生物多様性に関する企業へのエンゲージメントがこれまで以上に重要となる理由
人間の生活や経済の繁栄は自然の恵みに依存していると考えています。従って、生物多様性の損失は社会が依存している生態系だけでなく、世界経済をも危険にさらすことになります。また、生物多様性の損失は地球温暖化をさらに進行させるため、自然と生物多様性の保全は気候変動に対処しようとする投資家にとって必須事項と見ています。2つの脅威は密接に関連していると考えます。
投資家は自然と生物多様性への配慮を自らのリサーチ、投資プロセス、エンゲージメント活動にしっかりと統合すべきである、とアクサIMは考えています。企業に対するエンゲージメントの実施は、意識の向上や知識の共有、2015年のパリ協定2 や国連の持続可能な開発目標(SDGs)3 などで定められているような、より広範な生物多様性目標の推進に貢献することができると見ています。
アクサIM独自のアプローチとして、エンゲージメント活動の優先順位付けに役立てるため、およびこれら活動に情報を提供するため、利用可能な生物多様性固有のデータを取り込んでいます。
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強化された基盤
2030年までに自然損失を食い止めて流れを反転させるための画期的な合意「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が2022年に採択されて以降、民間セクターの今後の活動を形成するのに間違いなく寄与すると考えられる重要な進展がいくつかありました4 。
2023年に2つの主要な国際基準が発表されました。科学に基づく目標ネットワーク(SBTN)は目標設定に関する指針を示すもので、この指針について各企業はパイロットテスト(最終的な試験的調査や検査)を開始しています5 。TNFD6 は、自然関連の依存関係、インパクト(影響)、リスク、機会に関する評価、報告、活動の開示について一連の勧告や指針を示す待望の枠組みを発表しました。
生物多様性の統合は発展途上であり、企業も投資家もまだ初期段階にとどまっています。現在、様々な市場関係者が新たなデータや指標、方法論のテストや開発を行っています。
環境NGO団体であるCDPが行った気候アンケートの生物多様性分野に関する回答によれば、生物多様性の統合、特に評価と指標は2023年でもまだ初期段階にあることが浮き彫りになりました。もっとも、多くの企業がこのテーマでの前進を前向きに検討しており、この複雑で比較的新しいテーマにすでに取り組み始めている企業もあります。
企業の間で機運を高めるために、NA1007 が2023年9月に正式に発足しました。アクサIMはその設立時投資家グループの一員であり、さらにその運営グループのメンバーとなっています。この取り組みは、自然と生物多様性の損失の流れを2030年までに反転させる上で体系的にカギになると考えられる重要セクターの企業に対するエンゲージメントの実施を目指しています。
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アクサIMエンゲージメントの目標と活動
この複雑で新しいテーマに関するアクサIMのエンゲージメント戦略は、既存の知識だけでなく、負のインパクトや生物多様性と自然にとって最も重要なセクター(食品産業や化学産業など)に関する新たな課題も取り込む方法で最大限の努力をすることからスタートしました。
アクサIMの生物多様性関連のエンゲージメントは、当初、生態系保全および森林伐採ポリシー8 の延長として森林破壊に焦点を当てていました。現在は、農林産物のサプライチェーン(供給網)、より具体的には森林破壊や生態系の転換に関連する主要な原材料(大豆、パーム油、牛、木材)のバリューチェーン(価値連鎖)に属する一部の企業に対してエンゲージメントを継続しています。
アクサIMは、森林破壊や自然生態系の転換に重大なインパクトを与える企業および既存のリスクやインパクトの管理という面でより大きな進展が必要とアクサIMが考える企業に焦点を当てました。2023年にこの方針の改訂版を発表し、プロセスや一般的な期待を含むエンゲージメント・アプローチの詳細を追加しました。アクサIMがエンゲージメントを実施した企業の計画や特性の結果として、アクサIMによる2023年の多くのエンゲージメントは、森林破壊のテーマなど、土地利用に関連した生物多様性への圧力に関わるものでした。
2022年以降は、森林破壊に加えて汚染やプラスチック、廃棄物などの他の側面および生物多様性データの専門プロバイダーであるIceberg Data Labの生物多様性フットプリント・データセット「コーポレート生物多様性フットプリント」(CBF、人間の活動が地球上の生物多様性にどれだけ影響を与えているかを示す指標)を用いて識別された特定の圧力に対象を拡大しました9 。このまだ発展途上ながら革新的な生物多様性に特化したデータは、重大な生物多様性フットプリントを示すセクターや企業を選択し、優先するのに役立っていると見ています。
生物多様性について、市場が発展初期の状況にあることを踏まえ、アクサIMのエンゲージメントの目的は、しっかりとした効果的な生物多様性アプローチを開発しようとする企業を支援することです。企業は、これらのエンゲージメントを通じて、行動計画を策定する際に業界のベストプラクティス(ある時点で考えられる最善の方法や事例)を共有することができ、また、生物多様性フットプリントの削減などの成果に関して、入手可能な知識と行動計画との整合性を確保することができると見ています。
最終目標は、企業が自然関連のリスクを考慮するようになり、より自然に優しく、自然にプラスとなる活動を行うように事業モデルを転換することです。これは、生物多様性リスク(事業活動の上流や下流から生じるものを含む)の緩和と削減を優先課題とし、「自然にポジティブな」変革を後押しすることを意味します。
生物多様性が気候変動よりも明らかに複雑で未成熟な問題であることを踏まえると、アクサIMが農業食品セクターや自動車セクター10 で実施したようなTNFDの試験的分析の適用は、投資が自然に与えるインパクトおよび関連する依存関係やリスクを理解し、評価する上で有用と見ています。こういった理解や評価に取り組み、自然の保全と回復に貢献できる投資機会を特定することは、同時に、より良い財務パフォーマンスと経済的成果をもたらすと考えます。
以下では、生物多様性に関するエンゲージメントの事例を2つ紹介します。
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事例:BHP
アクサIMは2022年、金属・鉱業グループのBHPに対し生物多様性に関するエンゲージメントを開始しました。その時点のアクサIMの目的は、当時現れつつあったこの複雑なテーマに取り組むためにBHPがどのような態勢を整えているかを全体的に把握することでした。その後、昆明・モントリオール生物多様性世界枠組みの採択後に生物多様性を巡る機運が高まる中で、アクサIMのエンゲージメントの主目的は、BHPが生物多様性と自然保護に関してしっかりとした戦略を確立するよう促すことへと変化しました。
アクサIMはNA100集団的エンゲージメント・イニシアティブを立ち上げた投資家グループの一員です。このイニシアティブは意欲、評価、目標、実施、ガバナンス、関与といった投資家が期待する6つの項目にわたって企業による自然に対する行動を促すことを目的としています。NA100は、自然と生物多様性の損失の流れを2030年までに反転させる上でカギとなる金属・鉱業部門でBHPが果たす役割に鑑み、同社をターゲット企業として特定しました。その結果、アクサIMは共同リーダーとして集団的エンゲージメントのアプローチをとることに移行しました。
このエンゲージメントでの優先事項は、BHPの自然関連目標と社内評価とが整合しているかどうかの把握、ガバナンス構造の調査、公共政策への関与状況の検討、外部基準に準拠することへのBHPの意欲の評価などでした。2024年のBHPとの会合で、BHPは現場レベルでの生物多様性指標の特定に焦点を当てていることやTNFD LEAPアプローチ(自然関連課題の評価のための統合的なアプローチ)11 を試験的に実施していることを強調しました。これについてアクサIMは前進ととらえています。同社は、情報開示の強化や自然保護活動の発展に関するアクサIMの意見を前向きに受け入れました。
この最初のエンゲージメントは生産的で知見に満ちたものであり、自然と生物多様性に関する建設的な対話の強固な基礎となりました。フォローアップとして、BHPの要請に従い、アクサIMは2024年の通年報告に係る情報開示の強化について提言を行う予定です。また、対話を継続してBHPが自然関連の取り組みで前進するよう支援する予定です。
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事例:ヴァンシ
アクサIMは2022年、生物多様性フットプリントに基づくエンゲージメント・プログラムの一環として、フランスの建設会社ヴァンシへのエンゲージメントを開始しました。この主な目的は、同社が生物多様性に及ぼしている重要なインパクトと整合するように生物多様性戦略を改定し、実行するよう促すことでした。
アクサIMの生物多様性フットプリント評価結果を共有した後、アクサIMのデータ・プロバイダーによって特定された環境への圧力とそれを削減するための実行可能な手段に焦点を当てて、ヴァンシと詳細な意見交換を行いました。興味深いことに、この評価結果はヴァンシの内部評価とほぼ一致していました。この機会に、アクサIMが投資家として生物多様性フットプリントのツールをどのように使用しているかを議論し、ヴァンシが理解することに関心を示した指標に関するアクサIMの期待を明確にしました。具体的には、生物多様性への負のインパクトを最小限に抑えることについてステークホルダー(利害関係者)が進捗状況をチェックできる指標を提示するよう同社に強く進言しました。
2023年も対話を継続することにより、最新の戦略の策定状況を把握し、ヴァンシが直面した課題についてその都度、意見を交換することができました。これらの課題としては、ボトムアップとトップダウンの測定手法の調整、多様なグループ事業間での測定手法の統一、一貫した戦略の伝達などが挙げられます。
2024年には、ヴァンシの生物多様性戦略策定の進捗状況について議論し、同グループの事業の生物多様性に対応する構造に関してアクサIMの評価と意見を提示しました。具体的には、各事業に関連する生物多様性圧力ごとに戦略を編成し、影響緩和の優先順位との整合性を確保し、負のインパクトを最小化する取り組みとプラスの貢献とを明確に区別することを推奨しました。
全体的に、ヴァンシはこれらの情報と意見を受け入れたように思われ、重要な問題に関してアクサIMの見解に同意しました。ヴァンシは最近、生物多様性戦略を改定しました。この改定はアクサIMの主要な提言に沿っており、エンゲージメントが目に見える進展をもたらしたことが分かります。
生物多様性に特化した戦略に関連するエンゲージメント
アクサIMはまた、生物多様性に特化した株式戦略に対し、対象を絞ったエンゲージメントを実施しています。2023年は以下のテーマについてエンゲージメントを実施しました。
出所:アクサIM 2023年。説明の目的でのみ作成。
変化からインパクトを導き出す
アクサIMは全体として「インパクト・エンゲージメント」アプローチを目指しています。このアプローチは本質的に戦略的で、達成できればかなりのプラスのインパクトをもたらす目標を伴い、多くの場合、企業の中核的活動の将来的な目標を推進するために、持続可能な開発目標(SDGs)に沿う形でどのように資本を配分することができるかに焦点を当てます。
このアプローチは、企業の事業運営のパフォーマンスに関する知見を得たり、負の外部性のリスクを軽減したり、サステナビリティ報告を改善したりするだけではありません。エンゲージメントは、重要な変化を引き起こす要因としての投資家の役割に注目することによって、上場企業において生物多様性へのプラスのインパクトを生み出す不可欠な手段であると、アクサIMは考えています。
今後の展望
アクサIMは、今後も引き続き生物多様性をエンゲージメントの主要テーマの一つとして優先していきます。生物多様性の中では森林破壊と汚染が依然として主要な優先テーマとなります。アクサIMは、発行体に対し、森林破壊や土地転換を行わないことへのコミットメントを強化し、その進捗を追跡、開示するよう引き続き奨励していきます。コミットメントを強化した発行体に関しては、目標を達成するための具体的な行動や実行メカニズムに焦点を当てます。アクサIMは、エンゲージメントやツールの増加、科学的発展の拡大、TNFDの立ち上げが進展に貢献するものと期待しています。
森林破壊と汚染への取り組みが成熟するにつれて、水と(プラスチックや廃棄物を含む)循環経済に関するエンゲージメントが増えると予想されます。今後数年、数十年の間に水不足またはそのおそれに対する認識が高まり、企業・政府双方にとってその経済的、社会的影響はさらに深刻化すると考えられます。
企業への参照は例証のみを目的としており、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
オリジナル記事は1月24日に掲載されました。こちらをご覧ください。
ご留意事項