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年次見通し

年金投資に関する2025年の見通し:米政策の不確実性が先行きにもたらす暗雲

主なポイント
2025年のマクロ経済は、米国の政治的不確実性、欧州の低成長、中国の不動産市場の苦境が焦点になると思われる
不確実性が市場センチメントに影響 – 欧州では政府支出の増加が債務増加とイールドカーブのスティープ化の原因になると見ている
年金基金の間で生物多様性と低炭素への関心が高まる中、ESG投資はさらなる逆風に直面する可能性があると思われる
欧州の年金基金は株式戦略や債券戦略だけでなく、新興国市場への戦略的配分も見直す可能性があると見ている

来年の動向にはおそらく3つの主要な要因が影響を及ぼすと見ています。つまり、米国の政治色の強い政策、欧州経済の構造的弱点と政治的不確実性、そして中国政府による苦境にある不動産市場の再編の3つです。

全体としては、アクサIMグループの予測では、世界の経済成長率は2024年である3.2%のペースが2025年も継続し、2026年には2.9%に減速する見込みであることを示唆しています。

この見通しは、トランプ米次期大統領による中国と欧州に対する関税引き上げによってさらに悪化する可能性があり、結果として新興国の成長にも打撃を与えるおそれがあると見ています。

ドイツやフランスなどの欧州主要国の政治的不確実性は、欧州におけるナショナリズムの高まりと相まって、経済改革、移民、欧州防衛に関する汎欧州政策の調整をさらに難しくすると予想しています。

この不確実性は、市場心理を左右する大きな要因となっていると考えます。政府支出の増加は、欧州における債務と国債発行の増加につながっています。特に、11月下旬の時点で、スワップ・イールドカーブ(利回り曲線)1 に対するドイツ国債(ブンズ)のスプレッド(利回り差)が初めてプラスとなり、フランスはしばらく前にすでにプラスに転じています。欧州中央銀行(ECB)による国債の買い入れ量削減は、需要と供給のバランスをとるための対応の一部となっています。

ドイツ政府の財政赤字に対する厳しい政策を考慮すると、ドイツ国債の利回りの高さは注目に値します。これは、2025年初めに予定されている選挙における焦点の1つになる可能性があると見ています。このような環境にあって、欧州国債は2025年に相対的に良好な利回り水準に達する可能性がある一方、ECBは政策金利を引き下げると予想されており、欧州のイールドカーブがスティープ化する(短期と長期の利回り差が拡大してイールドカーブの傾きが急勾配化する)可能性があります。

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ESGに関する逆風

米国では、次期トランプ政権により環境、社会、ガバナンス(ESG)関連投資に対する否定的な感情が高まり、サステナブル投資(社会課題や環境問題などに対応する長期的な発展の持続可能性に着目した投資戦略)は2025年にさらなる逆風に直面することが予想されています。これは、潜在的に欧州市場にも波及する可能性があり、世界的な資産運用会社は、米国と欧州の顧客の持続可能性への見方の変化に対処する必要があるかもしれません。

サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)に基づき第9条ファンド(つまり、持続可能な目的を持ち、財務上の利益とともに特定の持続可能性の成果を目標とする商品)として定義されるサステナブル投資は、年金基金の世界では依然として比較的小さな割合にすぎません。とは言え、多くの年金基金はもはや第6条ファンド、つまり持続可能性リスクのみを評価・対処するだけの投資ファンドを受け入れていないと思われます。

生物多様性は、気候変動以上に最も重要な環境テーマとしてますます注目されており、社会開発関連トピックにも大きな影響を与えるテーマと言えると見ています。欧州の年金基金は、ポートフォリオに生物多様性を導入する方法をより真剣に検討していると思われます。2

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新興国市場への割り当て

このような状況を背景に、欧州の年金基金は、現地通貨建ておよびハードカレンシー建ての株式戦略や債券戦略など、新興国市場への戦略的配分を検討している可能性があります。

しかし、世界経済の成長鈍化、米国と他国の間の貿易戦争、地政学的緊張の増大、持続可能性に関する野心的目標などを考慮すると、新興国市場への投資は課題に直面する可能性があると思われます。

現地通貨建ての新興国債券市場は、過去10年間のパフォーマンスが比較的芳しくない一方で、新興国のドル建て債券市場のパフォーマンスは米国ハイイールド債券市場と競い合うかたちとなります。さらに、持続可能性を理由に中国やサウジアラビアといった国を新興国市場から除外すると、投資の選択肢がさらに限られてしまいます。これは、台湾と韓国を除く新興国市場の上場企業にも当てはまります。持続可能性の観点から特定の国を除外する一方で、市場毎に個別に配分比率を決めるのではなく、世界全体を対象とする指数等に基づき先進国市場とともに新興国市場に配分を行う方法もあると考えます。


米国株式市場には引き続き注目

歴史的に見て、米国市場は不確実性の高い時期に資本の安全な避難先として機能することが多く、2025年もその状況が続く可能性は十分にあると思います。ドルはユーロと比較してすでに上昇しており、来年はドル資産のヘッジコストがさらに上昇する可能性が高いと見ています。

米国企業の収益性も現在の株式市場の水準を下支えすると予想されます。人工知能(AI)の強い成長の勢いと、テクノロジー分野を幅広く米国企業が牽引していることを考慮すると、大手のテクノロジー企業は国際貿易の嵐を乗り切るのに最も適していると考えられます。米国企業がこの状況を享受しており、また、米国内企業の株式バリュエーションは比較的低水準になっているために米国株式市場が依然として相対的に良好な市場であることを考慮すると、この米国市場が比較的優位である状況が近い将来に変わる可能性は低いと見ています。一方、リスクとしては、外国製品に対する関税引き上げが2025年に米国企業の輸出に打撃を与えることが考えられます。


リスクとリターンのバランス

年金運用機関による米国のハイイールド債券戦略に対する関心の度合いは、インカムを求める強さによって影響を受ける可能性があると思います。インカムを生み出す資産への投資戦略を探し求める中で、年金基金は従来の債券戦略の代替としてハイイールド債券戦略を検討するようになる可能性があると見ています。特に、短期デュレーションのハイイールド債券戦略は投資適格債券投資戦略と比べて利回りが高くなる傾向にあり、ポートフォリオの獲得インカムの向上と金利リスクの管理を求める年金運用機関にとって相対的に良好な戦略であると考えられます。

ただし、年金基金は米国ハイイールド債券に関連する信用の質、デフォルトのリスク、市場状況を慎重に評価すると思われます。比較的高い利回りを確保できる可能性があることは相対的に良好な投資戦略と思いますが、年金運用機関はハイイールド債券市場のファンダメンタルズ、流動性の考慮、景気循環がハイイールド債券戦略のパフォーマンスに及ぼす影響について引き続き警戒する必要があると見ています。さらに、スプレッドが歴史的に縮小している水準であることから、米国のハイイールド債券戦略への投資の機会を評価する年金基金にとっては、デフォルト率と発行体固有の要因を継続的にモニタリングすることが不可欠となると見ています。

米国のハイイールド債だけでなく、新興国市場の株式戦略や国債戦略に対する年金資金運用機関の関心は、2025年の潜在的なリターンとリスクの考慮、分散目標のバランスによって影響を受けることが予想されます。年金基金は、相対的に良好な利回りを提供する投資機会の追求と、長期的なポートフォリオ目標およびリスク管理原則に合わせて投資を調整しつつ、関連するリスクの効果的な管理との間でバランスをとろうとする可能性が高いと考えられます。2025年は、債券市場と比較して株式市場のほうが比較的有利なリターンをもたらすことが予想されます。

以下では、欧州最大の3つの年金市場について、現在の背景を踏まえて説明します。

- 英国:配分比率を保証するための位置づけ

英国では、確定拠出、地方自治体、そして潜在的に民間の確定給付年金制度にわたる規制の枠組みにおいて比較的大きな流れがあります。英国の確定給付制度では現在十分な資金が提供されており、最大のテーマは引き続き年金資金のバイインとバイアウトへの動きであり、これは、年金基金の資産の一部またはすべてが保険会社に売却され、保険会社がその資産を管理することです。余剰資金を確保し、長期の年金債務に対応することを目的としたリスク管理と債券中心の投資戦略は今後も継続されつつも、保険会社の価格設定に合わせてクレジット資産への配分が増加すると思われます。2025年には、余剰金の使途に関して規制が変更される可能性も報告されています。

英国政府は、2026年3月までに地方自治体の年金基金を最低評価額250億〜500億ポンドを持つより大きな基金に合併させることを義務付けるとこを計画しています。2023年末の時点では、これら86の年金基金は合計で3540億ポンドを運用しており、個々のファンドの規模は3億ポンド〜300億ポンドとなっていました。政府は、各基金がその資産の5%を英国内資産にだけ割り当てた場合、200億ポンドの追加投資につながると予測しています。3

- オランダ:生物多様性が焦点に

オランダでは、年金基金が新しい年金制度の下で確定給付型から確定拠出型への移行を進めています。この移行により、資産配分(長期スワップや国債への配分が減少し、投資適格債への配分が増加)、リスクの共有、加入者へのコミュニケーションにおける変化が促されることが予想されます。オランダの年金基金は、責任投資に対する同国政府のコミットメントに基づき、サステナブル投資とESGの統合に引き続き重点が置かれます。さらに、2025年から始まる新たな規制環境に適応するため、ガバナンスと加入者のエンゲージメントについて革新的なアプローチが模索されています。

2025年1月1日までに、オランダの3つの年金基金が初めて新たな年金制度を導入し、これには約20万人の加入者と120億ユーロが対象となります。当初は25の年金基金が移行を計画していたものの、それらの多くはさまざまな理由で移行の延期を余儀なくされています。4

- ドイツ:年金支払いの保証

現在の金利環境や高齢化、そして労働人口の減少などの人口動態の課題、さらにその結果としての年金拠出金の減少を背景に、ドイツの年金基金は長期的なインカム創出手段を見つける必要があるかもしれません。債券戦略主導の投資からキャッシュフロー主導の投資ソリューションに切り替え、投資によるインカムと支払負債を調整し、資産の強制売却リスクを軽減することへの関心が高まっています。年金基金は、投資リターンの最大化のみを追求するのではなく、既存の資産を保護し、安定した年金支払いを保証することに重点を置くことになるとみられます。これと並行して、ドイツの年金基金は投資の意思決定プロセスへのESG要素の統合を優先し、MSCIの低炭素データに基づく低炭素戦略に注力すると思われます。

ドイツの年金基金はさらに、運営効率と投資能力を強化するため、共同投資イニシアチブや費用分担協定といった協力の機会を模索することが考えられます。

全体として、欧州における年金基金に関連する状況の変化は、変化に適応できる投資戦略、持続可能性、革新的なガバナンスモデルの重要性を浮き彫りにしています。これらの原則を採用することで、これらの国々の年金基金は、2025年以降の複雑な投資環境を乗り切る態勢を整えることができると考えています。

 

過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。

(オリジナル記事は12月11日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

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2025年の見通し全体版(英語)
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