動揺しながらも混乱していない
比較的低い利回りが長らく続いた後、2022年以降の金融引き締め策により利回りが上昇しましたが、債券市場は2024年に回復しました。債券市場の標準から比較すると、今年7~9月期(第3四半期)のリターンは高くなりましたが、これは、主に米国の利下げに対して期待感が強くなっていったためと見ています。今後これが再現される可能性は低いと思いますが、市場が現在着目しているリスクそれぞれを考察してみると、債券への需要が続くことが示されていると見ています。ソフトランディング(景気の軟着陸)というマクロ経済的な背景が確実性を増してきているように見えますが、市場のボラティリティは上昇してきました。これにより、強固なファンダメンタルと高まる不確実性の間で債券市場が揺れ動いている為に、投資機会が生まれる可能性があると思います。今年末までの投資テーマとして、債券戦略ではインカム、株式戦略ではクオリティ銘柄(収益性が安定していて、債務水準の低い銘柄)に焦点を当てることが妥当と考えています。
回復が期待されていた債券市場
2024年第3四半期(Q3)は、債券投資家にとって、これまでにないほどのパフォーマンスとなりました。ICEが提供する債券指数の四半期トータルリターンのランキングによると、2024年Q3は、2012年Q3以来49回の同観測の中で、全体で見ると2番目に高いリターンになった四半期でした。そのうち、ICE BoAグローバル・クレジット指数にとっては3番目に良い四半期であり、ICE BoA 米国ハイイールド 指数にとっては4番目に良い四半期でした。米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策を引き締めに転じて以降、米国債のリターンがキャッシュを上回ったのは3回目であり、また、欧州国債市場もユーロのキャッシュに対して同様の状況でした。2024年9月までの12か月リターンは、同期間のICE BoA グローバル・クレジット指数の12か月間リターンとしては最高の結果となりました。
利下げサイクルが続く中、キャッシュ金利が低下する一方、債券利回りには低下余地があると思われる為に、債券投資戦略は投資家にとって引き続き興味深い戦略になっていると思われます。米国のリセッション(景気後退)や中東の紛争激化に懸念があると考える投資家にとっても、債券投資戦略は興味深いものと思います。米国10年国債の利回りは最近の数週間ではおおむね3.75%から4.0%の範囲で推移していますが、筆者は、この利回り水準は適正と考えています。しかし、市場がリスク回避の局面を迎えれば、それらはさらに低下する可能性があると見ています。
ニュートラルに近づく
景気循環について中心的見通しでは、ソフトランディングを予想しているため、債券市場から得られるリターンの最善の時期は過ぎ去ったと考えるのが妥当であると考えます。最近のパフォーマンスは、数か月前と比べて利下げ予想の大幅な修正を織り込むことによって推進されました。先物市場の水準を見ると、市場が織り込んでいる2025年末米ドル3か月物先物金利は、今年4月末時点の4.7%から、現在(執筆当時)の3%にまで低下しています。リセッションの明確な兆候がない限り、金利予測がもう一度これだけの幅で低下することは難しいと思われます。この期間に得たリターンを再び得るためには、米国10年国債の利回りが約3%まで低下する必要があります(執筆当時の米国10年国債利回りは約4%)。この状況を見ると、投資家は金利に対してニュートラルな立場に移行したと見ています。
押し戻し
筆者にとってここ数週間、顧客投資家と債券市場について議論することは興味深いことでした。投資家が債券市場の価格上昇を享受できたか否かに関係なく、現在の市場水準にはある程度の不安があるようです。筆者が市場を理解しているところでは、市場が見込んでいる金利水準は、ソフトランディングの見通し、及び、政策金利が2025年に中立水準(緩和でも引き締 めでもない政策金利の水準)に戻るとの見通しと整合しています。このシナリオに対する批判には、主に2つのテーマがあります。1つ目は、リセッションを否定できないことです。ただし、何がそれを引き起こす可能性があるのかについては誰も明確な見解を持っていないと思われます。これに関連して、株式市場がバブル状態にあり、それが崩壊する可能性があるという懸念があります。また、金利の低下に伴い、低品質の借入が増加する「非合理な熱狂」による信用状況の悪化への懸念もあります。さらに、労働市場が徐々に弱まり、製造業の不振が一般的な経済に広がるという懸念もあります。10月1日には、9月の米供給管理協会製造業景気指数(ISM製造業景気指数、50が拡大・縮小の分岐点)が発表されましたが、過去23か月のうち22か月で50未満を記録しています。通常、これは米国での幅広い経済の縮小を示唆します。
トランプ
金利シナリオに対する批判に関するもう一つのテーマは、トランプ氏が大統領に返り咲いた時のインフレ再燃懸念と、米国の財政危機への懸念に関する見通しです。米国債イールドカーブ(金利曲線)の長期部分のリスクプレミアムが増加する可能性が幾分あるものの、その他には、市場では、財政見通しは現状の投資の流れを大きく左右するテーマにはなっていません。しかし、特に欧州の顧客の間では、このテーマは注目されています。
石油は依然として重要
人間の本性かもしれませんが、人は時に、何かうまくいかなくなるかもしれないと心配する傾向が見受けられます。中東での紛争の激化は、何かが予期せずに起こる可能性があることを示していると思います。紛争が激化して世界の石油供給網が影響を受ける場合、経済成長やインフレに影響する可能性を通じて金利の予想を混乱させる可能性があると思います。石油市場では、イスラエルがイランの石油施設を攻撃する可能性が反映され始めています。ブレント原油12月先物価格は9月10日に付けた最近の安値から1バレルあたり8ドル上昇しました(ただし、今までのところ、先物の価格曲線は期近から期先までかなり平坦であり、石油トレーダーは必ずしも長期的な影響を価格に織り込んでいるわけではないと思われます)。石油はかつてほど重要ではなくなってきたと見ていますが、2022年に起こったエネルギー価格ショックは、世界のインフレと成長に影響を与える可能性があることを示しました。
様子見
ある顧客から、「我々は様子見の市場にいる」と言われました。現在市場が織り込んでいるゴールディロックス(景気が過熱もせず冷え込みもしない、適度な状況のこと)シナリオよりも、米国の財政政策によるインフレまたはリセッションについて、可能性が高くなるかどうかを見ているとのことです。また、米国の大統領選挙結果やイランとイスラエルの動向、欧州の政治的な変化、中国からの重要な政策発表が、債務とデフレーションのスパイラルを打破するかどうかを見守っているということでした。しかし、アクサIMグループとしては、こうした見方については懐疑的であり、中国での金融緩和以降の株価の急上昇を考えると、割安での投資機会は過ぎ去っていると考えています。
クレジットが巻き返し
様子見しながら、利回りを確保する戦略が良いかもしれません。市場が予想した金融政策の道筋に債券利回りが従っていくのであれば、社債などクレジットへの投資戦略によって追加利回りの獲得を目指すのが良いと考えています。米国のハイイールド市場では、デフォルト率は低いままなので、市場利回りは潜在的な損失リスクを十分に補う水準にあると見ています。現在の投資適格債市場では、米国市場の比較的低格付の債券分野で110-120ベーシスポイント(bp)の追加利回りを得られると思います。また、ユーロ市場の投資適格債市場では、105bp程度の追加利回りリターンを獲得できると思います。ハイイールド債戦略への配分により、ユーロでは約6%、米ドルでは約7%の利回りが得られる可能性があります。株式戦略の投資家にとって、筆者は、新しいアップルのiPhoneやエヌビディアのマイクロチップのパイプライン(処理要素を直列に連結し、ある要素の出力が次の要素の入力となるようにして、処理速度を向上する方法)についての市場での評価とともに、今年7~9月期の業績はテクノロジーセクターにとって良好な結果になると見ています。
顧客との典型的な問答
Q:米国はリセッション入りするだろうか? A:これはよくわかりません。リセッションは急速に起こることがあります。しかし、企業等の財務状況はほぼ健全と思われる状態にあり、失業率は比較的低水準にあり、また、政府も財政引き締めを行っていません。そのため、こうした環境では株式戦略やクレジット戦略にとって追い風が続くと考えています。
Q:中国の政策発表が成長と自信を回復させるか? A:この発表を受けて、株式市場は上昇しましたが、今後も継続するかどうかは不透明と見ています。政策措置が企業等の財務状況の健全性を回復するために十分であるかは明確ではないと見ています。
Q:米国の財政赤字と債務水準を心配すべきか? A:投資家の買い意欲が減退する兆候(つまり、軟調な入札や米ドルの下落により国際的な信頼が損なわれるような状況)が出るまでは、あまり心配する必要はないと考えています。また、米国政府の財政が引き金となって米国債市場が崩壊する可能性は極めて低いと考えています。もしそうなった場合、国債市場だけでなくクレジットスプレッドが広がり、その後予想される財政引き締めが経済成長に与える影響について不確実性が増して、米国の株式市場も打撃を受けることになると見ています。そして、米国での打撃は、世界に波及する可能性もあると思います。
Q:株式市場は過熱しているか? A:現在のS&P500指数の12か月先予想株価収益率(PER)は、3年間の平均よりも標準偏差で約1.4倍高い水準にあります。その他の指数(ナスダックやユーロストックス、FTSE250など)は、過去3年間の平均に近い水準にあります。大手のテクノロジー株は、他セクターと比べて割高と思われる水準で推移していますが、このセクターの過去の水準と比べて割高になってはいません。アップルのPERは34倍ですが、利益率は比較的高く、今年4~6月期の営業利益率は約30%で、株主資本利益率(ROE)は約160%です。ソフトランディングのシナリオが妥当であれば、企業業績状況や市場の投資家の潤沢な流動性資金の量(マネーマーケットファンド、プライベートクレジットの資金フローなど)を考えると、現時点では株式に対して悲観的な見方をするのは難しいと考えます。
収益と品質
もちろん、リスクは多々あります。これらのリスクに対して反応する市場の動きのタイミングを見極めることは難しいと思います。クレジット・デフォルト・スワップ指数、VIX株式ボラティリティ指数、米国のブレークイーブン・インフレ率は、ここ数週間で全て上昇しています。様々な地政学的な不確実性を考慮すると、今年の残りの期間に、市場のボラティリティが高くなると予想することは難しくないと思います。このような環境では、投資テーマとして、債券戦略ではインカム、株式戦略ではクオリティ銘柄に着目することが妥当であると見ています。
企業への参照は例証のみを目的としており、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
(オリジナル記事は10月4日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
本資料で使用している指数について
ICE BoA グローバル・クレジット、及び、ICE BoA 米国ハイイールド:ICEデータ・インデックス社が公表している世界の投資適格社債、及び米国のハイイールド社債の値動きを示す指数です。
ユーロストック:STOXX社が算出・公表している欧州先進国における株式市場の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
FTSE250 :FTSE社が算出・公表しているロンドン証券取引所に上場する時価総額が大きい100銘柄次ぐ中型株250銘柄の値動きの平均を示す時価総額加重型指数です。
クレジット・デフォルト・スワップ指数:マークイット社が計算、公表している米国の投資適格企業の流動性の高いCDSによって構成されているデフォルトリスクを測る指数
VIX株式ボラティリティ指数:シカゴオプション取引所がS&P500種指数のオプション取引の値動きをもとに算出・公表している指数です。
※本資料中の指数等の著作権、知的財産権、その他一切の権利はその発行者に帰属します。
ご留意事項