クリーンテック戦略月次レター:世界的な異常熱波に直面し、気候変動対策の加速が必要に
クリーンテック戦略月次レター(2023年7月の振り返り)
世界的な異常熱波に直面し、気候変動対策の加速が必要に
冷房需要増で電力網や再生可能エネルギー発電への投資拡大へ
当月も、インフレ率の低下や底堅い経済指標などを受け、米国や欧州におけるソフトランディングへの期待感から、グローバル株式市場は上昇しました。地域別では、米国が当月も堅調だった一方、日本は年前半の大幅な上昇から一服しました。セクター別では、エネルギーや金融など景気敏感セクターが堅調だった一方、ヘルスケアやサービス関連企業など景気に左右されにくいディフェンシブ・セクターは軟調でした。
マクロ経済環境は、インフレ率が低下する一方、経済活動は底堅さを示し、労働市場の逼迫も続くなど強弱入り混じる状態が続いています。6月の消費者物価総合指数は、米国では前月の前年同月比4.0%から3.0%へ、ユーロ圏では同じく6.1%から5.5%へと低下しました。英国では前月の8.7%から7.9%へと予想以上に低下し、横ばいだった前月分を幾分埋め合わせました。一方、購買担当者景気指数(PMI)の総合指数は主要経済圏で拡大を示す50を上回っており、サービス業の好調が製造業の弱さを補っています。
7月のクリーンテック戦略は、主に「スマートエネルギー」銘柄の低迷により、グローバル株式(MSCI ACWI、ドルベース)のパフォーマンスを下回りました。プラス面では、「廃棄物処理・資源有効利用」がポートフォリオのリターンに貢献しました。
「地球沸騰の時代到来」
経済・金融関連以外の話題としては、2023年7月は世界的に異常な猛暑に見舞われ、南欧では山火事が続発しました。スペイン、ギリシャ、イタリアでは40度以上の気温を記録し、中国や米国では、局地的に50度以上を記録しました。世界気象機関(WMO)と欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によれば、7月の世界の平均気温は観測史上で最高になったとみられます。国連のグテレス事務総長は7月下旬の会見で、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来した」と警告し、気候変動対策の更なる加速を各国政府に求めました。
異常高温は公衆衛生上のリスクであり、超過死亡率の急上昇を引き起こすのみならず、建物の冷房需要の増加に伴い、電力網と再生可能エネルギー発電への継続的な投資の必要性を改めて浮き彫りにしました。
異常高温と同様に、山火事も野性動物や生態系を破壊し、大気汚染による呼吸器系疾患などによって公衆衛生に影響を及ぼし、更には観光業に依存するサービス業を中心とする国や地域にもダメージを与える可能性があります。山火事は、これまでの気候変動に対する我々の対策の脆弱さも浮き彫りにしています。植林は排出量削減の一般的な手段となっていますが、木が根付いて成長し二酸化炭素を吸収しなければ、植林の意味は失われてしまいます。
これらの事象はいずれも、官民問わず気候変動対策の緊急性が求められていることを改めて示しました。なお、米国のケリー大統領特使(気候変動問題担当)は7月に中国を訪問し、中国外交トップの王毅・中国共産党政治局員や李強首相らと会談し、気候変動対策での協力で認識が一致しました。一連の会談では、再生可能エネルギーの拡大やメタンガス削減などが話し合われ、米中は今後こうした課題の協議を継続する予定です。
ポートフォリオの動向
廃棄物処理・資源有効利用関連分野では、再生紙包装材メーカーのスマーフィットカッパグループがプラス寄与となりました。包装材価格が底打ち、株価が割安であるとの見方から、証券会社が(同業他社も含めて)同社の評価をアップグレードしたことを受けて株価が上昇しました。長期的に見て、再生包装材の構造的な需要から同社は高成長を享受できると運用チームでは考えています。使用済み食用油の再生利用やバイオ燃料製造などを手掛けるダーリン・イングレディエンツもプラス寄与となりました。同社は油脂価格の回復、8月に発表される中核事業の好調な業績に対する期待から株価が上昇しました。一方、環境汚染防止関連のエコラボ、廃棄物処理業者ウエイスト・コネクションズはディフェンシブな銘柄と見られており、ディフェンシブ・セクター全般と同様軟調なパフォーマンスとなりました。
低炭素輸送関連分野では、自動車向け半導体企業のインフィニオン・テクノロジーズがプラス寄与となりました。半導体企業は全般的に堅調なパフォーマンスとなり、同社も4-6月期の業績期待などから株価が上昇しました。同じく半導体企業のウルフスピードもプラス寄与となりました。同社は日本の半導体企業ルネサスエレクトロニクスから10年間にわたり20億ドルの預託金提供を受け、ルネサスへSiC(炭化ケイ素)ウェハーを供給する契約を締結したことを発表し、株価が上昇しました。ウルフスピードが世界シェアの60%を占めるSiC基板の供給能力に関して懸念が持たれていましたが、このニュースは市場に好意的に受け止められました。また、ルネサスの預託金はウルフスピードのバランスシート強化にも役立ち、一部の投資家の懸念を払拭できると考えられます。一方、リチウム生産大手のアルベマールはマイナス寄与となりました。中国の広州先物取引所で電気自動車(EV)バッテリー向けのリチウム先物取引が開始され、価格が下落したことを受けリチウム関連セクターは不安定な値動きとなりました。しかしながら、その後先物価格は安定し、リチウム市場では今後も長期的に強い需要が続くと見ています。
持続可能な食糧供給関連分野では、農業機器メーカーのディアと動物遺伝学企業ジーナスがプラス寄与となりました。ジーナスは6月下旬に株価が過去52週で最安値まで下落したことを受けて買い戻され、前月のマイナス寄与から回復しました。ディアは大型農業機器や建設機械の需要が根強いことから株価は堅調に推移しました。同社は年前半は農業や建設の減速への懸念から株価は弱含んでいましたが、7月末までに売りは一巡し5月末につけた安値から24%上昇しました。現在の農業の減速サイクルはまだ続いていると見られますが、マクロ経済環境が好転してくれば減速の影響はさほど大きくないと見られます。一方、精密農業機器のトリンブルは在庫調整の動きや2023年の業績ガイダンスの下振れリスクなどが懸念されたことからマイナス寄与となりました。しかしながら、サブスクリプションやサービスからの継続的な収入の拡大と差別化された製品とサービスが収益性に貢献していることから、同社の見通しには引き続き強気に考えています。
スマートエネルギー関連分野ではパフォーマンスは銘柄毎にばらつきがありました。アメレスコやファースト・ソーラーが堅調だった一方、エンフェーズ・エナジーやSMAソーラー・テクノロジーはマイナス寄与となりました。エンフェーズ・エナジーは引き続き住宅用太陽光発電(米国が中心)が苦戦しています。これは、金利が上昇している一方で、公共料金が引き下げられていることが影響しています。運用チームでは、住宅用太陽光発電は普及率がまだ低いこと、従来通りの光熱費と比較して節約になること、住宅の電化ニーズの高まりなどから長期的な見通しは引き続き明るいと考えています。SMAソーラーは2023年の業績ガイダンスが上方修正され前月株価が上昇しましたが、当月は反落しました。同社は現在のところ、住宅用よりも健全な状態にある発電事業用太陽光市場へのエクスポージャーが大きく、ソーラー・インバーターのトップメーカーとして優位な立場に変わりはありません。同じく発電事業用太陽光機器メーカーのファースト・ソーラーは新たな製造設備拡大の発表、力強い新規受注、好調な四半期収益などが支えとなりました。アメレスコは主として新たな蓄電事業の発表を受けて株価が上昇しました。これにより、投資家の間で議論の分かれていた2024年の業績目標達成に向けて近づいたと考えられます。
ご留意事項