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マクロ経済

ウクライナ危機:市場および世界経済への影響は


ロシアのウクライナ侵攻は、人的被害だけでなく、経済的被害も大きいと思われます。政治的緊張が軍事衝突にエスカレートしたことで、世界の株式市場は一時的に大きく売られ、原油価格は7年ぶりに1バレル100ドルを超える水準となりました。

ウクライナを巡る情勢は、当初の市場変動にとどまらず、世界のエネルギー供給、インフレの行方、金融政策に影響を与える可能性があります。さらに、ロシアに対する制裁措置と、それがもたらす広範な経済的混乱も考慮する必要があるでしょう。

以下では、アクサIMの5人の専門家が、ウクライナ危機についてそれぞれの考えを述べています。

ジル・モエック、アクサグループ・チーフエコノミスト兼アクサIMリサーチヘッド

国際社会は、ロシア中央銀行が保有する準備資産へのアクセスを制限することに乗り出しました。一部の資産は西側諸国の手の届かないところにありますが、大半はNATO諸国で保有されています。そのため、ロシアが自国通貨の補強に使うことはできず、大規模なルーブル安を目の当たりにしました。ロシアではすでにインフレが進行していましたが、さらに加速し、購買力が低下し、景気後退の引き金となることが予想されます。また、ロシアの銀行は、国際的な決済システムであるSWIFTへのアクセス制限に耐えなければならず、国内外への資金移動に関するパニックが起きています。ATMに行列ができるなど、本格的な取り付け騒ぎに発展する可能性が高いとみられます。もちろん、ロシアの中央銀行は紙幣を刷り続けることができますが、それはさらなるインフレ圧力を煽って問題を悪化させるでしょう。

しかし、国際社会はロシアをSWIFTから完全に切り離すことはせず、また、ハードカレンシーを切実に必要とする状況のため、ロシアが石油やガスを世界、特にヨーロッパに販売せざるを得ない状況を望んでいるので、SWIFTに関してある程度の余裕を持たせています。

ロシアは経済規模が大きいわけでもなく、国際貿易の主要プレーヤーでもありません。それよりも重要なのは、ヨーロッパが依存している石油とガスの輸入です。すでにガスの卸売価格は大幅に上昇しており、欧州の購買力を直撃しています。また、天然ガスは発電向けの主要エネルギー源であるため、電力も非常に重要な経路です。このような背景から、スペインやイタリアといったすでに脆弱な国々に影響が及んでいます。

もし危機が続き、原油が1バレル125米ドル、ガスが1メガワット時あたり125ユーロになれば、ユーロ圏のGDP成長率への影響はかなり大きく、おそらく今年と来年のGDP成長率が1パーセント・ポイント下がる可能性があります。注目すべきは、これは欧州にとって大きな成長ショックとなるが、世界の他の地域にはそれほど深刻な影響を与えないということです。

欧州中央銀行(ECB)は危機以前よりもはるかに慎重になる可能性が高く、少なくとも12月まで利上げは行わないと予想されます。同様に、ECBはもうしばらく量的緩和を継続すると思われます。欧州は全体として、ロシアの石油とガスへの依存が地政学的な頭痛の種であるため、エネルギーミックスを見直す必要があります。また、今回の危機は軍事費の増額を誘発し、欧州全体の財政を圧迫する可能性が高くなります。

セルジュ・ピゼム、マルチアセットインベストメント・グローバルヘッド 

今回の危機は、ヨーロッパにとって目覚めの一歩となります。地政学的にも大きな転換期を迎えています。私は、防衛やサイバーセキュリティへの支出が増加し、ヨーロッパにおけるNATOの存在感が増し、ロシアのガスへの依存度が下がるとみています。これはすべて、将来に大きな影響を与えるでしょう。

1960年代後半、ロシアは世界のGDPの約20%を占めていましたが、今では2%以下となっています。ロシアはコモディティ(石油とガス)が豊富で、経済的には小さなプレーヤーですが、軍事的には積極的なプレーヤーです。プーチン大統領が何を望んでいるのかを理解しようとするのは難しい問題ですが、ウクライナ侵攻に関して国民がプーチンを支持しているようには見えないため、後にロシアで「アラブの春」のような瞬間が訪れる可能性はあるとみています。

過去の実績を将来のリターンの目安とするべきではありませんが、過去50年間の軍事的な出来事を見て分かるのは、危機が勃発した日の取引は望ましくないということです。1990年のイラクのクウェート侵攻は最悪なものでしたが、市場は4カ月で反発しました。2001年9月11日の後、市場は損失を回復するのに3週間かかりました。1

今回の危機は、新型コロナ・パンデミック以降、世界経済が再加速し始めたときに発生しました。この危機が需要を減らせば、インフレの緩和につながる可能性もあります。ファンダメンタルズの観点からは、景気の回復と供給問題の緩和は、企業の収益成長にとって良い兆候であると考えています。

市場の観点からは、名目債券利回りとインフレ期待のギャップは双方から縮まると考えています。このため、プーチンの動機とこの危機からどう脱するかについて疑問はあるものの、株式については、適度に積極的な見方を維持しています。投資適格社債については、スプレッドの縮小によりバリュエーションが魅力的でなくなっているため、より慎重な見方をしています。コモディティとソブリン債については、中立とします。前者については、地政学的緊張の高まりが商品市場を支える一方、供給制約は徐々に緩和されると考えます。この危機は、特にロシアのガスへの依存度が高い欧州において、エネルギー価格の上昇によりインフレ傾向が加速するでしょう。

結局のところ、現時点では、冷静に危機を見通すことが肝要であり、過去の軍事的事件の際の市場動向が物語るように、長期的な投資信念を貫くことが賢明であると考えます。

マグダ・ブラネット、エマージング市場及びアジア債券ヘッド

投資家は、ウクライナ危機によって、新興国債券(EMD)のユニバースにおいて波乱に満ちた日々を過ごしています。しかし、ロシアとウクライナの債券は世界の債券のごく一部に過ぎないという点を認識しておく必要があります。ロシアがウクライナに侵攻するまでは、ロシアのバランスシートは新興国市場の中でも最も強固なものでした。そのため、債務返済能力に問題はありませんでしたが、現在ではその支払い意欲に疑問が持たれているのは明らかです。

2月28日、ロシア中央銀行は国内の証券会社に対し、海外投資家からの売り注文を執行しないよう指示しました。これは主に現地通貨建ての商品を対象としたものでしたが、国際金融機関が現地通貨とハードカレンシーの両方でロシアの債務の見積もりと決済から撤退し始めたことが、この反応につながっています。現在、投資家は宙に浮いた状態です。私たちは、たとえ規制があってもロシアは国債を発行できると考えていますが、制裁への報復として発行しないことを選択する可能性もあります。

企業に関しては、SWIFTの問題や、企業が決済を行えるかどうかという点で、一定の懸念があります。もし、決済が完全に停止するような事態になれば、ロシアの企業セクター全体がデフォルトに陥る可能性があります。しかし、企業部門は海外に資産を保有しているため、支払い意欲も能力も非常に高く、こうした制限を回避することができます(SWIFTから遮断された銀行はごくわずかです)。また、米ドル資金へのアクセスを維持するために、債務を履行したいと考えるでしょう。企業が外部からの資金調達を断たれれば、プーチン大統領に対するオリガルヒ(政権に近い新興財閥)の圧力が強まるはずです。彼らはすでに個人資産で制裁の打撃を受けており、企業までも倒産させたくないからです。

ウクライナは、政府は債務を支払う意思が強く、西側から十分な資金援助を受けており、現政権が続けば、債務再編さえも穏便に済むと考えます。もし紛争が終結し、ロシアが押し付けた新政権が誕生すれば、状況は異なった方向に向かい、より厳しい債務不履行イベントが待ち受けることでしょう。より広い意味で、新興国市場への伝染リスクは今のところ穏やかです。一次産品輸出国、例えば中南米や中東の石油輸出国には「勝ち組」が存在します。アジアはより守られていますが、インフレが伝染の経路となる可能性があります。しかし、もしそうなった場合でも、穏やかなものに留まると見ています。

マーク・ハーグレイブス、アクサIMエクイティ・グローバルヘッド

短期的には、大きな不確実性があり、株式市場は、特に欧州ではニュースの流れに敏感であり続けるでしょう。一方、米国とアジアはウクライナ情勢の影響を受けにくい状況です。なお全体としては、少なくともこれまでのところ、市場は比較的底堅く推移しており、2月下旬に売り込まれたものの、その後は緩やかに回復しています。2 また、株式のバリュエーションは決して低くはありませんが、過去6ヶ月間に成長株からバリュー株に大きくシフトしたため、非常に高い水準から引き下げられ、より魅力的なものとなっています。

現時点において、主要国経済および企業収益へのウクライナ危機の影響は、投資家にとって対処可能なものであると思われます。リスクは、エネルギー供給のより重大な途絶と、それに伴う経済活動への影響にあります。

今後数ヶ月の間、株式市場では業績の下方修正が行われる可能性が高く、新型コロナパンデミックからの当初の業績回復を経て、より中期的な株式市場の環境へと移行しつつあります。過去18ヶ月間、市場は金融、エネルギー、商品銘柄に牽引されてきましたが、現在、金融は短期的なリスクに直面し、エネルギーと商品は現在の収益サイクルのピークに達していると思われます。

利益成長率は、2021年に30%-40%だったものが、2022年には1桁台の成長率に減速し、下振れリスクがあるため、よりディフェンシブで長期的なグロース企業へのローテーションが進むと予想されます。3 これは、特に米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めへの懸念が、長期的なグロース企業の高いバリュエーションを低下させ、その結果、そういったグロース企業の相対的なバリュエーションプロファイルが向上しているという事実によって裏付けられています。

したがって、業績見通しに重大な影響を与えるような紛争の激化がなければ、金利サイクルがより穏やかになることと相まって、2022年の株式市場は、より質の高い、より構造的なグロース企業に主導権が移行していくことになるでしょう。

長期的には、欧州ではエネルギー安全保障に大きな焦点が当てられ、ロシアのガスへの依存度を減らすための液化天然ガス能力の開発と、低炭素ソリューションへのシフトの両方が顕在化すると思われます。そして特に、エネルギー貯蔵の経済規模の拡大を加速させることになるでしょう。 

株式のリターンは、一般的には企業収益によって決まるものであり、歴史的には紛争が収益に重大な変化をもたらすことはありません。より広範なマクロ経済的トピックスが、長期的にはより大きな影響を与える可能性が高いといえます。現在、中期的な株式リターンに最も大きな影響を与えるのは、人口動態と技術革新という構造的な力であると我々は考えています。

クリス・アイゴー、コアインベストメントCIO 

ウクライナでの軍事衝突により、私たちは今、非常に不確実な世界に生きています。事態がどのように進行し、どのように終結するのか、そして最終的にどのような結果になるのか、見通すことが困難な状況です。そのため、2022年の経済や市場の見通しもはっきりしません。

しかし、透明性の欠如は投資家にとって難しいことではありますが、パニックを避け、事態の推移を見守ることが肝要です。国際社会が下す決定や制裁は、ロシア企業との決済や貿易を混乱させ、ロシアの債務処理に深刻な影響を与えるでしょう。

もちろん、金融の流れやサプライチェーンなど、この混乱に起因する未知の事態が発生する可能性もあります。

分かっているのは、エネルギー価格が以前よりさらに上昇し、インフレがさらに進行し、特に欧州の経済成長にとってマイナスになるということです。成長率とインフレ見通しの悪化は、株式市場やクレジット市場においてリスクプレミアムの上昇を要求し、私たちはすでにそれを目の当たりにしています。

しかし、主要中央銀行からタカ派的な発言は少なくなると思われ、市場は既にこれまで想定されていたよりも利上げが少なくなると予想しています。

債券市場では利回りが低下し、今後数年間は債券利回りが積極的かつ持続的に上昇することはないと市場は見ています。過去6ヵ月間、実質利回りの上昇は、グロース株からバリュー株へのローテーションに連動していることが確認されています。実質利回りの低下という逆転現象は、グロース株への回帰をさらに後押しする可能性があります。

欧州は、成長率と収益の面で打撃を受ける可能性が高いといえます。収益がそれほど落ち込まなければ、株式市場はすでに魅力的なバリュエーションに近づいています。

しかし、私たちが本当に望むのは、敵対行為の停止、エネルギー市場の圧力の緩和、そして今後の明確な政治的な道筋です。まだそのような状況にはないため、当面は不確実性が市場を支配するでしょう。

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