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マーケット見通し

テーブルマウンテンへの最後の訪問


キーポイント:

  • 米国の金利のピークは、2006年から2007年の期間に金利が「より高く、より長く」続いた時期に似ており、10から11カ月続くと予想されています
  • しかし、当時は力強い成長期待が資本市場を支えていた為、世界経済は今の状況とは違っていたと思われます
  • 現在の景気見通しは弱気になっており、金利の引き下げ時にはリスク資産の価格調整が起こる反面、長期デュレーションの債券は好調なパフォーマンスを上げる可能性があります

「歴史は繰り返さないが、しばしば韻を踏む」 ― マーク・トウェイン

16から17年前を振り返ってみましょう。2006年6月29日から2007年9月18日まで、米国連邦準備制度理事会(FRB)はフェデラルファンドの翌日物金利を5.25%に維持しました。今日の市場予想では、FRBは現在の金利水準5.5%を7月26日から据え置いていますが、2024年4~6月期末まで維持するとしています。前回の金利据置き期間は15カ月続き、今回は、金利のピークはおよそ10~11カ月続くと、現在予想されています。この高原状況は、一部では、平坦な頂上で有名な南アフリカの山にちなんで「テーブルマウンテン」モデルと呼ばれています。1

2006年から2007年の当時、GDP成長率の平均は約2.0%でした。これは、ある種のソフトランディング(景気が穏やかに減速して安定成長に移行すること)でした。消費者物価の上昇は2005年中盤の約4.5%から2006年終盤から2007年初旬にかけて1.5%~2.5%に落ち着きました。米10年国債と2年国債のスプレッドの差で測定されるイールドカーブはこの間、2007年中旬に市場がFRBの金利引き下げを織り込み始めるまで、大半の時期で逆転していました。ただし、その利下げ期待が実現するまでには時間がかかりました。米連邦公開市場委員会(FOMC)の2007年6月会合議事録を振り返ると、政策立案者らが見ていた最大のリスクは、当時のインフレが予想通りに減速しないことでした。議事録はまた、成長が減速し住宅部門が調整していることに言及していますが、金利は変更しませんでした。 

当時の状況は現在とは世界的に少し違っていました。中国はこの期間のGDP成長が12~14%と、高成長局面にありました。しかし類似点もありました。それはドルが強かったことです。また、米国の労働市場は2007年後半まで失業率が5.0%を下回り、ひっ迫していました(金利がピークに達した6ヵ月後の2006年12月に最低値4.4%を記録)。

当時の市場の様子

では、前回の金利が「より高く、より長く」続いた期間に、市場はどのように推移したのでしょうか。

良い面として、ばらつきが大きくあったにしても、すべてがプラスの収益を上げました。2006年から2007年の期間を振り返ると、日本の株式市場がパフォーマンスとして最低の市場であり、株価指数のリターンがわずか4.5%であった一方、新興国の株式市場は大きなリターンを上げました。これは極めて高い成長局面を行く中国が先導したもので、同国の株式市場はこの期間に200%上昇しました。

これが翻って、メキシコ、ブラジル、香港、韓国、そして日本などの市場リターンにプラスの影響を与えました。欧州では当時、金利が上昇する過程でしたが、ドイツが西側株式市場で最高のパフォーマンスを上げました。これは、自動車などドイツ製品に対する中国の需要を反映したものです。

欧米の中核市場はこの期間、まずまずのパフォーマンスを上げました。S&P500 および Euro Stoxx 指数はおよそ20%上昇しました が、当時は景気後退懸念が市場を覆うほどではなかったと思われます。国際通貨基金による2006年9月の「世界経済見通し」では、米国経済が2006年に3.1%、2007年に2.7%、そしてユーロ圏は2.4%および2.0%成長すると予測していました。中国の成長率は10.0%と予測されていました。力強い成長予想が主流であったことは、株式市場に有利にはたらきました 。ここに、今日の状況と大きな差があります。市場での現在の成長予想は、主要経済圏が2024年に景気後退に近づき、中国はバランスシート問題に引き続き苦しむというものです。

当時の株式のプラスのリターンと合致し、債券ではハイイールド市場が最も高いリターンをあげました。英国ギルド債を含む欧州の国債はプラスのリターンを上げましたが、当時の利回りは4~5%の範囲であり、トータルリターンの大半がインカムによるものでした。今日と同じく全般的に逆イールドカーブであったことから、短期デュレーション戦略がより高いリターンを上げました。長期デュレーションの債券資産がリターンを上げ始めたのは、高金利期間の終盤、投資家がFRBによる利下げを憶測し始めた頃になってからでした。そして、FRBが実際に利下げを行ったのは2007年7~9月期、米国の住宅市場に亀裂が入る兆候が見られた頃でした。

学ぶべき教訓

あの時期からどのような教訓が学べるでしょうか。金利がいつまでピークに留まるか、また、これが実際にピークなのかどうか本当には分かりません。しかし中心的なシナリオは、経済が減速しながらインフレ率がFRBの目標値に戻ったことをデータが示唆するまで、金利が据え置きになるというものです。興味深いことに、2007年にFRBを利下げに追い込んだのは成長データでした。失業率が上昇を始め、銀行および住宅市場の危機の兆候が拡大していました。その後、インフレは2007年の終盤に再度加速し、2008年後半までに5.6%に達しました。

1つ目の教訓は、金融政策は急速に変わることがあるということです。実際にFRBが利下げを始めると、それは急速かつ大胆に進みました。

今回の金利サイクルでは、高金利が短期デュレーション戦略を支えました。ハイイールド債も強力なパフォーマンスを上げていますが、これは、すでに行ってきた金融引締めに経済が実質的に反応する兆しをまだ見せていないという現実を反映しています。一方で、長期デュレーションのパフォーマンスは振るいませんでした。景気低迷の兆しは広く現れてはなく、インフレ率は未だ目標値を上回っている一方、FRBが現在のスタンスを転換しようとするシグナルを送る様子もありません。このことはFRB理事らの発言から明らかです。

したがって短期デュレーション、ハイイールド債、およびレバレッジドローンのような資産が好調なパフォーマンスを続け、長期デュレーションの資産は苦戦する可能性があります。2007年当時、長期デュレーションの債券は「より高く、より長く」の時期の終焉近くになって初めて、ハイイールド債をアウトパフォームしました。また、債券のパフォーマンスが株式を上回ったのは、FRBが金融緩和を始めてからでした。その後、世界経済が現在「世界金融危機」として知られるバランスシート崩壊の悪循環に陥った為に、リスク資産と比較してデュレーションが大きくリターンを上げることになりました。

そこで、2つ目の教訓は、金融政策はいずれ機能するが、中央銀行はそれがどのように展開するか実際には制御できないということです。非直線的な金利引き上げにより住宅市場が軟化し、世界的な金融危機につながることは、2007年中盤に発表されたFOMCの見通しには入っていませんでした。したがって、今回の金利サイクルにおけるマイナスの影響は否定できません。今後リスク資産のパフォーマンスが著しく不調となる時期が来る可能性があります。

市場に対する現在の展望

歴史は韻を踏みます。短期金利が高く逆イールドカーブの状況では、長期債が利回りを大きく超えるリターンを上げることは困難です。2006~2007年には投資適格債が国債のパフォーマンスを多少上回りましたが、スプレッドは「より高く、より長く」の期間の前半では縮小していました。金利がピークに達して1年経った頃、スプレッドは急拡大し始めました。信用スプレッドの水準は今日、2006~2007年の水準よりも高い為、国債と比べたキャリーの獲得可能性を考慮すると、クレジットリターンは現在の方が良い可能性が高くなっています。今年の年初からこれまでこうした状況にあり、米国および欧州の投資適格債はそれぞれの国債よりも2~3%高いパフォーマンスを上げています。翌日物金利に近い基礎金利の上にスプレッドが重なるために、短期デュレーション債券が目下、好調なパフォーマンスを続ける可能性が最も高いように見えます。

株式市場については、成長の見通しは前回に比べて弱まっています。グローバル化の人気が落ちていなかった2000年代半ばと比較して、中国に影が覆いつつあり、株価パフォーマンスの主な原動力のひとつが失われつつあります。高金利が持続する時期は、FRBが2年間にわたり425ベーシスポイントの引き締めを行った期間の後に訪れました。しかし株式のリターンは全般にプラスでした。今回の金利に関する背景は類似していますが、成長は鈍化しています。これにより、FRBが金利を5.25~5.50%の水準に保っている状態で、中核の株式市場が20%のリターンを上げるのはもっと難しくなる可能性があります。

興味深いことに、FRBが7月26日にフェデラルファンド金利を5.25~5.50%に引き上げて以来、世界の株式は6%を超えるマイナスのリターン、米国債はマイナス3.6%のリターンとなりました。これは2006年に見られた経緯とは異なります。レバレッジを効かせた成長は当時の志向でしたが、これは今日現れてはいません。

最終的には、金融引き締めは機能します。2007年には米国の住宅市場そして次に金融システムに打撃を与え、その影響は2008年に悪化しました。それは最終的に2009年、米国GDP成長の急落につながりました。インフレが暴落しマイナスに転じ、米国の失業率は10%に急騰しました。FRBは2008年に金利を4.25%から0.25%へと大胆な引き下げを余儀なくされ、このレベルは2015年末まで変わりませんでした。

FRBは、2004年中盤に金融サイクルを開始して後、引き締め路線を3年間続けました。もし今回同様の経緯をたどるとすれば、金利が2024年中盤まで据え置きになった場合、2024年終盤または2025年初旬に景気後退がようやく訪れ、リスク資産は長期にわたりパフォーマンスが低迷し、長期デュレーションの債券はこれまでの平均を超えるリターンをもたらす可能性があります。少なくとも現時点では、これが世界経済にとってテーブルマウンテンへの最後の訪問となるかも知れません。

したがって景気後退が来ると考える投資家は、インフレが収まり、金利が引き下げられ、リスク資産の価格調整があると予想しています。やはり韻を踏んでいます。

市場データの出所:Refinitiv Datastream, Bloomberg。2023年9月27日現在。過去の実績は将来の結果を示すものではありません

(オリジナル記事は9月29日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

 

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