クリーンテック戦略月次レター:持続可能な食品・栄養補助食品メーカーの高度化に注目
クリーンテック戦略月次レター(2023年4月の振り返り)
持続可能な食品・栄養補助食品メーカーの高度化に注目
G7環境相会合、再生可能エネルギーの導入拡大目標を打ち出す
当月のグローバル株式市場は、エネルギー価格下落による先進国でのインフレ率低下の兆しや経済指標の底堅い推移を受け、上昇しました。欧州各国および英国が堅調だったのに対し、中国は軟調でした。セクター別では、エネルギー・セクターや生活必需品、ヘルスケアなどのディフェンシブ・セクターが堅調だった一方、一般消費財、情報技術セクターのパフォーマンスは市場全体を下回りました。バリュー関連銘柄がグロース関連銘柄を僅かながら上回るパフォーマンスとなりました。
4月のクリーンテック戦略は、「持続可能な食糧供給」などが好調でしたが、「低炭素輸送」と「スマートエネルギー」の低迷により、グローバル株式(MSCI ACWI、ドルベース)のパフォーマンスを下回りました。
DSM、香料メーカーとの合併統合で持続可能な栄養・美容関連事業に注力
持続可能な食糧供給関連分野では、オランダの食品・飲料・栄養補助食品メーカーであるDSMがプラス寄与となりました。同社はスイスのフレグランス・香料メーカーのフィルメニッヒとの合併統合と同時に、エンジニアリング・マテリアル事業の売却を進めており、今後は栄養、美容、ウェルビーイング関連のソリューションに注力する方向です。DSMおよびフィルメニッヒは、ほぼ同程度の売上高および利益成長率であり、今後、合併効果により特に重複する食品・飲料部門からのシナジー効果で年間3.5億ユーロ相当(約508億円)のEBITDA(税引前利益に支払利息と減価償却費を加えて算出される利益で企業価値を表す指標)への寄与が期待できます。
DSMは、1902年に炭鉱会社としてスタートし、その後、自動車向け工業用プラスチック製品などを幅広く展開してきました。同社は、ニーズに応じて業容を機動的に変えてきており、現在では、食品や栄養補助食品、飼料、パーソナルケアやアロマ、医療機器などを展開しており、持続可能性を重視し、環境に配慮した製品群およびビジネスソリューションに事業を絞りつつあります。
エネルギー移行への動きと政府支援は継続
銀行セクターの経営不安問題が続いており、企業の資金調達コストに徐々に影響を与えており、特にスタートアップ企業にとっては深刻な問題で、今後より広範な信用不安につながる懸念があります。しかし、エネルギー効率化への強い需要、キャッシュフローが予測しやすい再生可能エネルギー・プロジェクト、環境問題に対する各国政府の潤沢な支援などを背景に、クリーンテック関連企業が過度に悪影響を受けることはないと考えています。
全般的なマクロ経済に対する懸念はあるものの、エネルギー移行に向けた勢いは継続しています。米国では、向こう10年でエネルギー安全保障と気候変動対策に約4,000億ドル(約52兆円)を投じるインフレ抑制法が、エネルギー移行企業にとって大きな追い風となります。欧州連合(EU)の「ネットゼロ産業法案」には、ネットゼロ実現に貢献する産業に対する税制優遇、加盟国による補助ルールの緩和、クリーン・エネルギー生産拠点の認可プロセスの簡素化などが盛り込まれる見込みです。
G7、洋上風力発電の7倍、太陽光発電の3倍の拡大を目指す
4月中旬に札幌市で開催されたG7気候・エネルギー・環境相会合は、新たに再生可能エネルギーの導入目標を打ち出しました。2030年までに、7カ国の洋上風力発電を2021年実績の約7倍の1.5億キロワットに引き上げます。太陽光発電は、現状の約3倍の10億キロワットへの拡大を目指します。クリーンテック戦略で注目している再生可能エネルギー関連企業への追い風になるとみられます。同会合はまた、二酸化炭素(CO2)削減への対策を講じていない化石燃料の使用廃止への取り組み強化で合意しました。従来は石炭だけでしたが、今回新たに天然ガスが対象に加わり、段階的な廃止を目指します。
なお、4月には、アクサIM資産運用研究所が生物多様性に関する様々な記事を展開しました。生物多様性に関する各種質問に答えている「生物多様性に関するQ&A:パワフルな新しい投資テーマを理解する」や、当戦略のポートフォリオマネージャーであるトム・アトキンソンとアシュレー・キートが執筆している「生物多様性への投資は、問題ではなくソリューションを見据えることになる理由」などをご覧ください。
ポートフォリオの動向
低炭素輸送関連分野では、半導体企業のウルフスピードがマイナス寄与となりました。同社はシリコンカーバイド(SiC)素材の主要サプライヤーで、同社製品は電気自動車(EV)、5G携帯端末、その他産業向けに用いられます。米モホークバレー工場の立ち上げの遅れなどを背景に業績見通しが予想を下回ったことから株価が下落しました。しかしながら、同工場は世界初かつ最大のSiC生産施設であり、その優れた経済性とSiCデバイスに対する強い需要とが相まって、今後稼働率が向上するにつれウルフスピードの収益成長に大きく貢献すると確信しています。
スマートエネルギー関連分野では、欧米における住宅用太陽光発電システム大手のエンフェーズ・エナジーがマイナス寄与となりました。同社の2023年1-3月期決算は予想通りでしたが、今年度の業績ガイダンスが予想を下回ったことが嫌気されました。米国では、金利上昇により太陽光発電システムを新たに設置することが家計の負担となっており、需要の低迷と在庫の積み上がりを招いています。しかし、同社は、米国では強い競争力を持ち、欧州では大きな成長余力があることから、引き続き同分野における優位性には変わりないと見ています。
環境汚染防止関連分野では、日本の水処理企業の栗田工業がマイナス寄与となりました。同社は米国事業の連結子会社に関連するのれん代減損損失を発表したこと、業績見通しがやや悪化したことが株価に影響しました。運用チームでは、米国事業は依然として魅力的な成長機会を提供していると見ており、特に、エレクトロニクス産業向け超純水システム分野における契約型ビジネスモデルへの移行をポジティブに評価しています。
ご留意事項