公正なCOP:グローバル生物多様性目標の遵守に必要なのは、革新的で持続可能な企業
キーポイント
- COP15では、188カ国の政府間で拘束力のない世界的合意が成立した1
- こうした定量的で時間的制約のあるコミットメントは、すでに各国の規制に組み込まれつつある
- この目標の達成義務によって、革新的で持続可能かつ効率的なソリューションを提供する企業の成長が加速する可能性がある
2022年12月、国連生物多様性条約の直近の会議であるCOP15(生物多様性条約第15回締約国会議)が開催されました。重要な点は、その成果として、188の加盟国が昆明・モントリオール生物多様性枠組(「グローバル生物多様性枠組(GBF)」)を採択し、2030年までの生物多様性損失の削減と緩和のための特定目標および2050年のゴールに向けた努力について合意したことです。企業やその事業が及ぼす影響を、有意義かつ具体的に評価することは、真の進歩を推進する上で極めて重要であり、GBFの採択は、企業が生物多様性への悪影響を軽減するためのポジティブな一歩であると考えます。当初の報道では、この協定は拘束力がないため、2015年のパリ協定と比較すると物足りないという見方もありましたが、よく考えれば、なぜCOP15の成果が重要なものになりそうなのか、その理由は数多くあります。その一つは、民間セクターがより多く参加することで、企業と政府間の透明性と整合性がより大規模に向上すると期待されることです。2 また、既にGBFの一部は各国政府やEUなどの規制当局によって施行されつつあります。EUはボトムアップ方式で同等の目標を採用し、率先して施行しており、関係者も驚くほど早く先進国の大部分において規制となる可能性があります。3
当社が考える最もインパクトのあるGBFの領域
より高いレベルの目標としては、2030年までに陸と海の30%を保護するという、いわゆる「30 by 30」の要件が設定されています。この目標は、一見広範に見えますが、実際のところ、主に食品産業が引き起こす森林破壊など、歴史的に生物多様性に大きな影響を及ぼしてきた複数の産業において、この目標を実施する必要があるという綿密な認識を表したものです。このような産業における改善は、「ナチュラ2000」のような既存の要件によってすでに始まっています。ナチュラ2000では、EUと英国で生物多様性の宝庫として認められている多くの地域を保護すべきだと規定しています。4
これは地球の未来にとって歓迎すべきことでありますが、また、先進的な考えを持つ投資家は、サプライチェーン全体での土地利用を可視化できていない企業に関して、将来起こり始めるリスクについても考慮する必要があります。既存の規制下では低リスクで収益性が高いと考えられる資産も、今後は取り残されるリスクが高まるかもしれません。生物多様性の重要性が認識されるにつれ、それに関連したフレームワークの導入が進んでおり、その結果、当社は責任ある企業において有望な機会が生まれていると考えています。ストラ・エンソ(Stora Enso)5 とUPM6 の2社がその例です。2社はフィンランドの紙・包装・木材製品企業であり、いずれも自社の森林資産から原料を調達しており、サステナビリティの信頼性が高まるだけでなく、サプライチェーンを可視化できるため、他の生物多様性の高い地域(多くは発展途上地域)に土地利用を委託する企業よりも幾分有利になります。
COP15のもう一つの大きな目標は、2030年までに全世界で農薬使用量を50%削減するというコミットメントです。これは、投資家にとって重要なことです。なぜなら、農薬メーカーは、規制強化の流れの中で、従来の製品群の需要が減少する可能性があるからです。これらの企業が、どのようにセンチメントの変化に対応し、より有害性の低い製品を開発するためのイノベーションに投資するかによって、このリスクをどの程度軽減できるかが変わってくると思われ、ケースバイケースで慎重に調査する必要があります。例えば、米コルテバ(Corteva)は種子と農薬の開発におけるリーダー企業であり、後者の売上が全体のほぼ半分を占めています。同社は、世界の食糧生産目標の達成に貢献するという点でポジティブなインパクトの可能性を持っていますが、危険性の高い農薬(HHP)から得られる大きな収益も無視できず、当社のバイオダイバーシティ戦略の対象銘柄からは除外しています。7
また、水質汚染、過剰な化学物質の流出、責任ある土地利用など、さまざまな要因で引き起こされる肥料による栄養損失を50%削減するという目標も、微妙なリスクを浮き彫りにしているかもしれません。イノベーションによってリスクがどのようにチャンスに変わるのかについては、ディア(Deere)の事例が参考になるでしょう。農業機械メーカーである同社では、ロシア・ウクライナ戦争による肥料価格の高騰や、ロシアが主要産地であるカリなどの原料サプライチェーンへの影響により、同社の精密農業機械に対する需要がすでに大きく拡大しています。また、こうした資材の有効活用や環境負荷の低減が、生物多様性の保全に大きく寄与することは言うまでもありません。8
最後に、GBFは、2030年までに一人当たり食品廃棄量の50%削減を求めています。世界的かつ地域的な問題としての食品廃棄物は、近年すでに大きく取り上げられ、消費者パターンも変化してきましたが、それは主に消費者や個人に焦点を当てたものでした。この目標は、個人と消費者へのプレッシャーを高めると同時に、政府(ひいては企業)レベルの責任もより重くするものです。このレベルの削減を達成するためには、小売業者と消費者の双方のレベルで、食品消費の効率化が必要なことは明らかです。また、不安定な地政学的情勢に伴う深刻な人道的コストに付随する、もう一つの世界的問題であるエネルギー危機との類似性も見て取れます。料金の高騰と供給の制約により、世界的な緊急の節電運動が起こり、企業や政府が迅速に対応したおかげで2022年の冬に達成した成果は、一部の分野では驚くほど効果的なものでした。9 このことは、食料生産に関して、これほど野心的な目標を達成できるかという点について、楽観的に考えることにつながるでしょう。
ここで参考になるのが、センサーを使った選別ソリューションを得意とするノルウェーのリサイクル企業、トムラ(TOMRA)です。トムラは、企業レベルと消費者レベルの双方からアプローチしています。食品生産者、卸売業者、小売業者は、廃棄物から食品をより高度に選別することで、廃棄を回避することができます。トムラは、このような設備をすでに全世界で13,000台導入しています。10 また、スーパーマーケットに設置されている、リサイクル可能な食品包装を返却して代金を受け取ることができる「逆販売機」を利用することで、消費者も自分の役割を果たすことができます。
すべてにおいて進捗が必要
これらの目標が良い出発点となる一方で、投資家、消費者、政府、政策立案者の皆が、これまでの評価に甘んじることなく、これらの目標やその進捗状況、測定方法について批判的に検証し続けることが重要です。これらの目標に対するモニタリング計画はまだドラフト段階であり、2024年に予定されているCOP16では、その時点でわずか6年後に迫っている2030年目標に向けて有意義な進展を可能にするために、モニタリング計画を整備し、十分に効果を上げることが極めて重要になります。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)や自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のような新しい枠組みや既存のトップダウンの枠組みは、楽観的になれる根拠となりますが、ますます緊急性を増す目標を達成するには、すべてのレベルにおいて勢いを維持することが必要です。
また、議論の多い「共通だが差異ある責任(CBDR、資源を大量に消費してきた先進国と、これから発展する途上国には、責任の重さに違いがあるということ)」と、微妙な地政学的背景を持つ加盟国間の意見の相違を解決すること、そしてこれを枠組みに明記するか気候政策に限定するかについても、より明確にする必要があります。11
また、生物多様性の損失を防ぐために各国が誓約した投資額も潜在的な懸念要因の一つです。生物多様性を保全するために必要な資金は、2030年までに年間5,980~8,240億ドル(約80兆7,000億円~約111兆2,000億円)に達すると推定されますが、これまでのところ、誓約はこの数字にかなり不足しています。誓約額を増やせるか、効率化が図られて全体の見積額が過大なものになるかは、まだわかりません。
より楽観的なことを言えば、2015年以降、環境意識が大きく向上したことを忘れないことが重要です。パリ協定は締結国を拘束する必要がありましたが、地球、グローバル社会、経済の未来に影響を与える証拠、認識、最悪の予測によって生じる圧力のおかげで、拘束自体はそれほど重要ではなくなっています。土地利用とその影響は、COP15の主要目標の中で繰り返し取り上げられるテーマです。規制強化の流れは、企業にとってリスクと機会の両方をもたらす大きな要因です。そして、自然資本の本質的な価値に対する意識の高まりを認識しつつ、今、適応し、革新し、改善しようとする企業こそが、長期的に最も成功する可能性が高いでしょう。
記載の企業は2023年3月3日時点での例示のみを目的としています。
(オリジナル記事は3月6日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
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