イスラエル紛争: 今投資家として知っておくこと
起きている事態
イスラエルの領土と市民への攻撃とその後の報復攻撃は、中東に重大な不安定さをもたらす可能性があります。状況は非常に流動的であり、今後の展開は未だ不明です。
しかし、イスラエルやこの地域の他の経済の見通し、そして石油価格の上昇、貿易や移動の混乱を通じて、世界の見通しに悪影響を与える可能性があります。世界市場が全般的に変動するリスクが明らかにありますが、現段階では具体的に市場がどう影響を受けるかは非常に不確実です。
市場の反応
攻撃はイスラエルの通貨シェケルに即座に影響を及ぼし、月曜日にほぼ8年ぶりの安値に下落し、一時は3%以上下落しました。イスラエル銀行が通貨防衛のために300億米ドルの外国為替流動性と150億米ドルのスワップを発表したにもかかわらず、通貨は下落しました。
しかし、これまでのところ、他市場での反応は緩やかです。確かに、このイスラエルをめぐる展開は、金利予想を形作る様々な要因に加わることとなり、また、当初の株式市場の下落を一部和らげています。世界の石油価格は、石油市場が混乱する可能性への懸念を一部反映しながら上昇しています。金、国債、米ドルなどの安全な避難所と見なされている資産も、攻撃の直後に価格が上昇しました。
市場の反応がこの程度にとどまる限り、イスラエルをめぐる事態が世界経済に広く影響を及ぼすリスクは限定的です。しかし、今後の展開は明らかに非常に流動的であり、綿密に注視する必要があります。
当社の見方
マクロリサーチ・ヘッド、David Page:
攻撃は地政学的な緊張を高め、世界経済の成長への逆風を強めて、今後数週間から数か月にわたってはるかに大きな混乱につながるリスクを高めました。
世界経済のリスクは、緊張の拡大と紛争の激化から生じることでしょう。これは、見通しを形作るための鍵となる二国間、地域内、および広範な世界の関係が今後どう動いていくのか、そのさまざまな展開の仕方によって決まる可能性があります。
イランの立場は、イスラエルの反応や、米国やサウジアラビアを含む広範な国際的な対応に影響を与えるという点で極めて重要です。サウジアラビアの対応は、特に石油市場の管理に関して非常に重要です。さしあたり、ロシアと協力して、石油価格を下支えするために石油生産を制限しています。近隣諸国はイスラエルに対し微妙で様々な反応を見せている為、当初石油市場は事態発生からここまで、1970年代に起こったオイルショックのような反応を見せていません。ただし、事態は綿密に注視する必要があります。
これらの政府や他の重要な地域の有力者らがたどる道は、範囲、深刻さ、期間の点で、この攻撃に対しイスラエルがどのように対応するかによって決まってくるでしょう。
確かに、緊張が広範囲に拡大し、世界の経済活動と市場が次第に混乱の度を増すという可能性はあります。
コア・インベストメント最高投資責任者、Chris Iggo:
ここ数週間、市場では、特に米国での金利見通しに注目が強まっているために、動きが不安定になっています。中東での出来事が欧米の金融政策に影響を与えるかどうかは明らかではありません。しかし、現在政策金利がピークに達しているとの期待は、世界的な政治的緊張の高まりの結果として強まる可能性があります。
通常、不確実性は「安全な避難所」とされる資産の購入につながる傾向があり、シナリオによっては、最近の国債利回りの上昇が幾分反転する可能性があります。世界に原油価格が持続的に上昇する場合、投資家は成長とインフレへの影響を改めてよく考える必要があります。この場合では、見通しに関して今ある懸念を悪化させ、株式市場と信用市場の変動が幾分高まる可能性があります。
中東のいくつかの発行体の債務はすでに影響を受けています。イスラエル自体が自国通貨と外貨準備に対する圧力に直面しています。しかし、イスラエルは湾岸地域の他の債券発行者と同様に、かなりの外貨準備を保有しています。対外債務市場で重要な発行体であるエジプトの動向は注意深く監視する必要があります。というのも、紛争から逃れた難民がエジプト経済に負担をかける可能性があり、IMFからの金融支援がより重要になってくるでしょう。トルコとカタールはこれまでのところ緊張緩和を求めており、自らを危機の仲介者なりうる立場にあると主張しており、市場に安心感を与える役割となっています。
株式市場では、イスラエルは、半導体、ソフトウェア、サイバーセキュリティ企業など、テクノロジー分野の様々な企業の研究開発(R&D)の本拠地であるという点で非常に重要です。
イスラエルは先進国に分類され、MSCIオールカントリーワールド指数の0.17%を占めていますが、広く使用されているテクノロジー指数(MSCIワールドIT)では約2%を占めています。紛争が激化し長期にわたる場合、イスラエルの現地で事業や研究開発を行う企業に混乱をもたらす可能性があります。
今後の見通し
事態が大幅に拡大する場合、世界経済に一層のスタグフレーション・ショックをもたらす可能性があります。
原油価格の高騰は、石油輸入国や燃料税が比較的低い国で最も強く影響を与え、様々な新興国経済や米国に圧力が集中する可能性があります。
一方、今後の展開をめぐり不確実性が高まってくると、特にこの地域での投資決定にも影響を強めますが、企業がリスクと不確実性への評価を更に進めるにつれて、その影響がさらに広がることも考えられます。
様々な影響が絡み合って、経済成長をさらに減速させ、インフレ率をより高くより長く続かせる可能性があります。これは、パンデミックとウクライナ戦争に関連するショックを緩和することにすでに苦労している各国の中央銀行にとって決して歓迎されるものではないでしょう。
極端な場合、事態が拡大すると、経済活動が大幅に減速する可能性がありますが、総合インフレ率とコアインフレ率の両方を上昇させるリスクもあります。しかし、今のところ、そのような見通しは依然としてリスクシナリオであり、当社は、流動的な今後の事態の展開に対し引き続き警戒を続けます。
(オリジナル記事は10月10日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
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