ロボテック戦略月次レター:手術支援ロボットやデジタルヘルス関連銘柄が堅調
ロボテック戦略月次レター(2023年4月の振り返り)
手術支援ロボットやデジタルヘルス関連銘柄が堅調
手術件数の増加や糖尿病モニタリング機器の需要増が追い風
グローバル株式市場(MSCI ACWI、米ドルベース)は当月も上昇し、年初来での上昇幅を拡大させました。当戦略は情報技術セクターの保有銘柄、特に半導体やソフトウェア関連銘柄が軟調となり市場全体を下回るパフォーマンスとなりました。
ヘルスケア関連銘柄は、手術支援ロボットおよびデジタルヘルス関連分野がともに好調で大きくプラス寄与となりました。ヘルスケア関連企業は、手術件数の増加、医療現場の人手不足解消、サプライチェーン制約の緩和など業界全般に見られる追い風を受けており、2023年を通して回復が続くものと思われます。
中でも、手術支援ロボット大手のインテュイティブ・サージカルは、力強い2023年1-3月期決算を発表し、株価が大きく上昇しました。手術件数の伸びが、2022年10-12月期の18%から2023年1-3月期には26%へと加速しました。また、米食品医薬品局(FDA)は当月、同社手術支援ロボットの泌尿器科手術対象の拡大(各種前立腺切除手術)を承認し、市場もこの発表を好感しました。
糖尿病常時モニタリング機器のデクスコムも、従来製品を大幅に小型化した新製品の「G7」が好調で成長の勢いを増しています。同社の売上は米国市場が牽引し予想を上回りましたが、その他の市場でも成長が加速しており、G7は新たに8カ国での発売が計画されています。
銀行の経営危機問題など懸念材料はあるが、企業業績は概ね良好
インフレや利上げの見通しが不透明なことに加え、銀行の経営危機問題などで経済の全般的な健全性への懸念が生じていることから、投資家にとって難しい市場環境が続いています。
銀行システムに対する懸念は当月も続き、月末にかけて米地銀ファースト・リパブリック・バンクの経営不安から株価が大きく下落し、株式市場全体に影響を及ぼしました。また、米国の債務上限問題が市場参加者にとっての新たな懸念材料となっています。それでも、景気先行指標は引き続き底堅く推移しており、4月の米国ISM製造業景況指数は前月から上昇し、労働市場も逼迫した状態が続いています。企業の1-3月期決算発表については、これまでのところ概ね良好な結果となっており、市場予想が妥当、または保守的であったことを示唆しています。
引き続きマクロ経済情勢および地政学的問題が市場のセンチメントに影響を及ぼすと予想されますが、最近の経済指標の動向から利上げサイクルが終わりに近づくにつれ、これらの圧力の一部は徐々に緩和されると見ています。
労働力不足や主要国の政策対応がロボット・自動化投資を加速
多くの分野では、依然として労働力不足が事業の足かせとなっています。製造業や倉庫業では労働力不足が顕著で、特に若手労働者不足が問題になっています。労働コスト上昇や労働力不足に直面し、企業は今と同じか今より少ない労働力を用いて効率性と生産性を向上させるため、テクノロジーを導入し、プロセスを自動化させる必要性に迫られています。労働力不足と賃金インフレは、向こう数年にわたって自動化需要の大きな原動力になると考えています。
また、米国はインフラ支出と設備投資によって国内の製造業を再活性化させようとしています。バイデン大統領はインフレ抑制法を成立させ、米国製造業向けにより多くの財政支出をし、主要なテクノロジーの保護に動き出しています。関税、奨励金、サプライチェーン・リスクの低減などの結果、企業は国内の生産拠点へ再び投資するようになり、これによって技術の洗練、ロボット化・自動化を促しています。
当月には欧州連合(EU)が、米国の半導体産業支援策に対抗し、域内での半導体生産拡大を目指す法案に合意しました。EU補助金を含め官民で430億ユーロ(約6.3兆円)を投じる予定です。EUはやはり労働力不足と賃金インフレに直面しているため、半導体製造拠点確立のためには、高度なロボットや自動化技術の導入が必要です。
恒常的な労働力不足や大規模な政策措置がロボット・自動化関連ビジネスへの大きな追い風となっており、これは一時的なものではありません。当戦略においては、長期的な成長機会を提供している分野や企業に引き続き注目して投資を行っています。
ポートフォリオの動向
資本財関連銘柄は、引き続きサプライチェーン問題の最悪期を脱し、解消に向かいつつあることからパフォーマンスが改善傾向にあります。倉庫自動化ソリューションのKIONグループは決算発表前の事前リリースで、サプライチェーンの改善に恩恵を受けた産業トラック&サービス部門が牽引し、良好な収益が見込まれることを発表しました。これにより、通年の業績ガイダンスも上方修正されました。
産業用ロボットメーカーのファナックの業績は市場予想とほぼ一致する内容で、ロボマシンやロボット部門の受注増がFA(ファクトリーオートメーション)部門の受注減を補いました。また、経営陣は、中国などの主要市場における在庫水準が正常化するにつれて、FA部門の受注が1-3月期中に底を打ち回復に向かうと期待しています。安川電機は、23年2月期の決算で最高益を記録しました。受注については中国での落ち込みにより予想を下回りましたが、2月までの四半期で底を打ったとみられ、3月には中国およびグローバルで受注が回復傾向にあるとコメントしました。
年初来で堅調なパフォーマンスを続けていた半導体やソフトウェア関連銘柄は当月は反落し、マイナス寄与となりました。台湾の半導体受託製造大手TSMCの決算は強弱入り混じる内容となり、当初予想されたよりも大幅な在庫調整、下向きの半導体サイクルを示唆しました。これは、エンド市場における需要の回復の遅れ、2022年末における予想以上の在庫水準などが影響しています。現在のところTSMCの事業に占める割合は少ないものの、人工知能(AI)関連の受注は上向き傾向を示しており、中長期的に成長の原動力になると期待されます。
IoT(モノのインターネット)向け無線通信チップ大手の米シリコン・ラボラトリーズの1-3月期決算は予想と一致したものの、在庫解消、需要の低迷を反映し、4-6月期のガイダンスは予想を下回りました。中国の弱さが逆風となったものの、回復の兆しが見られるとのことです。ウルフスピードは1-3月期の収益は予想を上回ったものの、米国モホークバレー工場の立ち上げの更なる遅れから2024年度の売上高見通しが引き下げられました。ソフトウェア企業のアスペン・テクノロジーズは売上、利益などが予想を下回り、23年度の業績ガイダンスも下方修正されました。中でも化学関連のエンド市場における設備投資の減少が影響しています。
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