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Investment Institute
マーケット見通し

山を下る


金利が低下に向かうことは、少なくとも市場の織り込み具合から見ると、明らかと思われます。市場は、米国の政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利が3%に、欧州の政策金利が2%に向かっていると示唆しています。この道筋は、経済データが軟化を続け、インフレ率が中央銀行の目標に向けて緩やかに低下することによって導かれています。これは投資家にとっては良いニュースと見ています。というのも、金融政策が緩和に向かうということは、債券や株式のリターンの維持を意味し、また、経済の緩やかな減速がリセッション(景気後退)に発展しないように支えると考えられるからです。債券にとってのリスクは、米国大統領選挙の結果によってはインフレを引き起こす政策が議題に上るのではないかとの見方から生じると見ています。社債などのクレジットや株式にとってのリスクは、成長に関するデータが主な原因になると見ています。現時点(執筆時)では、テーブルマウンテン(金利のピークが高い水準で長く状態を、平坦な頂上で有名な南アフリカの山になぞらえた言い方)の坂道を下っていく途上であるとの見方が最も合理的と思われます。


コストが低下するマネー

家計や企業は借入コストの低下から恩恵を受けることになります。市場は来年に金利が比較的大きく引き下げられることをかなりの程度織り込んでいます。先週筆者は、この強気の市場センチメントが債券市場の最近の好調なパフォーマンスに反映されていると書きましたが、この傾向はさらに続くと見ています。借入コストの低下は企業のキャッシュフローにはプラスの効果となり、住宅ローンやその他の借入金を借り換える必要がある家計にとっては歓迎すべきものと思われます。現在は、景気循環後期の緩やかな減速局面にあり、世界的に金融緩和が必要とされていると考えています。リセッションが避けられれば、そのことは投資家にとって良いニュースと思われます。実際、中央銀行が期待通りに金利を引き下げれば、景気後退の可能性は低くなると考えられます。また、債券市場、株式市場ともにリターンは比較的堅調な推移を維持していると見ています。

借入の好機

金利低下の影響の一例として、米国の社債市場を見てみましょう。1年前、実勢利回りによって表される新発社債のコストは、平均クーポンによって表される既発債のコストよりも200ベーシスポイント(bp)上回っていました。もし企業が2023年9月に債務を借り換えた場合、資金調達コストが大きく上昇する可能性がありました。現在、このコストの差は50bp未満に縮小しています。ユーロ建ての投資適格社債にとって、この差は250bpから90bpに狭まり、ポンド建ての投資適格社債にとっては220bpから85bpに縮小しました。最近、債券新規発行が非常に活発に行われているのは驚くことではないかもしれません。というのも、企業は、金利市場が再び上昇する可能性(あまりに急速に、比較的大幅に低下したため)や、経済データが引き続き軟調さを示してクレジットスプレッドが拡大する可能性があるため、以前よりも低下してきた現状の資金調達コストを利用していると見ています。現状の追加借入コストは、継続する堅調な企業収益を背景にした、既発債に対する最低限のコストとして見る必要があると考えます。つまり、金利負担能力が低下するものではないと見ています。これはクレジット投資家にとってプラスと考えられます。

中央銀行に逆らってはいけない

この強気の債券市場の背景に対して、今週(執筆時)、アクサIMグループの運用チームは市場の定期的な評価の一環として、セルサイドのエコノミストやストラテジストらと会合を持ちました。一般的な見解は、成長が減速しており、中央銀行がそれに従って対応しているというものでした。現行の市場水準が示す政策変更の正確なタイミングには意見の相違があるものの、ターミナルレート(金融政策のサイクルの中で最終的な政策金利の水準)の市場の織り込み状況については実質的な異論はありませんでした。市場が英国の利下げをあまり織り込んでいない状況は、米国や欧州と比べてやや異質なものに見えますが、これは英イングランド銀行(BoE)が緩和的な姿勢に進むことを認めたがっていないことを反映していると見ています。しかし、市場では、英国のイールドカーブ(金利曲線)も近いうちに下降すると見られています。アクサIMグループの債券に対するポジティブな見通しを揺るがすような意見はほとんどありませんでした。12日木曜には、欧州中央銀行(ECB)が市場の予想通り、主要政策金利をさらに25bp引き下げ、今年年末までにもう一段利下げの可能性があることを示しました。

中立を探る

主要経済圏の景気循環状況やソフトランディング(景気の軟着陸)とリセッションの境目についての議論の一環として、中立金利の概念が取り上げられることがありました。数か月前まで市場では、インフレが予想以上に長く続いていることが問題の中心になっていました。中立金利とは、経済がフル稼働しており、かつインフレーションが安定している場合の短期金利(または経済理論の世界にしか存在しない概念であるr-star)のことですが、市場では、中立金利がパンデミック前やインフレショック以前の時期よりも高くなったと考える時期がありました。中立金利の上昇は、名目金利が過去の金利サイクルと同じくらいまで低下することはできないということを意味します。議論の中で時折、中立金利が高くなったため(観測されることのできないものの)、金利政策が中央銀行の思惑よりも引締めになっていないのではないかとの主張もありました。しかし、現在では、中立金利がそれほど大幅に上昇していないという見方が広がっています。そのため、ターミナルレートに関する現在の市場見通しは合理的であると思われます。つまり、米国の実質中立金利が1%で、インフレ率が2%であるならば、3%のFF金利は名目中立金利を表しており、それは緩和的な金融政策ではないと考えられます。ニューヨーク連邦準備銀行によって発表される実質中立金利についてしばしば引用される2つの推定値によると、実質中立金利は0.75%から1.25%の間にあるとされています。したがって、債券市場におけるリスクシナリオとして、リセッションへの懸念が高まり、中立金利以下の金利水準が必要とされ、米国の名目金利が2%以下にまで低下する可能性があると考えられます。

金利にとってのリスク

債券市場の強気相場に対する主なリスクは、インフレ率がこれからは低下しない可能性、ドナルド・トランプ氏の米国大統領選勝利の影響、発展途上国における財政政策への懸念の拡大などから生じる可能性があります。インフレデータによっては、その数字が下がってきているように見えますが、実際にはその数値をよく見てみる必要があります。選挙に関しては、カマラ・ハリス氏が10日の大統領候補者討論会で良いパフォーマンスを見せました。世論調査等によると、現時点では接戦になると予想されていますが、これは今後の数週間で変わるかもしれません。トランプ政権の政策課題については後で触れますが、債券投資家の基本的な仮定として、トランプ氏の政策はインフレを引き起こす可能性があります。もちろん、債券のアナリストやエコノミストは、赤字予算や政府の資金供給の増加、過剰な政府支出がインフレに及ぼす影響について懸念を抱いています。中には、スワップ(トレーダーが債券の相対価値を評価するために使用する指標)に対して米国の長期国債が割安になっていることは、米国の財政見通しを考慮して、長期国債に対してリスクプレミアムがもっと必要であることを示しているのではないかという意見もあります。しかし、11日の10年満期国債の入札は比較的良好な結果となりました。財政見通しが悪いとはいえ、現在の債券の強気相場に懸念を抱くには至っていないと思います。

中国

グローバルな観点から見ると、市場では、中国は弱点と見なされています。これには世界的な影響があります。目標よりも低い成長は不動産部門の不況から生じており、この不動産不況によって、投資が減少し、消費支出が低迷、貯蓄率が上昇しています。また、不動産不況は、不動産開発業者の債務や家計の住宅ローンの不良債権化が大規模に起こっていることを通じて金融上の問題を引き起こしています。中国は輸出の増加を成長の主要なエンジンとして推進していますが、中国の輸出に対する他国の様々な制限のため、一部の市場(例えば鉄鋼市場)では価格競争が生じる可能性があります。世界的に見ると、中国はデフレを輸出しています。海外需要の不足は中国の輸出業者にとって問題と思われます(例えば、ドイツ)。世帯収入を増やし、不良債権の解決を通じて国内需要を刺激するためのより多くの政策行動がなければ、負債とデフレの連鎖が悪化する可能性があり、これは人口動態の悪化によってさらに悪化する恐れがあると見ています。1990年代初頭から近年まで長年にわたり、日本の株式市場に投資することは決して良い投資戦略ではありませんでした。現在の中国はこのかつての日本の状況に陥る可能性があると見ています。

トランプ氏が復帰した場合

話をトランプ氏に戻します。もし同氏が再選された場合、その政権は厳しい関税を輸入品に課そうとすると思われます。この課税は主に中国に対してですが、世界の他の国にも課す可能性があります。これに対抗して、他国が米国製品に関税を課すという報復が生じるリスクがあります。そのような貿易戦争の影響をモデル化するのは難しいことですが、貿易活動にとって良いものではなく、世界全体の成長にとっても良いものではないと考えています。輸入品に高い関税をかけて国内産業を保護する政策を利用して国内生産者が利益率を引き上げるため、関税と価格上昇によりインフレが上昇すると見ています。通貨価値の切り下げが関税の影響を相殺するために行われる可能性がありますが、それはゼロサムゲーム(参加者の利益と損失の総和がゼロになるゲーム)であることは市場ではよく知られています。これもまた、インフレを引き起こす可能性があります。

一方で、米国内ではトランプ氏は金利低下を推進しようとするでしょう(彼が世界に一貫して思い出させてきたように、彼は不動産業者です)。また、2016年の減税措置を延長し、さらなる税金軽減策を模索する可能性があります。これは、米連邦準備制度理事会(FRB)にとって金利を明確な方向に導くことが難しい時期になる可能性があり、貿易の成長低下の影響から短期金利を低下させる必要がある一方で、長期金利におけるリスクプレミアムが増加する可能性も考えられます。願わくは、良識が勝ち、最悪の政策が行われることはリスクとしては確率が低いことを期待したいと思います。しかし、中長期的には考慮すべきことであると考えます。

現状は強気相場

トランプ氏の政策については選挙後に考慮すべきことと思います。現時点では、筆者は市場に対して前向きな姿勢を維持しています。現状では市場金利が下がってきています。これにより、国債の魅力が低下していますが、それでも金融引締めサイクルが始まる前よりも価値があります。クレジット市場は安定しており、発行と需要は堅調です。今後数か月で、キャッシュの金利は高格付けの社債の利回りを下回ることになると見ています。これは2023年末以来のことです。これにより、社債戦略への資金流入が維持されると考えます。本稿執筆時現在、米国ハイイールド債の利回りとFF金利との差は約175bpです。この差は拡大していくと見ており、それにより株式よりもリスクリターンが良好な社債戦略に資金が流れ込む可能性があると見ています。

ドラマは消え去った

金利の動きに注目が集まる中で、最近は株式への関心が薄れていると思われます。しかし、全くの弱気というわけではないと見ています。企業業績は健全な状態にあり、業績の成長見通しも向上していると思われます。最近(8月や9月の初旬)の相場の変動の後、S&P500指数は再び最高値近くまで上昇してきました。金利が低下することは株式市場に追い風になると見ています。筆者は、株式戦略と債券戦略を60:40で組み込んだポートフォリオが2025年に向けて引き続き好成績を上げると見ています。

パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ブルームバーグ、アクサIM。特に記載がない限り、2024年9月12日現在

 

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過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。

(オリジナル記事は9月13日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

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