債券の時間
利回りが比較的低水準から上昇しているにもかかわらず、債券市場から資金が流出せず、政府赤字への資金調達を脅かすことも起きていません。米国長期国債の利回りは4%から5%の範囲で推移しており、これは最近の経済状況を反映しており、比較的低金利であった10年間はすでに過去のものとなっています。プラスと見られる点は、これが債券投資家にとって以前と比べて高いリターンをもたらす可能性があるということです。グローバル総合債券投資戦略におけるインカムリターンは、世界金融危機以前には4%から5%の範囲にありました。昨今の市場はその状況に似た水準になっています。
プラスの面
債券は、筆者が投資に好ましいと見ている資産クラスです。比較的高いリターンを生む債券もあり、例えば、米国ハイイールド債券市場の内CCC格の市場は2024年に18%のトータルリターンを上げました。長期的な価値を持つ債券もあり、2046年に償還されるギルト(英国債)は、最終的には価格が2倍になる可能性があります。短期クレジット戦略など、現在(執筆時)においてキャッシュよりも比較的良好と思われる債券戦略もあります。債券市場の動きは、経済成長やインフレ動向、政策、地政学的な出来事等によって影響を受けます。2025年の最初の週に、国債やその他の債券の利回りがここ数年での高水準へと上昇し続けました。今年に入って、トータルリターンは現在までのところマイナスになっています。利回りがこれほど高い中で、債券に投資するのは比較的良好な投資機会と言うと、賛成しかねる投資家がいるかもしれません。
マクロ
現在の債券利回りの上昇基調は、昨年の9月に始まりました。この時期は、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利の誘導目標(上限)を5.50%から5.00%に引き下げた時期です。これは比較的思い切った決定であり、FRBがインフレを制御できていると自信を持っていることを示すものでした。しかし、市場はこの動きを次第に異なる視点で捉えるようになり、その後の2回の利下げに対して、インフレが依然としてリスクであるという懸念を強めました。昨年9月のデータを含めると、米国の消費者物価指数は月次平均で0.28%上昇しており、これはFRBのインフレ目標や2021年以前の動向と比較すれば高い水準になっています。経済成長のデータも堅調です。FRBの昨年9月の最初の動き以来、非農業部門の雇用者数は月平均17万人増加しており、これは年率1.4%の雇用拡大を反映しています。最後に、その利下げの後昨年11月に、トランプ氏が米国大統領に選出されました。市場では、同氏の政策は経済成長に促進的でインフレを引き起こすものと見なされています。
FRBは昨年9月の緩和開始を含め政策金利を100ベーシスポイント(bp)引下げました。米10年国債利回りは120bp上昇し、最近の高値に達しました。経済の現状や米国政府の経済政策の行方を考慮すると、FRBの緩和が早すぎたと考える人もいます。幸いにも予想よりも良好な12月のインフレデータを受けて、市場は過剰反応と思われる利回り上昇の一部を修正しました。2024年12月31日と比較すると、利回りはまだ少し上昇しており、債券は依然として比較的良好な利回りの水準にあります。
バリュエーション
2025年1月14日に、米国10年国債の利回りは4.80%に達し、2023年10月以来の最高水準となりました。また、それ以前の最高水準は2007年7月でした。債券利回りは、昨年12月に2022年終盤以来初めてフェデラルファンド金利(FF金利)を上回り、最近の数週間でその差は拡大しています。インフレ連動国債から算出される10年国債実質利回りは、過去2年間に約2.0%で推移しています。これは、2010年から2022年の間の平均利率の約2倍です。筆者の見解では、利回りの上昇は債券への投資にとってより良い機会を生み出しています。1985年以降のブルームバーグ総合米国国債指数の推移を考慮すると、現在の利回り水準は、今後の12か月のトータルリターンがプラスになる確率が高くなっていると考えられます(利回りが4.60%以上であった219か月のうち、203ヶ月はその後の12か月のトータルリターンがプラスでした)。
センチメントと需給
利回りが上昇しているのは米国債券市場だけではありません。世界の債券市場の利回りは、過去6ヶ月の安値と比較して上昇しています。英国は、財政見通しに対する懸念や、双子の赤字に対して資金調達するために十分な量の外国資本を引き付けられるかどうかに関して最もパフォーマンスが悪い国となっています。英ポンドも他の主要通貨に対して下落しています。ポンドの弱体化はインフレ懸念を増大させ、イングランド銀行は金利について動きを取りづらくなっています。市場の予想では、経済指標では英国経済が停滞しているにもかかわらず、今年は2回の利下げと見ています(非常に低水準にあった国内総生産の成長率は、2024年1~3月期以降横ばいになっています)。アクサIMは2025年に4回の利下げを予想しています。
成長やインフレ、政策金利などの予想の修正に対して、政府が財政の道筋を制御できない懸念が重なり、債券市場に対して弱気の見方が広がっています。最近のエネルギー価格の上昇は、短期的にインフレを助長するリスクがあり、公共サービス、エネルギー転換、安全保障など政府支出に対する圧力は消えることはないと見ています。もちろん、利回りが上昇すると、新しく発行される債券のクーポンが高くなるために、政府の将来の借入コストも上昇しますが、しかし、英国では以前に5%のクーポンで発行された債券が今年の3月に償還を迎えるため、ある程度の追い風があれば、この国債の借り換えはコストが低下する可能性があると見ています。ただし、これは例外的な事例と思われます。
筆者はスワップや社債と比較して国債が割安になっていると述べてきました。その状況は続いています。市場では、政府の信用リスクが企業の信用リスクよりも高くなっているとの見方があります。企業の債券発行が続いており、発行額は今年に入ってすでに800億ドルを超えています。銀行が新発の社債を引き受けるときには、国債を売却して自身の取引帳簿をヘッジしています。もしトランプ氏が米国の銀行に対する規制の緩和に動くと、米国の各銀行は国債を保有する必要性が低下することになる可能性があります。その場合には、債券価格が下落する可能性が高くなると思われます。
債券の年 3.0か
過去2年間、筆者は「債券の年」という説明を続けてきていました。それは部分的にはパフォーマンスによって報われたものの、国債市場のボラティリティは依然として高いままです。ICE BoA グローバル総合債券指数は、2023年と2024年にプラスのトータルリターンを提供しました。しかし、構成する各債券市場のリターンはまちまちでした。社債などのクレジットは国債を上回り、短期債が長期債を上回りました。グローバル総合の1~3年の債券市場では2024年に3.8%のトータルリターンを提供しましたが、7~10年の債券市場は0.9%のプラス、10年以上の債券市場では3%の損失となりました。欧州では、投資適格債券市場とユーロ圏ハイイールド市場は2年間良好なパフォーマンスを示し、ポンド建ての投資適格短期債券市場も好調でした。短期のハイイールド債券市場は、長期の高格付け国債よりも良好なパフォーマンスを示しました。
年初に債券の利回りが高いことは投資の面では比較的良好なことと見ています。これにより、この資産クラス全体での適切なリターンの可能性が高まると見ています。キャリーだけでもリターンに比較的大きな貢献をすると見ています。債券のインカムリターンは安定しており、米国の投資適格社債のインカムリターンは2021年と2022年で年率3.2%でした。過去2年間2023年と2024年ではそれぞれ4.5%でした。米国ハイイールド債券市場では、インカムリターンは7%に近くなっています。国債金利が比較的高く上昇している場合、インカムリターンがトータルリターンに占める割合がかなり大きくなります。
金利見通し
市場織り込みは、金利低下見通しについて悲観的になっていると思います。米国と英国の金利は、当面は4.00%~4.25%の範囲にとどまると見込まれています。市場が金利上昇を織り込む理由がなければ、それは債券にとって問題ではないと思われます。そのための重要な要素はインフレの見通しです。米国と英国の両国で、12月のインフレデータは市場予想よりも良好であったために、売られ過ぎた債券市場では債券価格が上昇しました。12月のコアインフレ率は、両国ともに3.2%でした。両国の中央銀行が再び金利を引き下げるためには、この数値を下回る必要がありますが、12月のデータ自体は短期的には債券市場にはプラスの材料と見ています。しかし、エネルギー価格とトランプ氏に関連するリスクが、短期的なインフレに対する主要な脅威と見ています。
クレジットの見通し
クレジットスプレッド(基準となる利回りに対するクレジット債券利回りとの差)の縮小が昨年の話題となりました。これにより、投資適格およびハイイールド市場においてクレジットが国債を上回るパフォーマンスを生み出しました。金利が上昇した理由や、中央銀行の緩和があまり織り込まれていない理由、すなわち強い経済は、今後のクレジットスプレッドの安定を意味すると見ています。確かに、クレジットに対して比較的堅調な需要があります。合併・買収関連の企業借入が急増しない限り、または企業の収益成長が鈍化してクーポン支払い能力に影響を与える恐れがない限り、クレジット市場は2025年の債券投資家にとって安定してインカムを獲得する源泉になると見ています。
国債金利の上昇は債券戦略への投資家には比較的好材料
私たちは、2010年以降の約10年間と比較して、比較的金利の高い環境にいます。繰り返しますが、これは債券からインカムを求める投資家にとってはプラスの環境です。デュレーションは管理およびヘッジできますが、インカムリターンは安定しており、複利の効果を見落とすべきではないと考えます。債券市場に関する市場のコメントの多くに当てはまりますが、流動性は比較的良好で、需要は相対的に堅調であり、デフォルトによって損失を被る可能性は依然として相対的に低くなっていると見ています。グローバル投資家が米国株式に更に投資を追加する余地は限られていると見ています。特に、パフォーマンスが依然として一部銘柄にかなり集中する可能性が高く、市場の成長株式セクターが割高の領域になっている為です。一方、債券は相対的に良好な分散投資の機会を提供していると見ています。願わくば、分散投資が、トランプ氏が就任した後に公表され始める各政策課題にうまく対処できることを期待しています。
パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ブルームバーグ、アクサIMグループ。特に記載がない限り、2025年1月16日現在。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
(オリジナル記事は1月17日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
本資料で使用している指数について
ブルームバーグ・グローバル総合指数:ブルームバーグが算出する、複数の自国通貨市場のグローバルな投資適格債で構成 される旗艦インデックスです。
ICE BofA グローバル総合債券指数:ICEデータ・インデックス社が公表している国債や社債など世界の投資適格債券の値動きを示す指数です。
※本資料中の指数等の著作権、知的財産権、その他一切の権利はその発行者に帰属します。
ご留意事項