強気相場に感謝
マクロ環境は経済指標やインフレが軟調さを示しているために、市場では、これ以上の金融政策の引き締めが必要との考えは弱まってきました。しかし、主要な中央銀行は緩和する考えはなく、また、間近の利下げという意見を否定するものと思われます。このことから考えられる結論として、キャッシュ利回りは比較的高いままながら、債券市場がもっと強気になるということです。債券の利回りは4~6月期と7~9月期の期間、長らく上昇を続けました。そのため、今下がり始めている利回りは、前向きなムードが過熱する前に、さらに低下する可能性があります。2023年の残りの期間に市場のニュースも限られたものになり、また、休暇シーズンが近づいているので、サンタクロース・ラリー(クリスマスから新年にかけて、証券市場の価格が上がること)が早くも始まったようです。
11月の花火
債券市場は11月に入って価格上昇を続けています。金融市場の価格変動に季節的な傾向があるか否かは別として、今年の11月の動きは合理的に説明することができそうです。10月分の軟調な米国雇用統計や予想よりも穏やかなインフレデータに刺激を受けて、市場では、中央銀行は「高く、長く」という姿勢を改めて見直すべきだという見方が出始めているようです。市場が2024年に大幅な利下げを織り込む動きを強めようとすることに対抗して、米国連邦準備銀行(FRB)や欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BoE)は、それぞれの政策ガイダンスを繰り返し表明する必要があると思われます。もしそうしなければ、債券市場は先回りした動きをするかもしれません。「債券の年」はこの2か月に凝縮される可能性があります。
依然として高い
冷静に分析すると、債券投資家と中央銀行とのいたちごっこが続くと思われます。10月のインフレデータは市場の予想を下回ったものの、中央銀行が望む水準を依然として上回っています。加えて、経済成長に関するデータは、インフレが中央銀行の目標レベルにまで低下するにはまだ不十分だと考えられます。事実、長期債券は価格が上昇したものの、市場での金利見通しはわずかに低下したにとどまりました。フェデラル・ファンド(FF)金利先物市場から抽出するFF金利(米国の政策金利)に関する市場の2024年の期待水準は、今年の10月時予想の4.80%からわずかに低下し4.35%になったにすぎません。ECBやBoEに関する同様の分析では、ECBについては期待水準の変化がほとんどなく、BoEについては緩和期待がやや高まっています。利下げはされると思われるものの、来年の早い時期ではなく、また、過去2年間の大幅利上げから比べるとわずかな下げ幅にとどまると見ています。
半減、また半減
インフレを目標の水準に引き戻す努力の中で、「最後の一キロが一番苦しい」とよく言われます。自分の政府がインフレを半減させたという英国スナク首相の主張は、妥当なものではないかもしれません。しかし、英国のインフレ率を更に半減させ目標に戻すことは、これまで以上に困難と思われます。インフレと失業の関係性を示すフィリップス曲線が以前よりも平たん化しているのであれば、「最後の一キロ」を進むために雇用市場が大きく軟調となる可能性があります。中央銀行は、ソフト・ランディング(景気の軟着陸)が実現しない限り、雇用市場の調整が必要だろうと考えていると思われます。このソフト・ランディングとは、個人消費が堅調なまま、商品市況やエネルギー価格、住宅価格、賃金上昇が穏やかな動きになることを意味します。これまでのところ、最も蓋然性が高いと思われる仮定は、金融政策担当者が政策を堅持して、2024年まで短期金利を高く留めるであろうということです。
債券での収益機会
しかし、だからといって投資家は債券から遠ざかる必要はありません。金利がさらに上昇する可能性は低いと思われ、最近の価格動向から判断すると、利回りが十分にある場合には、債券への需要があるということがわかります。米国10年国債が5%に達すると買いが強まりすぐに利回りが低下したことや、11月15日に発行された2043年償還の英国国債への需要が旺盛だったことが、この見方を裏付けています。現在の利回り水準や広がってきたリスク・プレミアムを考えると、価値獲得の機会が高まっていると考えられます。
年末のスクイーズ
社債をみると、年末が近づき、新規発行が鈍くなる時期です。休暇の季節になると、流動性が乏しくなります。この社債のスクイーズ(買いが難しくなる状態)が起こりつつあります。英国市場では、国債に対する社債のスプレッドは10月後半から11月15日にはかけて縮小が見られました。同じようなスプレッド縮小が社債市場全体に起こっており、今月これまでのトータルリターンの高さを支えています。供給が乏しく、年末に需要が強まることによって、社債市場は適格債券及びハイイールド債券ともに支えられるものと思われます。
超過無し
もし2024年になって名目GDP (国内総生産)の成長が鈍化し、金利見通しの方向がはっきり変わってくると、金利そのものが変わらなくても、こうした変化が債券の価格動向には支援材料となると見ています。社債は恩恵を受けるものとみており、また、この景気サイクルの中では、投機的な借入が過度に積みあがっていないことから判断すれば、経済状況が本当に悪化した場合に信用スプレッドが拡大する余地は限られていると思われます。確かに、企業の収入と利益が圧迫されたり、レバレッジをかけたビジネスに混乱の兆しがあったりする場合、スプレッドが拡大する可能性が高まります。いつもと同じように、債券投資家は信用状態の悪化に警戒をする必要はあります。しかし、マクロ経済の観点からは、信用リスクの度合いは管理可能な水準にあると思われます。
業績へのリスク
株式市場も11月はここまで好調ですが、FRBが最後に利上げした7月26日の株価水準をまだ下回っています。今後株価がどう動くかは成長性が重要です。株式市場はインフレデータの軟化や債券利回りの低下を歓迎しています。成長の鈍化が進み、本当にインフレが払しょくされる場合には、売上成長が滞ることは避けられず、また、一方で雇用を確保しておこうという動きがまだ続く場合には利益率にも低下圧力がかかります。当社の見込みでは、2024年にGDP成長率が低下する場合、ソフト・ランディングというシナリオでは利益の成長は維持できると考えています。しかし、MSCIオール・カントリー株式指数の採用企業について、市場のコンセンサスでは来年の業績は約10%拡大と見ています。この名目業績成長は今年のこれまでの業績拡大を超えるものです。もし、この成長予測が達成されれば、人工知能関連のテクノロジー株のバリュエーションがさらに高まる可能性があります。一方、現状では、株式市場の変動性が低下しているために、株式のエクスポージャーについて、ソフトランディングできずに米国株式市場が現在のバリュエーション水準を維持できず下落するリスクを割安でヘッジできます。米国以外の地域では、バリュエーションに関する懸念はそれほど強くありません。米国株の楽観的な見方に亀裂が入れば、欧州株と日本株のほうがアウトパフォームするものと予想されます。
流動的な状況
私はマクロ経済の勢いに変化を感じています。この数か月間、英国の消費者物価指数の伸びは前月比で見れば、この二年間に見られた高い変化率よりも、1990年から2022年までの変化の平均水準に大きく近づいています。言い換えると、インフレは正常化しつつあります。前年同月比でみるとまだ高い水準にありますが、最近の伸び率の傾向が続けば、来年のインフレ率はさらに低下すると思われます。そして、このことに債券市場は気づいていると思われます。
中央銀行は、2024年に米国と英国で行われる予定の極めて重要な選挙戦に向けて、来年は緩和を行っているかもしれません。それはまた別の機会に議論するとして、英国で短命に終わったトラス政権によって引き起こされた唯一の長続きする好影響は、英国債券市場に価値をもたらしたことです。昨年は、英国国債指数のトータルリターンは3.3%の上昇でした。広く取引されている2061年償還の英国国債は先月18%のリターンでした。もしこれが米国で起こるとすれば、11月の感謝祭は楽しいひと時になることでしょう。
パフォーマンスやその他のデータの出所: Refinitiv Datastream、Bloomberg。2023年11月16日現在。
過去の実績は将来の成果を示すものではありません。
(オリジナル記事は11月17日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
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