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Investment Institute
マーケット見通し

パーフェクト・ストーム: 脱グローバル化という逆風

主なポイント
企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)は、欧州の企業デューデリジェンスの進化における次の段階を示すものです
企業はデューデリジェンスに失敗した場合、年間売上の最大5%という多額の罰金を課せられます
企業は、人権と環境を尊重する義務と、気候変動移行計画を策定する義務を負います

グローバル化(技術、サービス、商品の国際貿易、投資と情報の流れによって推進される世界の経済と人口の相互関係の高まり)は、少なくとも5つの異なる逆風に直面しています。これらを順に説明し、その対処法についてお話ししたいと思います。

分配効果

これは貿易に関して古くから議論されているテーマです。 貿易は国々を豊かにしますが、一部の労働者や企業は損失を被ります。これは偶発的なものではなく、貿易とは、生産コストが比較的安い場所で生産することであり、一部の比較的製造コストの高い国内生産者が損害を被ることを意味します。

貿易は雇用喪失の唯一の原因ではないし、その主な原因でもないと考えられています。しかし、雇用喪失の原因が輸入の増加や企業の他国への移転によるものであれば、その原因を特定し、責任を問うことは容易と思います。

最近なぜこの議論が取り上げられてきているのでしょうか?その理由の1つは、貿易によって職を失った労働者を救済するための措置が全体として上手くいっていないことです。もうひとつは、「中国ショック」で起こったように、ある国を標的にできれば、失業の背後にある原因となる国を特定しやすくなることです。信頼できる推計によれば、米国において、1999年から2011年にかけて中国からの輸入製品との競争激化による雇用喪失の総数は200万から240万人に及んだと示唆されています1 。そして、これらの失業者の州ごとの分布を見てみると、2016年の大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利した州との相関性があると考えられます。さらに別の例では、フランスの農民がポーランドとハンガリーの安価な農産物の輸入に反対し、欧州連合(EU)によるルールを非難していることです。

以下で説明する他の要因と同様に、これらの懸念を無視することはできません。貿易調整支援政策は機能したことはなく、おそらく今後も機能しないと見ています。また、流通の観点から、一部の産業や労働者を保護することは理にかなっているかもしれません。たとえば、フランス小規模農家の生産物がより高価であったとしても、彼らを保護することは理にかなっているかもしれません。これは、フランスの消費者にとっては価格上昇を意味しますが、フランスの地方産業を存続させ、産業が衰退する地域の増加を避けるために支払う代償としては、まだ社会的に受け入れられるかもしれません。ここでの明らかな問題は、貿易による利点の大部分を失うことなく、保護をどのように行うかということです。

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国家安全保障

地政学的緊張が高まる世界では、例えば、米国の中国貿易への依存など非友好国への依存や、政情不安定な国からのレアメタル(希少金属)輸入への依存、半導体について世界の台湾への依存など、依存性を回避しようという動きには十分に意味があることと思われます。

ドイツが過去3年間、ロシア産天然ガスへの依存を減らしてきた事実は、企業や国が適応し、生産方法を変え、代替の供給元を見つけることができることを示唆しています。ただし、非常に短期間での禁輸措置導入の場合には適応が困難である場合があり、そのような状況に陥らないように予め対策を講じておくことは理にかなっていると思われます。

その際にリスクとなるのは、対策が悪用されて、ある産業を保護するために転用されることです。日本は米国の敵ではないのにも関わらず、日本製鉄によるUSスチールの買収に対して米国政府が反対していることはその典型的な例です。国防総省が購入している鉄鋼の量は、米国の鉄鋼生産量の3%にもなりません。

経済安全保障

中間財の貿易の割合は長期にわたりほぼ一定で、総貿易額の約60%を維持していますが、世界のサプライチェーン(供給網)はより複雑になり、サプライチェーンで障害が発生する可能性が高くなっていると見ています。タイにおける洪水、福島原発での災害、パンデミックによる混乱、紅海でのフーシ派による攻撃、ホルムズ海峡の閉鎖リスクなど、これらはすべてこの問題を浮き彫りにした例です。これは、一部の経済活動を国外から自国へ、または少なくとも友好国へ移管する必要性が高まっていることを示唆しています。

この場合、企業がリスクを評価し、サプライチェーンを再編することができるため、政策の役割はそれほど明確ではありません。しかし、世界金融危機の際に発生した問題と類似する、ネットワークの問題となると話は違います。企業は自社のサプライヤー(仕入れ先企業)については把握しているかもしれませんが、サプライヤーのサプライヤーまでは把握できていない場合があります。あるいは、代替となるサプライヤーを用意していても、それが他企業も依存するサプライヤーである場合には、十分には供給を受けられない状況となるおそれがあります。したがって、政府はシステム全体の回復力を検証する上で有用な役割を果たすことができると思われます。


産業政策

産業政策は長い間、経済学者の間で評判がよくありませんでした。それは、技術的に正しい選択よりも、ロビー活動を支援する可能性が高いと見られていたからです。 今ではほとんどの経済学者が、少なくとも2つの理由から、これに関してよりオープンな考え方を持つようになっています。1つには、以前の見方は極端すぎたこと、そしてもう1つは、実際にはしばしば経済的な成果があったことです。例えば、中国の太陽光パネルと電気自動車(EV)産業への手厚い補助金戦略は、他国よりも早く行動すれば利点が大きいことを示しています。また、インターネットの起源とも言われる高等研究計画局ネットワーク(ARPANET)は、経済的に大きな影響をもたらし、大成功を収めたと広く考えられています。また、先端技術、特に人工知能(AI)は、第三者への大きな影響と大幅な利益増加をもたらす可能性が高く、これらは、国家による介入を正当化する2つの要因となっています。

問題は、懸念点として述べたとおり、産業政策が他の目的、つまり主に国内メーカーの競争力向上を目的として利用される可能性があるということです。これは明らかに、EVやバッテリーの最終組み立て要件など、インフレ抑制法における多くの補助金の背後にある動機にもあてはまります。

地球温暖化対策

地球温暖化に対して政府が対策を講じる必要があることは広く認められていることと思います。また、化石燃料の使用に対する炭素税または炭素排出料金を課すことが重要な措置であることも考えられます。しかし、そのような課税は好まれず、国家予算への影響を無視すれば、グリーンエネルギーの使用に対する補助金がより魅力的な代替手段となります。国家予算への影響を別にしても、補助金は税金と完全に同じではありませんが、エネルギー生産におけるグリーンエネルギーの割合を増やすための適切な動機付けになると思います。

ここでの問題は、やはり国際競争力への影響です。ヨーロッパでは、炭素税と炭素排出料の導入が主流となっています。 一方、米国は補助金方式を選択しました。その結果、現在(執筆時)の為替レートでは、欧州企業の国際競争力は明らかに低下し、これは国境炭素税が導入されたとしても解決されない問題になると見ています。EU企業は税金の結果として、米国企業は補助金の結果として、それぞれの企業がともに排出量ゼロを達成した場合、国境炭素税は徴収されなくなり、EU企業は米国企業に対する競争力を失うことになります。貿易摩擦はすでに発生しており、関税紛争に発展する可能性も高くなっていると思われます。


今後の課題

これらの要因は、それぞれ異なる影響を及ぼしますが、いずれも貿易を減少させる方向に作用する可能性があると考えています。(筆者が意図的に省略した2つの要因をさらに追加することも可能です。つまり、関税を大きな収入源として利用するのは単純によくない考えであること、そして、各国は経常収支の黒字を維持すべきだという古い重商主義は、決してなくならない悪習であることです。)これらの要因のいくつかは互いに対立する可能性もあります。地球温暖化と戦う政府は、安価な中国製の太陽光パネルを購入すべきか、それとも国内メーカーを保護するために関税を課し、消費者により多くの出費を強いるべきでしょうか(この場合、すでに競争に負けており、中国製のパネルを使用するのが最善だと、筆者は考えています)。米国が中国製EVに高い関税を課しているため、中国が他の国々、特にEUでの販売を増やそうとすることになった場合、EUもまた、中国が中国国内のEU企業に報復するリスクを冒してでも、中国製EVに高い関税を課すべきでしょうか?中国車への関税引き上げとともに、EUにおける中国の自動車企業の外国直接投資(FDI)の制限を行うべきでしょうか、それとも、関税をきっかけとしてFDIを奨励すべきでしょうか?

経済的に正しい答えは、自由貿易を絶対的に保護するということではないと考えます。上で説明した5つの要因の背後にはそれぞれ、行われる際の良い理由と悪い理由があると考えます。消費者を犠牲にしつつも一部の産業分野を保護することが理にかなっている場合もあると思います。国家と経済の安全保障について心配するのはごく当然のことと思われます。産業政策は即座に拒否できるものではなく、望むと望まざるとにかかわらず、競争力に影響を及ぼすと見ています。炭素税が政治的に実現不可能であるとしても、地球温暖化との戦いが人類の存続に関わる問題であるなら、補助金を使うことは理にかなっているかもしれません。しかし同時に、いずれの場合も、その議論が旧弊を保護するための口実として悪用されるおそれがあると見ています。   

したがって、適切な政策を特定することは、協力的な結果と非協力的な結果の両方を考慮しつつ、ケースバイケースでの取り組みとなると考えます。以前であれば、世界貿易機関(WTO)が、何が公正な貿易で、何がそうでないかを評価し裁定する立場にありました。 しかし現在では、その影響力はあまりにも弱く、そのような立場にないと思われます。報復、激化、貿易紛争のリスクは高く、それに伴い非効率的で大きなコストにつながる脱グローバル化が起こる可能性もあります。今のところそれによる影響は限定的ですが、筆者はこの動きはまだ始まりにすぎないと懸念しています。 

 

本記事で述べられている見解や意見は著者のものであり、必ずしもアクサ IMの見解や意見を反映するものではありません。

企業への参照は例証のみを目的としており、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。

(オリジナル記事は7月22日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

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