トランポノミクスが引き起こす2025年の新たな展開
米国の選挙とドナルド・トランプ次期大統領が公約した過激な経済政策は2025年のマクロ経済の動向に大きな影響を与えます。主要国の現在の勢い(または勢いの欠如)を反映して年内の経済情勢は概ね固まっていますが、「トランポノミクス」が今後すべてに影響を及ぼし、新たな展開をもたらすと見ています。
ジョー・バイデン政権は、好調な経済をトランプ次期政権に残すとみられます。米国の高い成長率は過熱しているのではなく潜在成長率を反映したものと考えます。失業率は比較的低水準で推移しています。インフレ率は目標(2%)を約1%上回っていますが、米連邦準備制度理事会(FRB)は選挙前、2025年内の2%達成に自信を示しました。個人消費は堅調で、消費者はコロナ禍に蓄積された過剰貯蓄を着実に減らしています。これは、消費者が楽観的な見通しを持ちながらも有権者としてはそれとやや異なる投票行動を取ったことを示唆していると思われます。インフレ抑制法と人工知能(AI)への支出は好調な非住宅投資をもたらしています。
経済見通し
政権は交代しますが、2025年も経済が堅調を維持する可能性は極めて高いと見ています。ネガティブな面では財政赤字が巨額になっていることです。議会予算局は、公表済みのトランプ減税を除いても巨額の財政赤字が当面続くと予想しており、これは対GDP債務比率の着実な上昇を意味すると考えます。
この基本線からスタートすれば、関税や減税、規制緩和、強制送還などのトランプ氏が意図する政策は全体として経済の過熱、金利上昇、ドル高につながる可能性が高いと考えられます。
関税は、強力な報復措置や大幅なドル高によって相殺されない限り、減税や金融セクターで見込まれる規制緩和と同様、需要を増やす可能性が高いですが、関税の場合は効率性を犠牲にし、減税の場合は債務の持続可能性を、金融セクターの規制緩和の場合は金融の安定性を危うくすると思われます。もっとも、これら3つとも2025年の段階では小さな影響を及ぼす程度と見ています。
強制送還は、発表されたものに近いレベルで実施されるならば、労働力の供給を抑制し生産能力を引き下げます。需要拡大と供給減少により、2025年にインフレが再燃する可能性は十分にあると見ています。そうなれば、トランプ政権とFRBの対立が生じかねません。少なくともジェローム・パウエル氏が議長の座にある2025年に関しては、インフレ再燃の場合にはFRBがその責務に従って実質金利を引き上げ、さらなるドル高をもたらすことはほぼ間違いないと筆者は考えています。
異なるシナリオになる可能性はあるでしょうか。答えはいつものようにイエスです。関連性があっても定量化が難しい要因の一つとして、不確実性が投資などに及ぼす影響があります。投資するかどうか、どこに投資するか、サプライチェーンをどのように整備するかは、市場へのアクセス、外国からの直接投資に対する制限措置、輸出産品の原産地規則などに大きく依存します。米国が関税をかけた場合、欧州と中国による報復と複雑な関税ゲームにつながる可能性が高く、先行きが見通せないため企業が待ちの姿勢を強め投資を見送ることも考えられます。インフレに関する不確実性が消費にも影響を及ぼす可能性があります。したがって、経済活動が減速する可能性はあると考えます。ただし、その可能性は高くないと見ています。
ユーロ圏の成長を妨げる障害
ユーロ圏に目を向けると、米国とは出発点が非常に異なるようにみえます。経済指標は物足りないですし、経済見通しに関して、またそれを改善するための政策的余裕が極めて限られていることに関して悲観的なムードが漂っていると思われます。
失業率はヨーロッパの歴史的基準から見ると低い水準に収まっています。問題は生産性の伸び、さらに言えば潜在成長率です。2010年以降、ユーロ圏の一人当たりGDP成長率は年間0.8%であるのに対し、米国は1.4%です。さらに、両者の差は過去5年間で拡大し、ユーロ圏の一人当たりGDP成長率がゼロであるのに対し、米国は1.8%です。
データを詳細に見ると、この差は主としてユーロ圏の情報・通信技術集約型セクターにおける生産性の伸びが米国よりも低いことに起因していると考えます。
マリオ・ドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁が欧州連合(EU)の競争力に関する報告書で、状況が変わらなければ衰退の「緩やかな苦しみ」を味わうことになると警告し、政策立案者の間で反響を呼んでいます。
しかし、改革を実施し、必要な公共投資の資金を調達する能力は国レベルでもEUレベルでも極めて限られています。消費者信頼感(指数)は低迷していますし、EU規則で義務付けられている財政再建も需要低迷の一因となっていると見ています。結果として、インフレが抑制されている状況を踏まえ、ECBはかなり緩和的な政策をとることになると考えます。筆者は、現在の金利見通しが高すぎると考えており、ゼロ金利に戻る可能性も排除しません。この状況と米国とを比較するならば、筆者が確信しているユーロ安ドル高の根拠はさらに強化されると思われます。
トランプ氏の政策はユーロ圏の見通しにどのような影響を与えるでしょうか。その答えは、報復の程度と形態によって大きく左右されます。強力な報復をしない場合、その影響は米国が受ける影響の裏返し、すなわち対米輸出の減少とユーロ安になる可能性が高いでしょう。中国の米国向け輸出に対する米国の関税引き上げの影響は複雑です。EUは中国の対米輸出の一部を代替できる可能性がある一方で、中国が依然として輸出に大きく依存している範囲で、中国は輸出を欧州に振り向けようとする可能性があるからです。
関税の引き上げ
米国の措置とは無関係にさらに話を複雑にしているのは、欧州と中国も関税を引き上げつつあり、輸出入が減少していることです。結局のところ、主要な3地域の間で展開されている商業戦争はまだ予断を許さない状況にあると見ています。当面、ユーロ圏の成長力の弱さが2025年の域内のマクロ経済動向を支配する可能性が高いとみています。
その他の地域では、新興国がトランプ氏の政策とそれによって起きるとみられる貿易戦争の影響をはるかに大きく受けると思われます。影響はメキシコで最も顕著ですが、ベトナムなどでもみられます。これらの国は、サプライチェーン内で格上げされることで成長してきましたが、排除されたりどちらか一方の側に付かざるを得なくなったりする可能性があると見ています。
こういった影響が現れるまでには時間がかかるかもしれません。それより前に、多額のドル建て債務を抱える国々は米金利上昇とドル高のため厳しい状況に置かれると考えられます。こういった国々が、米国を除けばトランプ氏の政策が2025年に最も大きな影響を与える地域となる可能性は十分にあると見ています。
本稿に記載されている見解や意見は筆者のものであり、アクサ・インベストメント・マネージャーズ・グループの見解を反映しているとは限りません。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
(オリジナル記事は12月4日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
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