債券リターンの向上と株式60%債券40%のバランス型ポートフォリオ
債券の利回りは株式の利回りに比べて上昇しています。場合によっては、この差は20年以上見られなかったレベルに達しています。これは、債券からのトータルリターンが今後プラスになる可能性が高く、3年間の損失を解消し、典型的なバランス型ポートフォリオのリターンも改善する可能性があることを示唆しています。市場の見通しはすっきりしませんが、債券市場での高い利回りの複利効果を見過ごすべきではないと考えます。
利回りの差
2000年頃、米国10年国債利回りは、米国株式市場の益利回りを下回りました。益利回りは株価収益率の逆数であり、すべての収益が株主に支払われた場合に投資家が得る利回りです。利益の一部は配当の形で株主に分配されます。残りは、成長またはその他の理由で保持されるか、自社株買いの形で定期的に株主に返還されます。それにもかかわらず、「益利回り差」は、知られているように、債券と株式の相対的な価値を調べるためによく使用される基準です。つい最近、10年債利回りが米国株式市場の益利回りを上回りました。市場参加者の一部にとって、これは債券と株式との相対的な魅力が大幅に変化していることを示唆しています。
代わりに配当利回りを債券利回りと比較する場合、ほとんどの主要市場において、世界金融危機の後、配当利回りが債券利回りを上回りましたが、量的緩和(QE)が株式と比較して債券利回りを抑制していました。しかし、足元の2年間で、配当利回りは債券利回りに比べて急激に低下しています。米国と欧州の市場では、株式市場全体の実績配当利回りは現在、国債指数の利回りを下回っています。投資家は政府からクーポンの支払いを受けることはほぼ確実ですが、投資先の企業から配当の支払いを受けることは必ずしも決まったことではありません。
縮小
もし量的緩和の直接的または間接的な目標が投資家にとって株式市場をより魅力的なものにすることであったとすれば、それは機能しました。しかし今、その逆が現実になりつつあります。債券利回りは株式利回りに比べて上昇しています。米国のS&P 500を見ると、時価総額加重指数の益利回りは現在、10年国債利回りをわずかに下回っていますが、均等加重指数の益利回りは10年国債利回りを1%足らず上回っています。新型コロナウイルスの発生に対し市場の懸念が強かった時には、利回りの差は6%から7%であり、パンデミック前の20年間では利回りの差は2%から5%の範囲でした。
どちらに投資するか?
米国株式の配当利回りは約1.6%です。5年物国債利回りは4.9%であり、典型的な社債指数の利回りは6.5%近くにあります。株式が債券と競争するためには、平均配当成長率は少なくとも年間3.3%である必要がありますが、投資家が株式固有の高いボラティリティに対してプレミアムを必要とする場合はさらに高くなります。もちろん、株価は経済の先行きに対する楽観的な見方で上昇する可能性がありますが、先行きは確かなものではありません。現在のコンセンサス予想では、S&P 500の利益成長率は来年にかけて約10%になる見込みです。それが正しければ、株式投資は良く思えます。しかし、マクロ経済の見通しが非常に曖昧なままであるため、より保守的な資産配分ポジションがふさわしい場合があるでしょう。
リスクプレミアムの変化
英国市場の配当利回りも2010年以来初めて、基準となる国債利回りを下回りました。欧州と日本では、債券利回りの上昇に伴い、配当利回りとの差は縮小したものの、依然としてわずかに配当利回りが高くなっています。債券のリスクプレミアムが上昇している原因は、中央銀行がインフレ目標を達成する為に適切と思われる将来の金利水準が不確実になっているというからだという議論があります。同時に、相対的な株式リスクプレミアムは低下したとみられます。株式からのリターンの実績ヒストリカル・ボラティリティは、国債のリターンの約3倍であることは心に留めておくべきでしょう。
先行きのリターン
株式が債券に比べて高すぎる水準になっていると言うのは単純すぎるかもしれません。過去3年間の債券リターンがマイナスだったことは、その議論を簡単にするものではありません。しかし、債券利回りが大幅に上昇したため、期待リスク調整後リターンに変化が見られました。ここで考慮すべき2つのポイントがあります。第一に、現在の債券利回り水準は、投資家がプラスのリターンを得る可能性が高いことを示唆していることです。1973年までさかのぼる米国債利回りと指数データを使用すると、分析によると、10年国債の現在の利回り4.9%で指数に投資すると、理論的には1年間で10%近く、2年間で17%のリターンが得られます。もちろん、過去のパフォーマンスは将来のリターンを保証するものではありませんが、最低1年間は保有すると考える場合、今日の利回りは、歴史的にみると、その後のリターンがプラスになる投資の開始点を表しています。
第2のポイントは、今日の債券リターンの見通しが、投資家が株式と債券の典型的なバランスのとれたポートフォリオを見る見方を変えるということです。QE期間以前は、債券はほとんどの場合プラスのリターンを提供していました(リターンがマイナスになった期間は短かった為、2021年以降の前例のない債券損失とは異なり、それほど重要ではありませんでした)。債券はまた、不況時のような株式からのリターンがマイナスである場合にプラスのリターンをもたらす傾向がありました。経済が安定していた時は、インカムを生み出すのに十分高い債券利回りとプラスの経済成長の恩恵を受ける株式によって、債券と株式の両方がプラスのリターンをもたらしました。世界金融危機以前は、株式60%と債券40%組入れるポートフォリオのリターンが年率10%程度になると予想することは珍しいことではありませんでした。しかし、過去5年間で、定型化されたこの60/40ポートフォリオからの一年間のローリングリターン(リターン計測期間の起点と終点をずらしながら一定の保有期間とする場合の期間リターン)は、ユーロ、スターリング・ポンド、または米ドル市場のいずれに投資されたかに応じて、0%から6%の間です。いずれの場合も、このバランス型ポートフォリオによる最近のリターンは、以前債券利回りが現在の水準だった時よりも低くなっています。これは、債券利回りの低下と、そのために生じた分散効果の欠如がその理由でしたが、こうした状況はすでに解消しています。
悪いことを忘れるべからず
私たちが投資市場の転換点にいるかどうかはわかりません。投資家心理には大きな逆風が残っています。公式の政策金利は高く、少なくとも来年半ばまでとして織り込まれた利下げに関してはほとんど安心できるものではありません。キャッシュは依然として強力な競合資産クラスです。しかし、キャッシュを保有することには再投資リスクがあり、中央銀行が利下げに着手すれば、そのリスクが顕在化します。その他にも、企業収益と信用の質に影響を与えうる主要経済国における潜在的な景気後退の傾向、中東での紛争が激化するリスク、ウクライナ戦争の継続、また、米中関係をめぐる政治的不確実性、特にドナルド・トランプが米国大統領選挙レースに留まっているために増している不確実性等、様々なリスクがあります。
リスクオフ(リスク回避)の懸念が高まっている
しかし、相対的なリスクプレミアム(証券の期待収益率と無リスク金利との差であり、金融商品のリスクに対して支払われる対価のこと)が急激に変化することによって、株式に対する債券の魅力が高まっています。債券は、投資家が一般的に好む投資期間(1〜3年)においてプラスのリターンをもたらすことが予想できますが、リターンは変動が続く可能性はあります。中央銀行の政策は、現在のインフレ率が2%という目標値を大きく上回っている場合、金利がさらに上昇しなければならないという懸念を、ある期間引き起こす可能性があります。しかし、他方では、米国での信用問題の増加、英国の個人消費の低迷、ユーロ圏経済の全般的な沈滞などについて、セルサイド(株式や債券を売る側のことであり、証券会社や投資銀行などを示す)のコメントが増え始めています。来月、米国政府機関が閉鎖される可能性があり、GDPの成長に影響を及ぼし、また、その際には、政府はシャットダウン中に経済統計を発表しないため、経済動向を評価する能力に影響を与えます。これらすべてが、市場のバランスをよりリスクオフの状態に変化させます。
インフレが鍵–2024年には解決されるか?
最大の脅威はインフレです。市場のコンセンサスでは、インフレは2024年にさらに低下すると見ています。問題は、インフレ動向がどのように変化したか、または近年の世界経済への構造的ショックが価格の動きにどのような影響を与えたかがわからないことです。英国の公共部門の労働者の賃金は今年大きく引き上げられましたが、それは今後の賃金期待に組み込まれるかもしれません。企業は、独自の価格(値上げ)設定ポリシーを活用するために、全般的なインフレというテーマに飛びついています。コモディティ市場は混乱と気候変動に敏感です。うまくいけば、20年間の低インフレがインフレ行動に長期的な影響を及ぼし、別のインフレの波を回避することができると思われます。その場合、名目および実質リターンは60/40のバランス型投資を価値のあるものにすることができます。
パフォーマンスデータとその出所: Refinitiv Datastream, Bloomberg、2023年10月20日現在。
オリジナル記事は10月20日に掲載されました。こちらをご覧ください。
ご留意事項