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COP28:投資家は合理的に何を期待できるか


キーポイント:

  • COP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)に先駆けて、気候目標に向けたグローバル・ストックテイク(2015年のパリ協定の目標に向けた世界全体での進捗状況に関する実績評価)が初めて行われ、はるかに多くの行動が急務であることが浮き彫りとなった
  • COP28の議長役をめぐる論争に加え、優先課題に関する国際的合意の欠如が、行動を遅らせている
  • 当社グループは、この会議の成果のひとつとして、発展途上国への資金移転が増加することを期待しており、政府だけでなく投資家も重要な役割を担っていると引き続き考えている

国際連合による今年の気候変動会議、COP28は多くの意味で重要な節目になるとみられています。というのも、今回の会議は、いわゆるグローバル・ストックテイクに応えるものとなるからです。

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が9月8日に公表したグローバル・ストックテイクは、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書に対する2年間の分析に基いています。

COP28は、2022年に過去最高に達した二酸化炭素排出量1 について削減に向けた進捗が不十分であることと、アラブ首長国連邦が議長国であることの為に、早々に論争に巻き込まれています。

IPCCの報告書の結論は警鐘を鳴らすものになっています。報告書では、地球の温度上昇を産業革命以前と比べて2°Cを大きく下回るレベルに抑えるという方向性が軌道から外れていることと、気候転換の引き金を引く点に到達する可能性が高まっていることを警告しています。2

この報告書の調査ではさらに、気候変動に対する闘いに向けた資金調達に関して、二酸化炭素排出量を削減し気候変動への適応策を強化するための投資の流れが、現在の規模の約3倍から6倍に増える必要があることも明らかになりました。この懸念に加えて、最近では世界気象機関(WMO) が、世界のある地域では乾燥を引き起こし、他の地域では極端な洪水災害を引き起こす、そうした大規模な気候かく乱要因であるエルニーニョ現象の再来について警告しています。3

論争を呼んでいるCOP

一方、COP28においてアラブ首長国連邦(UAE)のスルターン・ビン・アフマド・アール・ジャーベル産業・先端技術大臣兼アブダビ国営石油会社(ADNOC)最高経営責任者が議長を務めるという発表は、当然ながら大きな論争を呼び起こしました。これには米国連邦議会および欧州議会の多くの議員から反対がありました。

さらに、省エネに関してUAEの実績が小さいことや、2030年まで同国の原油および天然ガスの利用を継続する意志を再確認したことが論争に拍車をかけました。4

当社グループの見方として、シリアのバシャール・アル・アサド大統領に対して戦争犯罪と人権侵害の告発があるにもかかわらず、UAEが同氏をCOP28に招いたという事実も、論争に油を注ぐことになっています。

ストックテイク:主要なポイント

UNFCCCのグローバル・ストックテイクは、パリ協定の目標達成からどれだけ遅れているかについて私たちの自覚を促しています。このストックテイクは、排出量の削減から森林破壊の阻止および資金調達の増強に至るまで、はるかに多くの行動が今すぐ、あらゆる面で必要であることを浮き彫りにしています。

ストックテイクは誰もが関与する必要があり、つまり国策を通した政府の関与だけでなく、あらゆる利害関係者による、より効率的な国際協調および改革を呼びかけています。また、先進国と発展途上国とのニーズのギャップを埋め、公正な移行の目標を達成するために必要な資金など発動する必要がある様々な手段についても詳細に示しています。

当社グループとして強調すべき点は以下の三点です:

  • ストックテイクでは、供給側および需要側の双方が対策を実施することを目的とし、あらゆる部門にわたりシステム変革が必要であることを強調しています。このことが強調すべき点である理由として、石油・ガス産業のみに焦点が当てられていることが非常に多い一方で、需要側を含む広範な構図について社会や投資家が十分には注目していないことが、多く見受けられます。
  • 森林破壊とは対照的に、ストックテイクは石油・ガスの生産を2030年までに削減することを求めていません。5 これは削減の努力や少なくとも増加しない努力を妨げるものではありませんが、暗示的ながら1.5°Cシナリオの関連からはある程度距離を置かざるを得なくなります。
  • 炭素回収は、全面的に使えるというものではないものの、炭素排出量削減が難しい部門では短期的には有効な選択肢として示されています。6 .

より実践的なCOP?

当社グループの見解としては、各国政府がこれまで団結して変化を主導・強制してこなかったために、COP28は実践的なものになっていくでしょう。もちろん、様々な障害、特に政治的、財政的、そして直近ではエネルギー安全保障の要因に関連した障害はあります。

こうした障害をおこす明白ではないものの懸念すべき原因は、世界で多極化が進んでいることです。これは、発展途上国に年間1,000億米ドルに上る資金移転を達成するという先進国の約束と実施状況とのギャップにより表面化し深刻化していますが、ギャップを埋めたとしても多極化の傾向を逆転させることにはなりません。中国とインドは依然として対立しており、中国とすでに難しくなりながらも関係を維持しつつ、一方でインドを支援しようとしている西側諸国にとって、国際協調は微妙なテーマとなっています。

議長国アラブ首長国連邦にとっての優先事項

UAEの優先事項は本質的に、革新的でも変革的でもありません。それらを要約すると、二酸化炭素削減策および気候変動適応策の強化、再生可能エネルギー容量に対する目標の上方修正、資金へのより公平な活用の擁護、そして気候災害により深刻な打撃を受けた脆弱な国々への融資を目的としたCOP27の「損失と損害基金」の運用化の要請に重点を置いています。7

当然のことながらUAEは、エネルギー安全保障の懸念を強調しながら依然として炭化水素を含む形での総合的なエネルギー転換を擁護する一方で、自然と海洋、食料と農業、健康、教育、女性の権利に関する様々な専門的テーマ別作業部会を設けています。

もちろん湾岸諸国にとっては、石油・ガスへの需要が減り価格が下がり始める前に、埋蔵する原油やガスをできるだけ収益化したいという明白な動機があります。しかし2030年までに供給を増大するか、安定化させようとするか、または削減するか、各々では明らかに大きな違いがあります。エネルギー転換およびADNOCの役割に関するUAEのアール・ジャーベル氏の発言を見ると、中期的に石油とガスの生産に引き続き焦点を当てることはほぼ疑いがありません。8

より広範には、COP28で行われるコミットメントを精緻に見ることによって、目標達成への意欲が強化されたのか、それとも問題を先延ばしにしているだけなのかを判断することができるでしょう。

当社グループは水素と炭素回収に強い焦点が置かれていることにも幾分疑念を抱いています。ここでもまた、罠は細部に潜んでいます。当社グループが以前に説明したように、水素および炭素回収の技術は特効薬的な解決策ではありません。というのも、水素についてはその使用が製鉄や長距離輸送など二酸化炭素削減が困難な部門に限られる可能性が高く、炭素回収に関してはコスト効果およびインフラ要件の面で疑問があるためです。9 炭素回収に関するUAEのプログラムが提案していると思われる内容とは逆に、鉱工業部門の大半において、まず最初に実際に排出量を削減するように調整しなければなりません。とりわけ石油・ガス部門はこの炭素回収技術に大きく頼ることができないために、ビジネスモデル全体を変える必要があります。

当社グループは、石油・ガス生産やビジネスモデルについて、UAEに議長国としてもっと野心的な目標を提案して欲しいと思っています。欧州では石油メジャーは通常、非政府組織や市民社会の運動の標的になっていますが、世界の生産量における割合でいえば、ADNOCのような国有石油会社の40%強と比べて石油メジャーは15%弱10 と、わずかな比率に過ぎません。このような国有石油会社は投資を拡大し変化を促すための技術力や財力を備えており、議長国であるUAEはこの点で模範を示して主導できるはずです。

大きな期待?

COP28がもたらしうる具体的な成果として当社グループが主に期待しているのは、発展途上国への資金移転の増強に関することです。しかしながら、COP27の「損失と損害基金」を効果的に運営することは、ブレンドファイナンス(民間資金を動員するために、公的資金などを戦略的に活用するファイナンス手法)に関連する障害に見られるように、単純ではありません。

気候変動への適応を促進するために適切な資金を動員することは大きな課題ですが、ここでもまた、政府が重要な役割を担っています。化石燃料、農業、漁業への既存の補助金を再割り当てすることにより、入手可能な食品価格を維持する為に欠かせない補助金を除いた数千億ドル11 が有効活用できるようになります。

当社グループは同様に、国際通貨基金および世界銀行の改革に関しても前向きな進展を期待しています。この改革によって、途上国向け融資への支援の為に、さらに資金を有効活用することができると思われます。12 .

投資家として、できることはすべて

COP28にむけた当社グループの期待が大きくない原因は、アラブ首長国連邦が議長国であること自体ではなく、優先行動に関する国際的合意の欠如および国際的協調を遅らせている世界の多極化の進行というもっと広い観点にあります。

当社グループは、COP28の議長国に関して論争することが誤りであると気づくことを望むと同時に、化石燃料生産の段階的な削減に向けた決定的な動きが見られない場合には、少なくとも基礎的なエネルギーインフラ投資を通じて、太陽光および風力に向けた重要な進展がCOP28で示されることを期待しています。

これによってのみ途上国は、自国の天然資源を収益化するか、気候変動の原因と闘うかのいずれかを取るという二者択一の選択を強いられなくなるのです。たとえば、アフリカ諸国には太陽光および風力エネルギーの大きな潜在成長力がありますが、現時点では、現地では風力発電や太陽光発電の大規模なプロジェクトが経済的に成り立つだけの需要がなく、また、グリーンエネルギーを生産しても貯蔵・輸出するためのインフラ能力がありません。

投資家としての私たちには、政府の行動に代わる魔法の杖がありません。しかし当社グループは、幅広く排出量を削減し生態系全体と需要のパターンを変えることに貢献できるように、他の民間企業と連動しながら提唱を通じて政府の行動を引き出すように求めていきます。

(オリジナル記事は10月19日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

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