eコマースブーム後の展望は
キーポイント
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eコマース(電子商取引)は新型コロナパンデミック時にブームとなり、パンデミック前の2-3倍の速度で成長を続けた
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このところeコマースの成長は鈍化しているが、ヘルスケア、ホスピタリティ、一部の小売りセクターの成長は続いている
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強力な人口動態に支えられ、デジタル経済とeコマースは、長期的に様々な投資機会をもたらすだろう
新型コロナパンデミック(感染拡大)は、eコマースを含め、私たちの生活の様々な局面に影響を与えました。オンラインショッピングはパンデミック中にブームを迎えましたが、その後には何が来るのでしょうか?
世界が過去数十年間で急速にデジタル化していったのと同様に、個人消費もそのトレンドを追いました。
確かに、1982年に、ボストン・コンピューター・エクスチェンジ社が初のeコマースプラットフォームを開始し、その10年後の 1992年にブック・スタックス・アンリミテッドがオンライン・ブックストアを開始した初期から見ると、相当な進歩を遂げてきました。eコマースは今日広く普及しており、消費者は毎年何兆ドルもオンラインショッピングを使っています。1
eコマースは新型コロナウイルス流行前の数十年間に発展していましたが、世界的なパンデミック中にブームを呼び、全く異なるペースで成長が加速していきました。人々が安全な自宅にいるときに、eコマースが爆発的に伸びたのです。
パンデミックの最悪期が去った現在、残った問いは、eコマースは今後も拡大を続けるのか、それとも徐々に縮小するか、という点です。
パンデミック前後の世界におけるeコマース
私たちが今日知っている形のeコマースは、かなり以前に出現しました。1995年にアマゾン・ドット・コム が事業を開始しており 、世界的パンデミックよりずっと以前にそのプレゼンスを確立していました。2015年から2019年にかけて、米国の小売売上全体におけるeコマースの割合が、対前年比で平均1.4%伸びた2 ことも納得がいきます。
というのも、eコマースが本領を発揮すれば、消費者と小売業者の両者にとってウインウインの結果をもたらすからです。消費者はオンライン・マーケットプレイスの使い易さを評価し、一箇所で様々な商品を検索できるという利便があります。しかも全てが自宅という快適な場所から、お店の営業時間を気にせずに、自分に最も都合の良い時にいつでも買い物ができます。これに対し企業は、外国市場に進出したり、B2Bの販売サイクルを縮小したり、顧客のデータやインサイトの収集、スケールアップ、コスト削減など目的でeコマースを活用しています。
したがってeコマースは新型コロナウイルスの流行前に登場していましたが、パンデミック後により高いレベルに進化したのも驚きではありません。実店舗のみの小売店が2020年に多数閉店したことから、買い物のためにインターネットに向かった人が増大しました。ターゲット、ウォルマート、アマゾン といった大手小売企業は突然、書籍からオフィスチェアまで何でもワンストップで便利に購入できる定番のeコマースとなり、パンデミックの初期にはさらなる人気を集めました。
ショッピングの大半をオンラインで扱う大手小売企業が、顧客ニーズをまとめて引き受ける上で強みを発揮しました。リソース問題に直面した小規模の小売業者に比べ、世界的企業であるウォルマート は、サプライチェーン混乱への対応や発送問題の回避、在庫不足の克服において、より効果的に切り抜けました。
これを背景として、eコマースの前年比成長率はパンデミック中に3倍を超え、2020年には1.4%から4.6%に飛躍しました。3 eコマースの売上は2019年には世界の小売売上全体の15%を占めていましたが、2021年には21%に達しています。4 パンデミック後のeコマースは、パンデミック以前の2~3倍の速さで成長を続けており、今や2023年のオンライン小売売上は6.5兆ドルに上ると推定されています。5
とは言うものの、eコマースの最近のトレンドは異なる様相を示しています。
実際、新型コロナウイルス後の初期にあったオンライン消費ブームと比べて、eコマースの成長がこのところ衰えてきています。米国のオンライン売上の成長率は、2020年4~6月期の54.4%から2021年4~6月期には15.4%に落ち込みました。6 この40%の減少に続いて2021年4~6月期から2022年4~6月期にかけてもeコマースの成長は低下を続けましたが、15.4%から7.3%へと、より緩やかな低下となっています。
オンライン消費は全体的には低下していきましたが、産業別に見た場合に著しい差異があることは留意すべきでしょう。eコマースの成長は、ヘルスケア、ホスピタリティ、およびエレクトロニクス、衣料、デパートを含む一部の小売カテゴリーといったセクターでは堅調でした。7
さらに2022年7~9月期には、eコマース全体の成長が4~6月期の7.3%から10.8%に反騰し、およそ2,500億ドル拡大しましたが、これにはアマゾンがプライムデー セールスを6月から7月に移したこともひとつの理由になっています。8
今後の展望としては、eコマースの成長率と浸透度は近い将来にさらに拡大すると当社は予想しています。専門家は、米国の小売売上高全体に占めるeコマースの浸透度が、2024年までに26%(基本シナリオ)~28%(楽観的シナリオ)になると予想しており、パンデミック前の推定25%から見ると大きな伸びになります(下のグラフ参照)。9
米国のeコマース浸透度の推移
(全米小売売上高に占める割合。点線は新型コロナパンデミックがなかった場合の推定、青線は新型コロナパンデミックを経た基本シナリオ、緑線は楽観的シナリオ)
出所: アクサIM, US Census Bureau, Euromonitor, Prologis Research forecast, 2022年8月時点
eコマースおよびデジタル経済
持続可能なeコマースへの投資意欲がある責任投資家は、デジタル経済の投資機会に照準を合わせるでしょう。デジタル経済とは一言で言えば、デジタルトランスフォーメーションにより変容した、個人消費やB2Bのような従来の経済活動を指します。
多くのテクノロジーの到来と採用だけでなく、テクノロジーに強い若い世代の台頭により、投資家はデジタル経済に注目するようになりました。インターネット、安全な決済ゲートウェイ、半導体そしてその他のテクノロジーにより、実店舗での買い物はもはや消費者の唯一の選択肢ではなくなりました。
デジタル経済とは根本的に、人々、機器、データ、組織または企業の間に有意義なオンライン接続を推し進めることであり、eコマースは単に、今日のデジタル経済で最も高く認識され、広く使用されている一面を表しているに過ぎません。
デジタル経済が今日の世界の本質的な部分を変えつつあるため、投資家は注目し始めています。これにはまっとうな理由があります。デジタル経済は2つの強力な長期的要因(進化する人口動態およびテクノロジー)に支えられており、長期的な視点を持つ投資家にとって心躍る機会となる可能性があります。
結局、顧客プロファイルや消費者人口は進化しています。テクノロジーに強い若い世代が続々と労働市場に参入し、より高い購買力を得るようになります。その際、オンラインチャネル経由の消費の度合いが高くなると考えられます。このような長期的な人口動態のトレンドを見越して、今デジタル経済およびeコマースに投資することで、投資家は将来大きなリターンを得る可能性があります。
さらに、テクノロジーの進歩がオンライン小売業を加速させるでしょう。携帯電話がパワフルになり、ブロードバンドネットワークがレベルアップしたことで、オンラインショッピングがさらにスムーズでアクセスしやすくなりました。当社が楽観的な理由の一つは、ある際立った相関データにあります。支払い方法およびセキュリティシステムが改善を続けるにつれて、オンライン決済チャネルに対する消費者の信頼度が上がることで、このトレンドは今後も続くと思われます。
eコマースの次の段階
2023年以降、投資家はeコマースに今後何が到来するかに注目しています。
eコマースの成長は、パンデミック最盛期中にピークに達したときと同じレベルに戻るでしょうか?こういったピークはないかもしれませんが、eコマースの取引量は今後伸び続けると考えられます。
他方で、世界的パンデミックにまつわる事情から、eコマースの近年の成長に関する1年ごとの比較から結論が出せないことは明らかです。多くの消費者から実店舗という選択肢を奪った長いロックダウン(都市封鎖)の後、経済が再開しました。それ以来一部の消費者は実店舗におけるショッピングの喜びを取り戻しましたが、eコマースはパンデミック後も、より緩やかなペースでありながら、成長を続けてきました。
一部の消費者にとって「通常」への復帰とは、新型コロナウイルス前の、かつては普通だった消費習慣への復帰を意味していました。
つまり、衣料を購入する前に試着してみたい人もいれば、友人や親戚とショッピングモールに行くのが楽しい人、または地元のカフェやレストランに出かけるのが好きな人もいるということです。ここでのポイントは、社会的で対人的なエクスペリエンス(体験)に参加することを楽しむ消費者は常に存在し、インターネットは少なくともこれまでは、こういった側面になかなか対応できていません。
それでも、長期的なeコマースの成長トレンドが途切れたとは言えないでしょう。消費者の一部は対人的ショッピングの基本的なエクスペリエンスを求めて実店舗に向かうかもしれませんが、オンラインショッピングは顧客に数多くの魅力的な機能を提供しており、すぐになくなることはまずありません。
今後の展望として、小売企業は、デジタル戦略に投資し、eコマースの顧客エクスペリエンスを高めることのできるテクノロジーに力を入れることが賢明と思われます(もし、まだ投資を行っていないようであれば)。
変化しつつある人口動態や先端技術の採用増大といった、長期的に安定した成長要因があることから、投資家はデジタル経済に注目し、未開拓の投資機会を活用しようとするでしょう。
フルフィルメント(eコマース等における受注から配送までの業務のプロセス全体)や物流からデジタル広告、安全な決済その他まで、デジタル経済の中でもeコマース・エクスペリエンス全体に関連する機会の中に、当社は可能性を見ています。デジタル経済の総合的なバリューチェーンに大きく貢献する世界的成長企業に注目することで、投資家はeコマースの領域と広い意味でのデジタル経済一般の双方において、長期的な価値を見出せるのでしょう。
(オリジナル記事は3月23日に掲載されました。こちらからご覧ください。)
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