クリーンテック戦略月次レター:AI関連の強いモメンタムがクリーンテック銘柄にも波及
クリーンテック戦略月次レター(2023年5月の振り返り)
AI関連の強いモメンタムがクリーンテック銘柄にも波及
G7サミット、化石燃料の廃止で合意、再生エネ移行を加速へ
当月は、米国の債務上限問題や欧米において高止まりしているインフレ率に対する懸念が重石となり、グローバル株式市場は小幅の上昇にとどまりました。地域別では、日本が堅調だった一方、欧州や中国は軟調となりました。セクター別では、ブームを巻き起こしている人工知能(AI)関連の半導体やソフトウェア企業が大幅上昇した情報技術およびコミュニケーション・サービス・セクター以外は、総じて下落基調となりました。少数のテック関連銘柄が相場をリードする中、グロース関連銘柄がバリュー関連銘柄を上回るパフォーマンスとなりました。
5月のクリーンテック戦略は、「低炭素輸送」と「スマートエネルギー」が堅調でしたが、「持続可能な食糧供給」銘柄の低迷により、グローバル株式(MSCI ACWI、ドルベース)のパフォーマンスを下回りました。
AI関連でテスラ、TSMCが堅調
当月は、AI関連の強いモメンタムがクリーンテック銘柄にも波及しました。
低炭素輸送関連分野では、電気自動車(EV)メーカー大手のテスラがプラス寄与となりました。同社は、機械学習における主導的な立場、約500万台の車両に搭載された自動運転ハードウェアなどから、AIに強みを持つ企業として注目が高まったことを受けて株価が上昇しました。また同社CEOイーロン・マスク氏が兼務するツイッター社CEOの職を新たに採用した新CEOに近く引き継ぐとのニュースも好材料となりました。
G7サミットでは、天然ガスについてエネルギーの安定供給のために投資は一部容認してはいるものの、段階的廃止で合意しました。
スマートエネルギー関連分野では、半導体受託製造最大手のTSMCがプラス寄与となりました。同社の株価は、半導体企業エヌビディアがAI半導体の旺盛な需要を背景に5-7月期の売上ガイダンスがコンセンサス予想を50%以上上回る見込みであると発表した後、上昇しました。TSMCはAI半導体の主要プロバイダーであり、エヌビディアの単独サプライヤーでもあるため、AIアプリケーションの普及に恩恵を受けるのに有利な立場にあります。
G7サミット、化石燃料の段階的廃止で合意
なお、全般的なマクロ経済に対する懸念はあるものの、エネルギー移行に向けた勢いは継続しています。
5月に広島で開催されたG7サミットの首脳宣言では、石炭だけでなく、石油や天然ガスを含めた化石燃料全般の段階的廃止で合意しました。また、4月に開催されたG7気候・エネルギー・環境相会合が打ち出した新たな再生可能エネルギー導入目標(2030年までに、洋上風力発電を2021年実績の約7倍の1.5億キロワットに引き上げ。太陽光発電については、現状の約3倍の10億キロワットへの拡大を目指す)についても、首脳レベルで合意しました。世界的に再生可能エネルギーの導入を後押しするもので、関連投資や関連企業の事業拡大を促すとみられます。
再生可能エネルギー発電能力の拡大続き、化石燃料発電に匹敵へ
上述の世界的な再生可能エネルギー導入機運の高まりを背景に、国際エネルギー機関(IEA)が6月1日に公表した見通しでは、2024年の再生可能エネルギー発電能力は約45億キロワットに達すると予想しています。これは石炭などを含めた化石燃料発電量に匹敵します。太陽光発電が増加幅の多くを占め、風力発電の導入も世界的に進む見込みです。地域別では、中国と欧州連合(EU)が導入拡大をけん引し、米国やインドも存在感を増すとIEAは予想しています。
ポートフォリオの動向
持続可能な食糧供給関連分野では、食品・飲料・栄養補助食品メーカーのDSMフィルメニッヒが、ビタミン剤の価格低下、コスト上昇圧力、需要低下などによりヘルス・ニュートリション・ケア部門を中心に業績が振るわずマイナス寄与となりました。しかしながら、今後の見通しとしては、合併したスイスのフレグランス・香料メーカーであるフィルメニッヒとのシナジー効果により主として食品・飲料部門における収益力強化が見込まれる他、フレグランス部門は安定した収益と高い成長性を享受できると見ています。農業・建設・林業用機器メーカーのディアは小型農機の在庫増加が嫌気されて株価が下落しました。一方、大型機械については機械の老朽化に伴う買い替え需要、投入コストの低下、精密農業に対する強い需要が引き続き支えとなっています。
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