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マクロ経済

2024年米国大統領選挙: 世界への影響の可能性

主なポイント
米国大統領選は、カマラ・ハリス副大統領が民主党候補に指名されて以来、接戦が続いていますが、現在、ハリス氏が優勢となっています。しかし、トランプ氏が勝利すれば、関税やエネルギー、地政学に関する政策が大きな要因となり、米国以外の国々も非常に大きな影響を受けることになります。
トランプ氏の関税策は世界的に影響すると思われます。中国に対する60%関税は中国の成長に比較的大きな影響を与えると見ています。アジア新興国市場への影響は、この地域からの輸出に需要が強まるため、まちまちと見ています。欧州は直接的な影響はあまり受けないと見ています。一方、米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)について、再交渉には注意が必要と思います。
トランプ氏は太平洋条約機構(NATO) やアジア太平洋地域に対して米国の安全保障の提供を削減すると脅しています。これは各国の防衛費、特に財政がひっ迫している欧州諸国には影響が大きいと思います。
さらに、トランプ氏の政策は米国の経済成長や金利、ドルに影響し、世界に波及する可能性があると見ています。

接戦

当社グループは夏前に、次の大統領選挙と、それが米国経済に及ぼす可能性がある影響について考察しました1  。当時は、ジョー・バイデン大統領が選挙戦から撤退し、カマラ・ハリス副大統領が指名されたばかりでした。世論調査全体の支持率で、ドナルド・トランプ前大統領は、バイデン氏に対してそれほど大幅ではないものの、ハリス氏を少しリードしていました。その後、ハリス氏の支持率は上向いてきました。ハリス氏は1.7ポイントの劣勢から盛り返し、現在はトランプ氏を2ポイントリードしています2

図表1は、このような民主党支持率の改善が接戦状態の州にも及んでいることを示しています。ハリス氏は現在、大半の接戦状態の州で追い上げ、共和党とほぼ互角の状態にあります。ネバダ州やミシガン州、ウィスコンシン州では、ハリス氏がわずかながらリードし、ニューハンプシャー州ではリードを広げています。唯一、フロリダ州だけが一貫してトランプ優勢を維持しています。図表2は、この世論調査に基づくと、依然としてトランプ氏が選挙人の獲得数では上回っていますが、主要8州の内7州が世論調査の誤差範囲内にあります。1984年以来、毎回の選挙結果を正確に予想してきた米国の歴史家アラン・リヒトマン氏は、ケネディ氏が大統領選から撤退を発表した後、ハリス氏勝利の予想を公表しました。

しかし、図表3を見ると、選挙結果が確定しているとは言い難いことがわかります。8年前、ヒラリー・クリントン氏はこの段階でトランプ氏を大きくリードしていましたが、その後、敗れました。4年前も世論調査ではバイデン氏が大きくリードしていましたが、最終的にはリードは半減し、3つの主要州でわずか43,000票差で勝利しました。9月のテレビ討論会でハリス氏が見せた説得力のあるパフォーマンスは、初期のハネムーン期間(批判が抑制的になりがちな最初の100日間)と民主党大会後の支持の後に、一時的に勢いが減速するという状況を食い止める効果がありそうです。

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本レポートでは、米国の大統領選が世界に与える影響について考察します。ハリス氏が勝利すれば、米国内の活動の見通し(特に分配面)に重大な影響が生じる可能性があると当社グループは考えています。ただし、ハリス氏は議会分裂に直面することになり、大胆な政策の実施が妨げられるとの予想に変わりはありません。したがって、ハリス氏の勝利が世界に与える影響は、米国の経済成長が与える程度の波及効果にとどまる見込みです。

図表2:トランプ氏は選挙人の獲得では依然優勢

一方、トランプ氏が勝利すれば、多くの国の経済に直接的な影響が及ぶと見ています。同時に、一連の措置が始まるのに伴い、多くの間接的な影響が生じる可能性もあると見ています。ここでは特に、トランプ氏が提案する関税政策の影響について取り上げます。これまで、価格面で外国の製造業よりも米国内の消費者への影響が大きくなりそうだと当社グループは説明してきましたが、取引量の面では、トランプ氏が選挙運動で怒りの矛先として60%の関税率を提案している中国への影響が大きくなる可能性が高いとみられます。一方、ユーロ圏に対する関税率は加重平均で見ると現在の5%程度から10%となり、おそらく相対的に低い関税率が適用されると見ています。しかし、欧州連合(EU)が対抗措置を講じたり、EU各国が炭素国境調整メカニズムにより炭素排出量への取り組みを進めたりすれば、貿易摩擦がさらに悪化する可能性があると見ています。

図表3:ハリス氏はトランプ氏をリードしているが、クリントン氏の時はさらに大きなリードがあってもトランプ氏に敗れた

これらの政策により、トランプ氏の主張に反して、米国の金利とドルは上昇する可能性が高く、そうなれば、世界経済、特に新興国市場が影響を被ることになると思われます。

安全保障に関するトランプ氏の発言の影響についても取り上げます。北大西洋条約機構(NATO)に対するトランプ氏の敵対的な姿勢や、ウクライナ紛争の和解の提案は、欧州からの安全保障上の撤退の時期を示唆している可能性があります。ロシアのウクライナへの侵略行為が長引く中、欧州は防衛費をソ連崩壊後の「平和の配当」(軍事費を教育や産業など民生用に振り向けられる状況)以前の水準に戻さなければならない可能性がありますが、欧州にはその資金を捻出できる経済状態の国はほとんどないと見ています。トランプ氏は、アジアでも安全保障について提供を減らす、または、取引的な関係を強めると脅してきました。そうなれば、東南アジアでの米国の安全保障上の拠点も少なくなり、この地域の多くの国に影響を及ぼす可能性があると考えられます。

さらに範囲を広げ、環境に対するトランプ氏の姿勢についても検討します。トランプ氏は、大統領1期目のパリ協定離脱に続き、気候変動回避政策を弱体化させると予想されます。バイデン氏が署名した歳出法案をトランプ氏が完全に覆す可能性は低いと当社グループは主張してきましたが3 、トランプ氏は石油とガスの生産の規制緩和を行うことで、両方の生産量を増やす方針だとみられます。これに伴い、短期的にはエネルギーコストが低下し、世界的にインフレ見通しが軟化する公算が大きいものの、中長期的には、米国の温室効果ガス排出量が高止まりすることになると見ています。

以下では、まず欧州と中国への影響について考察してから、アジア新興国市場、日本、メキシコ、カナダ、欧州新興国市場に見通しを広げます。

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