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サステナビリティ

気候変動:ネットゼロと世界の気温上昇の関係


  • 世界の温暖化の主因である温室効果ガス排出量の増加は、人間の活動の所産

  • カーボンニュートラル(炭素中立)、別の表現で「ネットゼロ」は大気中の温室効果ガスの濃度が上昇しなくなったときに初めて達成できる

  • ネットゼロに達するまで人類がたどる進路に応じて、最終的な地球の気温は産業革命前に比べて1.5 度、2 度または3 度も高くなる可能性がある

気候変動に関する政府間パネル(IPCC、気候変動の科学的評価を担う国際連合(国連、UN)の組織)からの報告は複雑ですが、最先端の分析を提供します。

IPCCの報告書「Climate Change 2021:Physical Science Basis(気候変動2021年:自然科学的根拠)」は、世界の温暖化の根本原因について明瞭な見解を示し、「人間の影響が大気、海洋、陸地に温暖化をもたらしたことに疑う余地はない」と断言しています。

さらに「人為的な二酸化炭素(CO₂) の累積排出量と人間の活動に起因する世界的温暖化の間にはほぼ直線関係が存在する」とも述べています。1

言い換えれば、気候変動は大気中の温室効果ガス(GHG)の濃度が上昇した結果です。人間の活動がこの原因であり、従って地球の温度上昇に責任を負います。

気候変動は、地球が直面している最大のリスクとして広く認識されており、近年に見られる数々の異常気象は、緊急対策が必要であることを物語っています。

以下は国連の警告です。「気候変動の最悪の影響を回避し居住可能な地球を維持するには、世界の気温上昇を産業革命前より1.5 度高い水準に抑える必要がある。現時点で地球の気温は1800年代後半に比べてすでに約1.1 度上昇しており、排出量は増加を続けている」2

したがって世界の温暖化をくい止め気温上昇を抑えるには、私たち(人間の文明) がCO2やその他の有害なガスの大気中への排出を止めなければなりません。

気候変動への対処については、用語「ネットゼロ」と世界の気温上昇を抑制するための行動(2つの関連した、しかし別々のテーマ)がよく議論されます。双方を以下で検討していきます。

ネットゼロへの道筋

IPCCの定義では、ネットゼロは人為的な(つまり人間の活動による)排出量が人為的な除去により相殺されるときにそう呼びます。これはCO2 を主な排出源としますが、メタンなど他のガスを含むすべてのガスの排出に適用されます。3

より簡単に言えば、大気中に温室効果ガスのこれ以上の増加はなく、濃度がさらに上昇することもないことを意味します。これは下図の黄色い線が示しています。温室効果ガスの純排出量が増加しない場合でも気温上昇が止まりますが、それまでの時間差があります。

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緑は総排出量、ピンクはシンク(吸収)、黄は純排出量  出所:World Resource Institute、アクサ IM

これは事実上、化石燃料の使用を劇的に削減し、産業プロセスを変革し、温室効果ガスの漏えいをインフラ設備に埋め込まなければならないことを意味します。

ネットゼロの「ネット(純)」とは、温室効果ガスの排出がまだ存在する(図1、緑のゾーン参照)ものの、これらは炭素シンク、つまり吸収(図1、ピンク)により相殺されることを意味します。吸収は主に、炭素消費に役立つ林地の増加などの自然ソリューションの利用や、炭素回収など炭素を大気から除去するテクノロジーによって実現されます。

「グロス(総排出量)ゼロ」の達成とは、人間の活動からの絶対的な排出がゼロである(グリーンの部分がなくなる)ことを意味します。ネットゼロの達成だけでも膨大な課題であり、グロスゼロはほぼ不可能と考えられます。

ネットゼロは、どの時点であれ累積排出量が上昇しなくなったときに達成できることは注目に値します。それが世界の気温上昇を決定するネットゼロの達成への不可欠な進路だからです。

要約すれば、地球上の人類への有害な影響を抑えるべきとするなら、ネットゼロが目標とすべき行き先です。

気温の制御

IPCCによれば、1850年~2019年の間の平均気温上昇は1.07 度と推定されています。4

地球の気候システムでは、温室効果ガスの排出時点から世界気温への最終的影響までに大きな時間差があるため、「地球表面の温度は少なくとも今世紀半ばまで上昇を続ける」と言われていることが重要です。

これまでの排出量はすでに、今後20~30年間の気温上昇を組み込んでいます。2041年~2060年と定義された中期的展望では、あらゆるIPCCのシナリオで、気温は産業革命前よりも最低1.6 度上昇し、かつ2 度を超えることが多くなっています。

2015年に開催された第21回気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)の最終日に署名されたパリ協定は「産業革命前に比べた世界の平均気温の上昇を2 度よりはるかに低い水準とするだけでなく、気温上昇を1.5 度に抑える努力を追求する」ことを目標としていますが、これはIPCCの最良の中期的シナリオ予想1.6 度を下回っています。5

パリ協定は、「ネットゼロ・アセットマネージャーズ・イニシアチブ(NZAMI)」や「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)」のような多数の気候イニシアチブに今日最も広く基準として使用されています。

気温は温室効果ガスの濃度の結果です。このパリ協定で目指された目標(またはその他のあらゆる目標)を達成するには、純排出量がある時点で100%削減され、ゼロに達しなければなりません。その目標の時期に対する設定はなく、排出量が削減されるスピードに左右されます。

人間社会が適度に低い温度に落ち着きたければ、排出量は早くカットされなければなりません。下図は異なるシナリオに基づく気温の道筋を示しており、温室効果ガス累積排出量が高くなると、結果としてどれだけ高い気温につながるかを如実に表しています。

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黒は現行政策を維持した場合で2.9度の高温のケース、点線は現行政策を維持した場合で2.5度の低温のケース、水色は2030年の目標のみを達成した場合で2.4度、紫は公約を達成した場合で2.1度、オレンジは楽観的シナリオ(ネットゼロ達成)、緑は1.5度を維持した場合 出所:World Resource Institute、Climate Action Tracker、アクサ IM

IPCCが2022年4月に発表した報告書「Climate Change 2022:Mitigation of Climate Change(気候変動の緩和)」では、以下の試算を提示しています。温暖化を2 度に抑えるには、排出量を2030年までに2019年と比べて27%削減し、2050年までに63%削減する必要があります。1.5 度に抑えるには排出量をそれぞれ43%、84%削減する必要があります。6

結論としては、こういった気温の道筋はネットゼロに到達するために人類がたどるべき道です。この道筋を進み終えるのは大変なことであり、努力して初めて達成できます。私たちがたどる道は、今日選ぶ選択肢によって決まります。待ち受けているのはいずれにしても険しい道であり、望む気温が低ければ低いほど、道のりは困難に満ちるでしょう。

それでも、重要なことは、私たちが化石ベースの燃料からよりグリーンで再生可能な代替燃料に移行することで、大気中の温室効果ガスを劇的に削減しなければならないこと
です。それができない場合、世界経済および人類と地球が繁栄する未来の展望を危うくなります。

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