Core CIO Office 投資環境と見解 : 8月の市場変動に対する 市場の耐久力
Chris Iggo, アクサ IM コア CIO
市場が見せた8月の急落後の反発は、2024年の残りの期間が良好であることの兆しかもしれない
8月初旬に市場のボラティリティが上昇した原因が何であれ、年初来のパフォーマンスを台無しにするほど深刻な事態には至っていません。株式市場と社債などのクレジット市場は素早く反発する一方で、VIX指数*のようなリスク指標も穏やかな比較的低水準へ収束しました。しかし、8月初旬の市場動向が浮かび上がらせたことは、市場が材料をかなり織り込み済みであるために、季節的に薄商いの為にボラティリティが跳ね上がったとはいえ、ファンダメンタルに関して予想に反するニュースには市場が脆弱になっていることでした。市場が米国の雇用統計や日本の金融政策、テクノロジー企業の業績に敏感になっている為に、今後数カ月のうちにもう一度市場に動揺が起こる可能性も考えられます。しかし同時に、リスク性資産を売却する動きが急速に反転したことは良いニュースと見ることもできると思います。
ファンダメンタルは依然として市場の下支え材料となっています。米連邦制度理事会(FRB)は他の中央銀行の動きの後、もうすぐ利下げを始める可能性があると見ています。その他、クレジット市場では、借換え問題は依然表面化しておらず、主要市場の今年第2四半期の企業業績も市場の予想をおおむね満たしています。また、政治的なリスクも落ち着いてきていると思います。2024年末に向けて、リスク性資産は引き続き比較的好調なパフォーマンスを示す可能性があり、その際には、成長株やベータ値が比較的高いクレジット債券が、年初来の動きと同様に、市場をけん引していくと見ています。ハイイールド債券や他の短期債券クレジット投資戦略が年末までの4か月間に比較的低リスクでプラスのリターンを提供できる可能性が高いと考えています。
* 参照している指数について:VIX指数は、シカゴオプション取引所がS&P500種指数のオプション取引の値動きをもとに算出・公表している指数です。
Alessandro Tentori, 欧州CIO
ハイイールド債券のオプション性の機会
ハイイールド債券はポートフォリオのリスクを高める資産クラスの一つです。しかし、最近の株式市場の動向を見ると異なる状況が見えてきます。右下のグラフは、ICE BoA 米ハイイールド債券指数をS&P500指数**と比較したものです。ここで示しているのは、米国株式市場は7月5日から16日までに約8.5%下落した一方で、米ハイイールド市場は1%に満たない下落にとどまったことでした。さらに、ハイイールド指数は下落を取り戻し、2024年の高値を更新しています。
ハイイールド債券の回復力は需給面の支えもその理由ですが、ここで考えるポイントとしてハイイールド債券に含まれる‘ディフェンシブ・オプション’が関連しています。他の社債と同様、ハイイールド債の利回りは、リスクフリー債券の利回りとリスク性クレジットのスプレッドで構成されます。このスプレッド部分は、市場下落時に約80~85bp(ベーシスポイント)拡大したものの、同時にリスクフリーとしての米国債利回りが急低下したために、ハイイールド債のトータルリターンの悪化は比較的軽微でした。この二つの構成要素を計算して損益分岐点を計算することもできるものの、既にハイイールド債券市場に投資をしている投資家にとって、この二要素が持つ逆相関性が有益な特性になっていると考えています。
他の有益な特性は、ハイイールドのデュレーションが比較的短いことであり、特に絶対的な利回りが比較的高い期間には、特にプラスに働くと見ています。このデュレーション特性にはクレジットリスクとタイムバリュー(時間的価値)の間にトレードオフの関係があります。投資家は比較的魅力的なキャリー属性を享受しながら、同時にスプレッドが拡大する過度な感応度を回避することができると考えられます。近い将来に米国がリセッション(景気後退)に陥るとは考えていませんが、もし、米国経済がリセッションを避けることができれば、投資家は この特性の恩恵を獲得できる可能性があると見ています。
** 参照している指数について:ICE BofA 米ハイイールド債券指数は、ICEデータ・インデックス社が公表している米国社債の値動きを示す指数です。S&P500指数は、S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500銘柄の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
Ecaterina Bigos, アジアCIO
経済のリバランスという中国の困難な道のり
中国の現在の経済政策手段(インフラや製造業への投資)が、中国の実質国内総生産(GDP)の成長を支える役割を果たしているように思われます。しかし、 この手段はデフレ圧力を定着させて、過剰な生産能力への懸念を強めるという代償を伴うと見ています。生産者物価の下落圧力も輸出価格に影響を及ぼし、デフレを輸出するという恐れを助長していると思われます。しかし、多くの国が依然としてインフレ対策に取り組んでいる為に、こうした下落圧力はまだ受容されています。しかしインフレ率が目標水準にまで鎮静化してくるときには、問題となる可能性があります。
世界貿易を頼みとしてデフレから脱却することは、難しくなってきていると見ています。先進国や新興国で幅広く貿易が軟調となる中で、中国の7月の輸出は減速を強めており、この減速は輸出という景気のけん引力が弱くなる可能性を示す暫定的な兆しを示していると考えます。ここ数四半期間、住宅分野の低下や消費の伸びの停滞の中にあって、中国経済にとって輸出は重要な成長の原動力でした。しかし、輸出が減速する場合には、2024年の下半期の産業部門の成長見通しに関して不透明感が強まってくると思います。
この減速は、外需が軟化しつつあるという注意すべき兆しが原因と考えています。さらには、この貿易状況は過剰生産能力という問題を悪化させて、インフレ低下圧力を加えて、将来の債務負担を増やすことにも繋がると見ています。
資産クラス別概要
表明された見解は、資産クラスのリターンおよびリスクに関する CIO チームの予想を反映しています。各色は長期的に観測される動向と比較した今後3~6か月のリターンの見通しを示しています。
ポジティブ | ニュートラル | ネガティブ |
---|
金利 | 先進国のデータは、9月からの利下げを示唆しているが、それ以降の道筋は不確実性が高まっていると見ている | |
---|---|---|
米国債 | FRBは9月に利下げする可能性が高いと見ている。新しい経済データやこの利下げ後の道筋によっては、市場のボラティリティが高まる可能性があると考えている | |
ユーロ — 中核国 | 欧州中央銀行(ECB)の追加利下げが予想されている。政治的な不透明さは依然としてリスクとなっている | |
ユーロ — 周辺国 | ドイツ国債よりも実質利回りが高く、投資機会があると見ている | |
英国債 | 市場は利下げを十分に織り込み済みであり、市場は財政政策の発表待ちの状況にあると見ている | |
日本国債 | 日銀金融政策の正常化への道筋に不確実性が高く、円は依然として変動が比較的大きいと見ている | |
インフレ連動債 | 2024年末までの期間にインフレがゆっくりと沈静化するとの見通しの中で、安定的な推移を見込む |
クレジット | 価格状況が投資妙味を高めており、この資産クラスが他の資産を上回るリターンを上げる可能があると見ている | |
---|---|---|
米ドル投資適格債 | 経済成長が大きく悪化する状況にない為に、クレジットは引き続き回復力が強いと見ている | |
ユーロ投資適格債 | 底堅い成長と金利低下の動きによって、クレジットのインカムの魅力が増加すると考えている | |
英ポンド投資適格債 | 経済成長の改善と利下げ見込みによって、リターンが下支えされると見ている | |
米ドルハイイールド | ファンダメンタルと調達は堅調であり、インフレの鎮静化の中での経済成長という見通しが市場を支えると見ている | |
ユーロハイイールド | ファンダメンタルは堅調であり、需給面とECBの利下げがトータルリターンを支えると見ている | |
新興国ハードカレシー | 比較的質の高いユニバースは、米国の利下げによって恩恵を受ける可能性があると見ている |
株式 | インフレ率の低下は企業業績のサイクルに影響すると見ている。人工知能(AI)投資から得られる収益が予想に届かない場合には市場のリスクとなる可能性があると見ている | |
---|---|---|
米国 | 成長と質が依然として重要な要因だが、 企業の業績の勢い(モメンタム)にも注意が必要と考える | |
欧州 | 経済データや企業業績が予想を上回る状況があり、バリュエーションには魅力があると見ている | |
英国 | 比較的魅力度が高く、経済の成長モメンタムもプラスと見ている | |
日本 | 半導体の成長から恩恵を得ている一方、パフォーマンスの一層の向上には、改革と金融政策に着目する必要があると考えている | |
中国 | 成長のバランスが引き続きとれておらず、鉱工業生産の加速が軟調な消費を覆い隠していると見ている | |
投資テーマ* | テクノロジーと自動化への長期的な投資支出が、相対的なアウトパフォームをサポートすると見ている |
* アクサIMグループでは、企業が活用している6つのメガトレンドを特定しました。これらは、進化する世界経済を乗り切って行くのに最適な位置にあると、当社グループが考えるものです:テクノロジーと自動化、コネクテッドコンシューマー(つながる消費者)、高齢化とライフスタイル、社会の繁栄、エネルギー転換、生物多様性。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
企業への参照は例証のみを目的としており、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。
ご留意事項