3.8%です。米国の投資適格社債のスプレッドは、過去10年間のスプレッド分布の12パーセンタイル(百分率による順位)付近にあって、比較的割高の水準になっています。一方、欧州の投資適格社債では70パーセンタイルに位置しています。ハイイールド社債も同様で、米国のスプレッドは現在330bpとなっていますが、1年前は405bp、2022年のFRBの積極的な利上げサイクルの最中には600bpを上回っていました。


堅実な状況 

社債が国債に比べて割高とみられる状況になったことには理由があります。投資家がこの状況を望んでいるからと考えられます。なぜなら、企業のバランスシートは強固で、利回りの上昇にもかかわらず企業の利息支払い能力は対処可能な水準であり、また、企業は多くの現金を保有しているため、純金利負担は以前の景気サイクルよりも低減されているからです。つまり、リスクは比較的低いと考えられます。加えて、利回りが存在する状況になっていますが、これはインカムがトータル・リターンの原動力となり、より重要になっていることを意味すると考えられます。米国の投資適格社債の場合、昨年1年間のトータル・リターン6.75%のうち、インカムは4.5%を占めました。ハイイールド債の場合、インカム・リターンはほぼ7% でした。

何がリスクか?

社債のスプレッドはこれまで、新型コロナ禍以前の2019年に社債が比較的高いリターンを遂げた時の水準近くまで縮小してきました。一方、資金の借り手はその後、バランスシートには慎重な態度であり、その結果、財務レバレッジ(自己資本に対する負債の割合)は全般的にはあまり増加していません。また、企業利益の成長は力強く続いており、企業のファンダメンタルは依然として比較的魅力ある状況にあると見ています。では、社債の場合、何が問題になるのでしょうか? 筆者の考えでは、欧米では現状からの利上げの可能性が小さいとした場合に社債が他の債券よりもリターンが劣るとすれば、信用スプレッドの拡大が原因となると思われます。

成長の鈍化  

リスクの一つは、経済成長が現状よりも鈍化して、脆弱で債務負担の比較的重いセクターが露わになって来ることと考えています。現在の金利水準や全般的な金融状況について景気に対し中立的な水準から緊縮的水準にあるか否かは議論の余地があると思われますが、2022年から23年にかけて、金利は実際に比較的大きく上昇しました。固定金利による借り手は、この短期間での金利上昇に対して、ある程度のクッションを持つことができていると考えられますが、変動金利により影響を受ける多くの消費者がいて、また、クレジットカードや自動車ローンがあります。FRBが2月に出したレポートによると、米国のクレジットカードの延滞率は2021年以降上昇しており、また、延滞日数が30日を超える自動車ローンは、昨年10-12月期に2010年以来の高水準となっています。成長が鈍化し、失業が増え始める場合には、社債発行企業の中には、市場の注目を受ける企業も出始めると思われます。しかし、銀行セクターは資本が充実した状況にあるため、上記のような低所得層のクレジットカード問題も大規模なリスクになるとは見ていません。動きはゆっくりながらもっと問題となりそうなことは、社債市場を支えるファンダメンタルの構成要素のいくつかに少しずつ劣化が起こることと考えています。債券発行は2024年にすでに増加の速度を上げており、それにつれ、金利コストの平均も上昇しています。投資適格社債の平均クーポンは米国では2022年半ばの3.65%から現在は4.25%に上昇し、欧州では1.5%から2.3%に上昇しています。これは比較的大幅な上昇であり、インタレスト・カバレッジ・レシオ(金融費用に対する事業利益の割合)が悪化する可能性があります。しかし、社債市場に対する見方を変えなければならないほどの状況にはないと見ています。というもの、特に米国で顕著なように、経済成長が大きく鈍化する証拠はほとんど見当たりません。

信用事由 

信用事由(債務の支払不履行や条件変更、倒産など、対象となる債務の履行ができなくなる事態)は常に起こる可能性があります。米国では、商業用不動産(CRE)、特にオフィス建築市場にかかわりの深い地方銀行が昨年注目を浴びました。筆者は先週、アクサIMグループの不動産チームやエコノミストとこの問題について議論しました。その結論としては、あまり大きな規模ではないものの、CREは問題であるということでした。比較的規模の大きい銀行では、信用問題への引き当て額の規模に比べると、CREの影響は軽微なものと思われます。CREをめぐる米国地銀問題は投資家のセンチメントに悪い影響があり、FRBが流動性供給処置を再び導入する可能性があります。こうした、ショックと中央銀行の対応は、少なくともしばらくの間は、スプレッドの拡大につながる可能性があります。


リスク・オフ 

CREにとって悪いニュースとして、経済成長の鈍化、利下げの先延ばし、サービス・セクターの粘着性の高いインフレ、CRE市場の一層の悪材料、米大統領選挙後の不確実性など、リスク選好が悪化に転じる可能性があります。米国では、社債は比較的割高の水準にあり、株式も割高の水準にあると見ています。2025年の市場予測利益に基づくと、S&P 500のPERは執筆時点で約19倍になっています。2021年には、コロナ禍後の景気回復期にPERが上昇して20倍に達していました。株式市場は特に昨年、トータル・リターンの多くが比較的少数のテクノロジー株によって牽引されてきた為に、市場が調整期を迎えたとしても不思議ではないと見ています。

先週の予備選挙では、ドナルド・トランプ氏が11月の米国大統領選挙で共和党候補になる可能性が高く、バイデン氏対トランプ氏の再対決となる見通しになりました。両者による2020年の大統領選では大接戦となったために、その後政治リスクが高まる結果となりました。今回も大接戦になるのでしょうか?もしそうなると、政治をめぐる不透明感は強まると思われます。連邦政府のGDPに対する債務比率の拡大を食い止めようとするでしょうか。中国に対する貿易制裁が再燃するのでしょうか。金融政策はFRB議長の任命によって損なわれるのでしょうか? これらは投資の観点では考慮する必要があると思われ、また、場合によっては、一定期間リスク資産の組入れを低下することを考えることもあり得るでしょう。

しかし、キャリーは原動力  

上に述べた数々のリスクが考えられますが、今のところ、これらが市場の上昇モメンタム(勢い)を反転させるほどには顕在化していません。実際に、リセッションになっておらず、市場予想によれば今年の下半期に利下げされる見通しであり、また、企業業績は好調に推移しています。欧州の経済は軟調であるものの、金利の低下によって支えられると思われ、先週の財政予算とともに発表された英国の予算責任庁の予測も改善方向にあります。市場の下落局面は押し目買いの機会とみなされる可能性があります。また、利回りがどこにあるかを考えると、キャリー(市場状態に変化がないとした場合のインカム・ゲイン)は社債市場におけるトータル・リターンの重要な原動力であり続けると見ています。

リスクに対するヘッジ・コストは比較的安価になっています。欧州のクロスオーバー(投資適格と非投資適格の間に位置する債券)CDS(クレジットデフォルト・スワップ)は300bpを下回っており、今回の利上げが始まって以降最低位の水準になりました。VIX株式ボラティリティ(変動)指数は、少し上昇したものの、市場が動揺した時に達する水準に比べると依然として低位にあります。また、もし、バリュエーションに懸念がある場合には、米国市場を外して分散投資を行う機会はあると思います。2025年の予想にEPSに基づくPERは、米国のS&P500が19倍、ストックス欧州600指数が12倍になっています。

マクロ経済が好調であれば、利下げ回数は少なくなる  

市場が予測する欧米での利下げ開始は6月ですが、それまでにはまだ3か月あります。つまり、市場が利下げに対しどう反応するかを考える時間がもう少し残されています。世界の経済が上向いている状況で穏やかに利下げをすれば、債券市場のリターンは現状の利回り水準に近くなり、また、株式市場のリターンは企業業績の成長(市場予測では10%強)と同じぐらいになると見ています。もっと利下げを急ぐよう求める意見も見受けられますが、その場合、マクロ経済環境は悪化していると思われ、社債や株式にとっては、状況があまりよくないと思います。論争の的となる大統領選挙戦の前後でFRBが緩和を余儀なくされることは、好ましい投資環境とは思われません。今年の残りの期間は興味深いものになるでしょうが、今のところは社債投資戦略に魅力があると見ています。

データの出所:Refinitiv DataStream、Bloomberg。特に表記がない場合、2024年3月6日現在

過去の実績は将来の結果を示すものではありません

(オリジナル記事は3月8日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

本資料で使用している指数について

米国投資適格社債指数、米国投資適格社債(BBB格)指数、欧州投資適格社債指数、欧州投資適格社債(BBB格)指数、米国ハイイールド社債指数、米国ハイイールド社債(CCC格以下)指数、欧州ハイイールド社債指数、英国投資適格社債指数:ICE BofA各国債券指数を使用、同指数はICEデータ・インデックス社が公表している投資適格社債やハイイールド社債など各債券市場の値動きを示す指数です。

VIX指数 :シカゴオプション取引所がS&P500種指数のオプション取引の値動きをもとに算出・公表している指数です。

S&P500指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。

ストックス欧州600指数:STOXX社が算出・公表している欧州先進国における株式市場の600社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。

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