クリーンテック戦略月次レター:米国の政策支援が太陽光発電機器メーカーへの追い風に
クリーンテック戦略月次レター(2023年3月の振り返り)
米国の政策支援が太陽光発電機器メーカーへの追い風に
銀行の経営問題にもかかわらず、強いエネルギー効率化需要
当月のグローバル株式市場は、米国および欧州において発生した銀行の経営不安問題に規制当局が必要な支援を早急に提供したこと、引き続き底堅い経済指標が発表されたことなどを受けて上昇しました(現地通貨ベース)。地域別では英国を除き概ね良好なパフォーマンスとなりました。セクター別では、情報技術、コミュニケーション・サービスが好調だった一方、金融セクターは軟調なパフォーマンスとなりました。当月もグロース関連銘柄がバリュー関連銘柄を上回るパフォーマンスとなりました。
3月のクリーンテック戦略は、「低炭素輸送」と「持続可能な食品供給」の低迷により、グローバル株式(MSCI ACWI、ドルベース)のパフォーマンスを下回りました。プラス面では、「スマートエネルギー」が顕著なパフォーマンスを上げました。
インフレ抑制法、エネルギー移行関連企業に大きな恩恵
全般的なマクロ経済に対する懸念はあるものの、エネルギー移行に向けた勢いは継続しています。米国では、向こう10年でエネルギー安全保障と気候変動対策に約4,000億ドル(約52兆円)を投じるインフレ抑制法(IRA)がエネルギー移行企業にとって大きな追い風となり、米国の気候変動目標の達成をより確実なものへと導くとみられます。
当月、この動向の大きな恩恵を受けたのが、スマートエネルギー関連分野の太陽光発電機器メーカー、ファーストソーラーで、ポートフォリオに対してプラス寄与となりました。同社は、IRA税制優遇措置に伴う粗利益率の改善と生産税額控除の増加で予想を上回る2023年の業績見通しを発表し、株価が上昇しました。同社は太陽光発電機器に対する強い需要に加え、米中間の地政学的緊張が同社に有利に働き恩恵を受けると思われます。2025年までの生産キャパシティ分は完売しており、それ以降の販売についてはより高い販売価格設定を目指していることを明らかにしています。
厳しい経済環境にも関わらず、ESGへの取り組み加速
なお、米国においてシリコンバレーバンク(SVB)、シグネチャーバンクが破綻し、欧州においてクレディスイスが救済合併に追いやられたことは、企業の資金調達コストにとってネガティブです。特にSVBは、環境関連やクリーンエネルギー関連のスタートアップ企業に重点的に投融資を行ってきており、その影響が懸念されます。しかしながら、エネルギー効率化への強い需要があること、再生可能エネルギー・プロジェクトからのキャッシュフローが予測しやすいこと、環境問題に対する政府の支援が潤沢なことなどを背景にクリーンテック関連企業が過度に悪影響を受けることはないと考えています。
厳しい経済環境にも関わず、ESGへの取り組みは進んでいます。国際エネルギー機関(IEA)によれば、2022年の世界の再生可能エネルギー導入量は最大4億400万キロワットに上る見通しで、ウクライナ危機前の2021年の1.4倍の規模にあたります。これは、ウクライナ危機によって、各国や企業が再生可能エネルギーの導入を加速させているためです。そして、IEAは2027年まで、再生可能エネルギーの大幅な増加を予想しています。当社リサーチヘッドでアクサグループのチーフエコノミストでもあるジル・モエックも、厳しい経済環境にもかかわらず、企業はESGの取り組みを継続し、ネットゼロへの移行が加速し、生物多様性関連のイニシアチブも導入されたことを指摘しています(記事「厳しい状況であればこそESGはその真価を発揮」をご覧ください)。
それでも、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が3月に公表した報告書は、2030年代前半に地球の平均気温の上昇が1.5度に達する可能性を指摘しており、温暖化対策強化の緊急性を訴えています。再生可能エネルギーの導入や脱炭素技術の普及の更なる加速が期待されています。
ポートフォリオの動向
低炭素輸送関連分野は、リチウムメーカーのアルベマールが軟調なパフォーマンスとなりマイナス寄与となりました。2022年末以降、リチウム価格の下落が同社の株価に影響を与えましたが、長期的な見通しに変わりはないと見ています。アルベマールは、チリとオーストラリアに世界的に見ても低コストで生産できるリチウム塩鉱石とリチア輝石(リチウムを含む鉱物の一種)の鉱山を有しており、同社の規模、経験、堅固なバランスシートによって、今後の需要増の恩恵を享受できる有利な立場にあると考えています。
持続可能な食糧供給関連分野では、再生可能な原料から製造される高機能バイオ素材メーカーのコルビオンがマイナス寄与となりました。同社の2022年10-12月期決算では、中国での需要鈍化からバイオプラスチック製造のジョイントベンチャーにおいて生産停止を余儀なくされたことを受けて予想を下回る業績となりました。中国の経済再開に伴い生産再開したことは今後の追い風になる他、同社の藻類事業は計画よりも早く黒字化を達成し、新規顧客からの引き合いも強く、良いモメンタムが見られることから今後に期待できると見ています。
廃棄物処理・資源有効利用関連分野では、鉄粉やアルミ残渣の回収・リサイクルを手掛けるベフェサがマイナス寄与となりました。鉄のリサイクル過程で回収される亜鉛は最近価格が下落しているため業績の下押し要因となりました。しかしながら、環境規制の高まりからアジアでの需要拡大が見込まれることから、同社のアーク式電気炉の更なる浸透により恩恵を受けると見ています。
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