会計「ビッグバン」?IFRS第9号および第17号が保険会社の投資に及ぼす影響
キーポイント
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今年適用される新たな会計基準(IFRS第9号と第17号)は、保険会計の要件が大幅に変わることを意味する。資産ポートフォリオの構築と管理方法に関して課題があるが、機会もある
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その影響は、投資ポートフォリオの背後にある保険業務のタイプおよび、適用されるIFRS第17号測定モデルによって異なる
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保険会社の最高投資責任者(CIO)は状況に応じて、自社の資産配分やポートフォリオの設計および管理の見直しを検討する必要があると当社は考える
根強いインフレが空前の金融引き締めおよび金利の急騰を引き起こし、それが今度はボラティリティをよみがえらせ、市場の流動性状況の変化を招きました。これは保険会社にとって貸借対照表の管理における課題をもたらし、リスクを効率的に管理し投資利益率を回復できるような資産ポートフォリオの見直しを求める重要な時期になっています。保険会社はそれと同時に、IFRS(国際財務報告基準)第9号およびIFRS第17号が今年発効することから、規制・会計面における「ビッグバン」からの要求も考慮に入れなければなりません。1
ひと言で言えば、IFRS第9号は金融資産の分類および測定に影響するのに対し、IFRS第17号は保険負債の認識、測定、表示、開示に関する原則を打ち立てるものです。IFRS第9号は、それ自体では以前のIAS第39号基準と比べて大変革をもたらすわけではありませんが2 、投資の選択が正しくなければ損益計算書(PL)の変動性が高くなる可能性があります。
IFRS第4号に代わるIFRS第17号は、はるかに構造的な影響をもたらします。これは実際、保険会計要件における20年間で最大の変更を表し、保険会社は財務諸表の抜本的な見直しを求められています。
IFRS第17号の目的は、経済的現実をより良く反映し、比較可能性を改善することにあります。IFRS第17号は保険商品の経済性、キャッシュ、資本の側面を変更するものではありません。採算性のある保険事業は今後も採算性を維持するでしょう。しかしながら、保険契約を現在価値で測定することを要求しており、貸借対照表の構成要素の構造と評価を変えることになります。
不均等な影響
さらに、現地の規則に従った以前の制度では利益が保険料の受け取り時に認識されたかもしれませんが、今後は保険会社が保険または投資サービスを提供する時点で認識されることになります。これにより、各報告期間に認識される利益の金額および表示方法が変わります。それがもたらしうる結果については、生命保険事業では財務実績がより安定するのに対し、損害保険(P&C)やその他の補償保険事業では金利変動への敏感度が上がり、より不安定になると当社は見ています。3
これらの基準の複合的効果は、関係する保険契約の種類によって、保険会社がどのように資産ポートフォリオを構成・管理するかに関して大きな影響を与える可能性があります。このため、これらの新制度がどのように相互作用するかを理解することが極めて重要になります。
重要な見解のひとつは、配当付き生命保険事業を行う保険会社は、現地の(つまり異なる)会計規則に制約されずに、資産ポートフォリオの構成と管理においてはるかに高い柔軟性の恩恵を受けられることです。これは、直接の参加機能をそなえた特定の契約(いわゆる変動手数料アプローチモデルを使用する契約)を裏付けるポートフォリオからのリターンは、直接損益に影響しないからです。パフォーマンスの効果が損益に影響するのは契約上のサービス・マージンを通して徐々にのみであり、リターンは保険契約の有効期間を通じてPLで償却されます。
これは実際面では、ポートフォリオがよりアクティブに運用され、デリバティブベースの戦略がより容易に使用され、投資戦略形式に関して制約が少なくなる(オープンエンド型ファンド対分離勘定)ことを意味すると当社は考えます。
ポートフォリオの調整
「ビルディング・ブロック方式」および「保険料配分方式」として知られる測定モデル下にある無配当の生命保険や損害保険の契約を裏付けるその他の資産ポートフォリオについては4 、IFRS第9号の制約がフルに適用されます。これは、損益の変動性を最小限にしたい保険会社は戦略的選択を行えることを意味します。会計目的では、保険会社はこれらの投資ポートフォリオ内の資産を、複数の方法のうちいずれかに分類しなければなりません。この点において最も適切な選択は「純損益を通じた公正価値」(FVTPL)または「その他の包括利益(OCI)」です。
IFRS第9号の下に大半の資産をFVTPLとして分類した保険会社は、損益のボラティリティが部分的に相殺されることになります。これは負債(保険金の請求額など)が、様々な金利を組み合わせたものではなく、市場に連動した金利に基づいて割り引かれるためです。この効果は、IFRS第17号の下ではデフォルトで損益に計上されます。この場合、資産・負債間の適切なデュレーション・マッチングにより、顧客はこの相殺を最大化できるはずであり、適切に設計され、負債を認識した債券ポートフォリオの後押しとなります。
資産の大半をOCIとして分類した保険会社は、IFRS第17号の下でOCIを選択した可能性が高いと思われます。これは、保険会社の負債価値に対する金利変動の影響が、損益ではなくOCIに計上されるという効果があります。この場合、OCIとして分類できる資産の割合を最大化することが、損益の変動性を緩和するためのカギとなると当社は考えます。
当社の見解では、影響を受ける保険会社は、IFRS第9号の下でデフォルトでFVTPLとして分類されるオープンエンド型ファンドよりも、「SPPI(元本および利息の支払いのみ)」テストに準拠する専用の債券ソリューションや資産を選好する可能性があります。5 保険会社はまた、IFRS第9号の下での予想信用損失に基づく減損リスクを緩和する目的で、分散化を高める必要もあると当社は考えます。オープンエンド型ファンドを通して投資する際には、短期デュレーション・ハイイールド債戦略のように、比較的低い変動性を示している戦略が好ましいかもしれません。
保険会社はさらに、IFRS第9号の下で純資産のOCIオプションを選んだかどうかにより、自社の株式エクスポージャーの性質を再考する必要もあります。IFRS第9号の下では、株式投資はデフォルトでFVTPLとして分類されることから、ここでも保険会社は、純利益の変動性を緩和するために低変動性またはリスク管理付きの株式戦略を選好する可能性があります。
株式を「その他の包括利益を通じた公正価値(FVOCI)」として分類するオプションは提供されていますが、この場合に収益に計上できるのは配当金のみであり、純利益に株式の潜在的なパフォーマンスを完全に認識できません。株式投資をOCIとして分類する投資家は、潜在的な利益を最大化するためポートフォリオの配当利回りを高めようとしたくなるかもしれませんが、これによって生じる可能性のある株式ファクターのバイアスや環境、社会、ガバナンス面での影響に注意を払う必要があります。
行動を起こすべき時
保険会社の最高投資責任者にとって、今回の変更は他の懸念ももたらします。たとえば、IFRS第17号「保険料配分アプローチ」モデル下での損害保険契約では、今年度の保険金請求(数年にわたり支払いがない可能性もある)は今年度の金利を用いて計上されます。名目上の請求金額は割り引きできることから、これにより合算率(受け取った保険料に対する請求金額)を低下させるため、損益が上昇する効果を持つ可能性があります。ただし時の経過とともに、今年度以前の支払備金の割引が固定利率で解除され、損益に悪影響を与える可能性があります。これにより損害保険会社の損益は、IFRS第17号の下で金利の変化により敏感になり、従ってより変動性が大きくなる可能性があります。
言い換えれば、しばらく高金利が続いた後に著しい金利の低下があった場合、当年度の損益が打撃を受けることになります(合算率が上昇)。保険会社は常に再投資リスクの管理を試みてきましたが、今、これがさらに重要性を増すと当社は考えます。債券およびデリバティブ投資を組み合わせたカスタムメイドの債券ソリューションでは、特定のヘッジ手法をより容易に導入できます。
IFRS第9号およびIFRS第17号(および現地の会計枠組みとの潜在的な相互作用)の複雑な複合的効果を考えると、保険会社の運用担当者は、投資ポートフォリオに対するこれら新会計制度の影響をまだ完全に把握していないかもしれません。しかしながら、そういった影響を管理するためにかかる時間は、有意義だと思われます。ポートフォリオの管理にさらなる柔軟性を得る企業もあれば、PLを適応させるのに新たなオプションを得る企業もあるでしょう。最終的に、これらの新しい基準にうまく対応することは、ポートフォリオ構成および資産配分における重要な変更を前提とし、財務実績の最適化に役立つ戦略的決定を必要とすると当社は考えます。
(オリジナル記事は7月11日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
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