資産運用会社は、自身のESG信頼性の問題について語るべき
キーポイント
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グリーンウォッシング(見せかけだけの環境対策や環境関連投資)に関する懸念は、持続可能性の主張に対する懐疑を反映している
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資産運用会社は変化を起こすための取り組みの一環で、自身の透明性向上に努める必要がある
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これにより投資先企業とのエンゲージメントが深まり、気候目標に向かう進捗が加速する可能性がある
責任ある資産運用会社はあまり認めたくないかもしれませんが、信頼性の問題に直面することがあります。
これはひとつには、資産運用会社の業務内容、業務の遂行方法、業務に関する理由について、より透明であるべき、という考えから来ています。
グリーンウォッシングがその良い例です。この話題がよく取り上げられている割には、資産運用会社の企業レベルでのグリーンウォッシングの重大な例は、依然として比較的稀です。資産運用セクターにおける大半の問題は、概して環境、社会、ガバナンス(ESG)要因の主観的な性質および、何が持続可能な投資であるかに関する定義面での不明瞭性を中心に展開しています。
これらが対処すべき厄介な問題であることは明らかです。ESG関連で期待に応えられないファンドを投資家が購入するのを防ぐ意図で、規制当局がラベル表示、開示、格付け制度を進展させようと努力しているのには理由があります。
それでも、グリーンウォッシングへの注目が、問題の規模と見合っているかどうかを疑問視するのは妥当なことです。私たちが読んだり目にしたりしていることのほとんどが、グリーンウォッシングの具体的な証拠というよりも、むしろグリーンウォッシングに対する恐れを示すものと結論づけられるなら、グリーンウォッシングへの注目に関する答えは「見合っていない」でしかありません。
資産運用会社は我が身をさらに明確にすべき
青天白日の下、資産運用会社は業界として、透明性に関する実績にはまだ不十分な点が多いことを受け入れるべきです。不十分なことが多いために不信感が生まれたわけです。持続可能性が投資環境の決定的な特徴となりつつある今、資産運用会社は有意義な変化を起こすための取り組みの中核的な部分として、これを機会に更にオープンな姿勢を取る必要があります。
投資家により完全な情報を提供することは、もちろんこの一環であるべきです。しかし責任ある資産運用会社とその投資先企業間の明らかな不一致に対処することは別の課題であるべきです。
今日、持続可能性に焦点を当てる大半の資産運用会社の基本的要求は、投資先企業が自社のESG戦略および方針についてオープンかつ明確であることです。全体的には、大半の企業がそのようにしています。投資先企業は、自社の炭素排出量開示などで顧客やその他のステークホルダーから圧力を受けており、進捗を示す必要性を認識しています。これはエンゲージメントの促進に役立ちます。
しかしここには、それ以上の進展を制限するリスクをもたらす非対称性があります。たとえば企業が十分に野心的な目標を設定できなかったり、報酬方針にESGの要素を組み入れるのを拒否する場合、資産運用会社は経営陣に反対票を投じることが(または投資撤退さえ)可能です。
問題は一般的に言って、資産運用会社が同じ基準を自らに課していないように見えることです。仮に資産運用会社が目標に達しなかった場合でも、投資先企業に対するものと同等の制裁が適用されません。これはしばしば、責任投資家自身が大量の労働力と著しいカーボン・フットプリントを抱えた大きな組織である場合に問題となります。
変化を起こすとき
多くの資産運用会社が、炭素排出量を削減し、その他の持続可能性目標の達成を誓約し、取り組みを行ってきました。たとえば300を超える組織が、業界にネットゼロ目標への取り組みを奨励しようとする「ネットゼロ・アセットマネージャー・イニシアチブ(NZAMI)」に署名しています。
NZAMIに取り組む資産運用会社は、定期的に自社の対策について報告し、目標を更新するよう求められます。さらにスチュワードシップの包括的実施も求められます。しかし単独の取り組みでは、資産運用会社とその投資先企業の間の相違を埋めることはできません。投資先企業の幹部は、株主(である資産運用会社の幹部)の報酬パッケージは依然として比較的リスクフリーなのに、自分たちの報酬パッケージだけがなぜ抵抗に遭うのか、不思議に思っているかもしれません。
アクサ IM が現在、当社上級職の報酬にESG目標を含めている理由のひとつがこれです。ESG目標と報酬を整合させることは目標達成へのコミットメントを示すだけでなく、資産運用会社が有意義な変化を起こすためのインセンティブを共有し、同じ道のりを進んでいる、というメッセージを投資先企業に送ることにもなります。
当社の見解では、これは企業との対話と高めるパワフルな方法です。そして、より多くの資産運用会社が、幹部報酬を独自のESG方針と透明性を持って関連づけるようになれば、インパクトは飛躍的に伸びるでしょう。そうすることで、進歩を加速するための取り組みの規模が拡大するだけでなく、ESG目標に対するコミットメントの後退を抑制させることにもなるでしょう。結局のところ、資産運用会社自体が、野心的な目標の設定と達成が可能であり、達成できなければ罰せられることを、自社の義務と進捗を証拠として指摘できれば、投資先企業幹部の言い訳は空虚に聞こえることになるでしょう。
過ちの余地はない
多くの手段が透明性に帰着します。資産運用会社が特定の指標を達成するための自己目標を明確に掲げ、自社の進捗を定期的に報告できれば、エンゲージメントの質を向上させられます。またこれにより投資先企業は、主要指標を達成するために全力を尽くさなくてよい理由が奪われます。
このことは、世界がどれだけ不安定な状況にあるかが驚くほど明らかになってきた今、とりわけ重要です。「気候変動に関する政府間パネル1 (IPCC)」による最近の画期的な報告書は、現在の温暖化カーブがパリ協定で定められた1.5˚Cの温度閾値を超える勢いであり、温室効果ガスがどれほど地球を変えつつあるかを赤裸々な詳細をもって示しています。
企業の観点からのポジティブなニュースは、物価の上昇や市場の大きな変動にもかかわらず、ほとんどの企業がESGのイニシアチブを放棄しなかったことです。米国におけるESGの反発は望ましくない動向ですが、規制と連携したエンゲージメントがより広範に、企業行動にプラスの影響を与えつつあります。
しかしながら、はるかに多くのことを早急に実現する必要があることが、ますます明らかになってきています。グテーレス国連事務総長は、IPCC報告書を受けて次のように述べています。「私たちの世界はあらゆる面で気候変動対策を必要としています。何でも、どこでも、すべて一斉に」。資産運用会社は、企業として、また資本のスチュワードとして、同氏の言葉を心に留め、破滅的な気候変動を回避するために可能なすべてを行うべきです。
(オリジナル記事は5月15日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
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