クリーンテック戦略月次レター:革新的なクリーンテック企業、長期成長トレンドが追い風
クリーンテック戦略月次レター(2023年6月の振り返り)
革新的なクリーンテック企業、長期成長トレンドが追い風
地球環境を守るための政策の後押しや人々の行動変化が背景に
当月は、インフレ率の低下、底堅い経済指標などを受け、米国や欧州における景気の深刻な落ち込みは避けられるとの期待感からグローバル株式市場は上昇しました。地域別では、米国や日本市場などが特に堅調でした。セクター別では、一般消費財、資本財・サービスなどのセクターが堅調だった一方、不動産や公益などディフェンシブ・セクターはやや劣後しました。グロース関連銘柄は、バリュー関連銘柄とほぼ同等のパフォーマンスでした。
6月のクリーンテック戦略は、「低炭素輸送」が顕著に堅調でしたが、「持続可能な食糧供給」と「スマートエネルギー」の低迷により、グローバル株式(MSCI ACWI、ドルベース)のパフォーマンスを下回りました。
昨年の将来的な黒字転換が見込まれる成長企業に対する全般的な株価調整を受けて、クリーンテック分野の多くの革新的企業は堅調な長期成長見通しの下、現在の株価は割安な水準にあると考えられます。年初来では、ごく一部の銘柄が株式市場の上昇を先導していますが、このような状況が長く続くとは考えておらず、引き続き、高い技術力と競争優位性のある質の高い企業がクリーンテック分野の成長トレンドを追い風に長期にわたって株価上昇する上で優位な立場にあるとの見方を維持しています。これらのクリーンテック企業に投資することにより、地球環境を守るための政策の後押しや人々の行動の変化を背景に長期的な成長が期待できると考えています。
なお、マクロ経済環境は、インフレ率が低下する一方、経済活動は底堅さを示し、労働市場の逼迫も続くなど強弱入り混じる状態が続いています。5月の消費者物価の総合指数は、米国では前月の前年比4.9%から4.0%へ、ユーロ圏では同じく5.6%から5.3%(速報値)へと低下しましたが、英国では前月と変わらず8.7%となりました。これを受けてイングランド銀行は予想よりも大幅な0.5%の利上げを実施し、市場を驚かせました。一方、購買担当者景気指数(PMI)の総合指数は主要経済圏で拡大を示す50を上回っており、サービス業の好調が製造業の弱さを補っています。また賃金上昇率も予想を上回る上昇となりました。
ドイツで世界的な太陽光発電見本市、EUは再生エネ目標上げ
当月、世界有数の太陽光発電見本市「インターソーラー・ヨーロッパ」がミュンヘンで開催されました。米国と欧州における住宅用太陽光発電への需要は一時期の非常に高い水準からは幾分鎮静化した一方、公益事業向けの需要は極めて強い状態が続いていることが示されました。各社は、高効率のペロブスカイト太陽電池、双方向EV充電器、EV充電やヒートポンプ、太陽光発電・蓄電を組み込んだ家庭用エネルギー管理システムなど、様々な革新的技術開発について発表しました。
他方、欧州連合(EU)は域内の再生可能エネルギー比率を2030年までに従来の32%から42.5%へ目標を引き上げる改正案を提出し、欧州議会と暫定合意しました。同法案が施行されるには欧州議会における承認およびEU加盟国における承認が必要となりますが、このことからも同地域におけるエネルギー移行に対する強いモメンタムが続いていることが示されました。EUの再生可能エネルギー比率は2021年は22%だったため、目標達成には大規模な投資が要求されます。
熱波や干ばつなどの異常気象増加、温暖化対策の拡大急務
このところ、世界的に熱波が広がっており、干ばつや森林火災、洪水などの異常気象が増えています。世界気象機関(WMO)の発表によれば、この6月は観測史上最も暑い6月となりました。5月以降、アジア太平洋地域で猛烈な暑さが続き、タイでは気温が45度を超え、干ばつも重なり水田に水が引けない事態となっています。6月には、中国・北京で40度を超える日が続き、また中南米も記録的猛暑となり、メキシコでは暑さが原因の死者が100人を超えました。6月にはまた、カナダの森林火災が大規模化し、煙は米北部や中西部にも広がり、ニューヨーク市内もその煙が立ち込め、そして煙は大西洋を超えてスペインにも達しました。
こういった異常気象に対しては温暖化対策の拡大が急務であり、政府および民間企業の対策および関連投資の拡大が見込まれます。
ポートフォリオの動向
低炭素輸送関連分野では、電気自動車(EV)メーカー大手のテスラがプラス寄与となりました。同社は過去数ヵ月にわたって全てのモデル、全ての地域で値下げを実施したことを受けて需要が大きく伸びています。また、同社は人工知能(AI)を搭載した完全自動運転機能を約500万台に装備し業界をリードしており、AIへの関心の高まりを受けて株価が上昇しました。
持続可能な食糧供給関連分野では、動物遺伝学企業ジーナスの株価が下落しマイナス寄与となりました。同社は、他の事業では好調が続いているものの、豚事業では中国における豚肉価格の下落が今年度の利益見通しに重くのしかかりました。しかしながら、2024年については、中国市場の回復、PRRS(豚養殖・呼吸障害症候群)ウイルス耐性豚の米FDA(食品医薬品局)認可などが業績の追い風となると見込まれます。また、総合化学品メーカーのクローダ・インターナショナルは、コンシューマー向けおよび産業向けエンド市場における顧客の需要低迷が下半期も続くと予想し、利益警告を発したことからマイナス寄与となりました。このような状況においても、化粧品原料に対する顧客の関心が高まっているとの同社からの最近の発言もあり、将来の需要増を示す指標になると考えられます。
スマートエネルギー関連分野では、風力発電機器大手のヴェスタス・ウィンド・システムズがマイナス寄与となりました。競合他社のシーメンス・ガメサが稼働中の設備の15~30%で欠陥が見つかり、10億ユーロの引当金を計上すると発表したことを受けて、同社の株価も下落しました。この問題はシーメンス・ガメサ固有の問題であると見られるものの、同業界全体で引当金の水準が上がることには留意すべきと考えています。足元ではヴェスタスの受注状況は比較的落ち着いているものの、米国のインフレ抑制法における再生エネルギーに対する優遇措置がより明らかになれば年後半にかけて受注も上向くものと期待しています。
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