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Investment Institute
マーケット見通し

アクサIM 米国大統領選への見解:トランプ氏当選は市場や投資家にとって何を意味するのか

主なポイント
米大統領選は予想よりも早く終結し、トランプ前大統領が当選した
共和党が上院で過半数を獲得、下院でも過半数に達する情勢となっており(11月6日執筆時)、そうなれば共和党の全面勝利となる
トランプ氏が二期目の主要テーマとして語っていること: 移民規制、関税、財政緩和、規制緩和
市場での認識では、こうしたテーマは前任期中に取り上げられたものの、当時のトランプ大統領が約束したほどの成果は得られなかったと見られている
当社グループでは、今回もトランプ大統領の政策が成果を上げないと想定して市場が自己満足することに警戒をしており、政局の確実性が政策の不確実性に変わったと認識している
トランプ氏が提案する経済的施策は今後数年にわたりインフレを加速する可能性があるため、当社グループは2026年に米国経済成長が鈍化するとの懸念を持っている
当社グループの見方では、インフレが加速する場合、米連邦準備制度理事会(FRB)は金融緩和政策の速度をゆるめて、来年3月に政策金利を4.25%にしてその後休止すると予想。
勝利を受けた11月6日の米国金融市場では、トランプトレード(トランプ氏の政策を見越した市場での取引)の動きが強まった。それによって、債券利回りが上昇、ドル高が進み、株価が上昇を続けた

11月6日の執筆時点で、トランプ前大統領が大統領選で勝利しました。この時点で、トランプ氏は選挙人を279人獲得し、ハリス氏は223人であり、予想よりも早い勝利の確定となりました。ジョージア州やノース・カロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシン州など主要なスウィングステート(支持の変動が大きい州)で勝利しました。これが勝利を決定づけました。

選挙前の世論調査では、歴史的な接戦の様相を示していましたが、結果は異なりました。トランプ氏の得票率は51.0%であり、ハリス氏は47.5%となっており、AP通信によると、ワシントン州とユタ州を除く全州で共和党の得票数が増えていると報じています。カナダのトルドー首相や英国スターマー首相、フランスのマクロン大統領、さらにインドやイスラエル、ウクライナなど世界各地の指導者が、トランプ氏の勝利に祝意を示しています。  


クリス・アイゴー(Chris Iggo, アクサIMコアCIO)の見解:

トランプ2.0は債券利回りと株価を押し上げると見ている(2016年の再現)

米国金融市場はトランプ氏勝利を受けて、国債利回り上昇や株価上昇、ドル高など予想通りの反応を示しています。こうした動きは2016年の再現になっていると見ています。2016年当時、米10年国債利回りは選挙前の7月に底を付けた後選挙前までに40ベーシスポイント(bp)上昇しました。選挙後1か月ほどでさらに85bp上昇し、選挙当日の1.80%から2.65%に上昇しました。その後しばらく横ばい、ないし小幅低下して推移しましたが2017年終盤から2018年11月まで上昇に転じ、3.20%に達しました。2016年当時の選挙前の最低水準からトランプ氏一回目勝利の2年後の最高水準まで、米10年国債利回りは180bp上昇しました。

今年、米10年国債利回りは9月に最低水準に達し、その後選挙前までに62bp上昇しました。当社グループの予測では、今後1~2年の間に更に100bp程度上昇し、名目利回りで5.5%付近になると見ています。しかし、2016年の推移では、国債利回りは選挙後にすぐに上昇した後、あまり上昇しませんでした。2016年11月から2017年11月までの間、ICE BofA 米国債指数のトータルリターンは+2.0%でした。利回りが実際に低下したのはその期間の一時期だけでした。

改めて、基本的なシナリオでは、トランプ氏は財政的には拡大とインフレ的な政策を指向しており、その結果、市場が期待したほどにはFRBは利下げを行えない可能性があると考えています。経済成長は長期的な成長トレンドを上回っており、インフレ率は依然目標を上回っています。従って、FRBは予想よりも長い期間、中立金利よりも引締めの水準に金利を据え置く必要があるかもしれません。

2016年から2018年に、FRBは金融政策を引き締めてきました。その為に、債券利回りは上昇していました。そして、2018年11月に利回りはその上昇のピークに達しました。政策金利であるフェデラル・ファンド金利(FF金利)は12月にピークに達しました。その間のFRBの利上げ幅は200bpとなり、債券利回りは180bp上昇しました。2024年に、FRBは金融政策を緩和しています。当社グループはさらに緩和を行うと見ています。この利下げの可能性によって債券利回りの上昇幅に制限がかかるかもしれません。また、現在の実質利回りがトランプ氏の前任期時よりも高い為に、利回りはあまり上昇する必要がないという意見が強くなると思われます。実際に、インフレ率が低下してきたために、実質利回りはどの年限においても比較的高い水準になっています。もし実質利回りがさらに上昇する場合には、米国経済はハードランディング(景気の急激な失速)する可能性が高くなると思われます。

結局のところ、市場がどのように動くかは、当初の市場センチメント、実際の政策決定、それを受けた消費者や企業の行動によると見ています。当初の市場センチメントは、利回り上昇や株高、ドル高に表れています。実際の政策決定について、トランプ政権は何をできるか、また、新大統領が減税と関税引き上げに全力を尽くすか否か、来年1月まではわかりません。さらに、トランプ氏が考えている政策に個人や企業がどのように反応するのか、その結果、個人消費や物価、賃上げなどにどのように影響するのかを注視する必要があると思います。実質利回りは、実質GDP成長率が示唆する水準に近づきつつあります。また、債券が長期になるほど利回りの中に含まれる財政に係るリスクプレミアムが強まっていく可能性があると見ています。利回りは最近の水準から見ると比較的高くなっています。米国株式市場は現在では割高な水準にありますが、株価が上昇しています。米国債券市場は、適正水準にあると思いますが、債券価格は下落しています。政策の不確かさは、リスク資産のリスクを強めることになると見ています。


ディビッド・ページ(David Page、アクサIM マクロリサーチ・ヘッド)の見解:

トランプ氏の全面勝利は政局の不確実さを政策の不確実さに置き換えると見ている   

大統領選勝利の勢いは議会にも波及しています。市場で事前に予想されたとおり、共和党が上院議会での過半数を再び獲得しました。空席となったウェスト・バージニア州でのジョー・マンチン氏の民主党の議席を共和党が獲得し、民主党のシェロッド・ブラウン氏もオハイオで議席を失いました。この2議席を獲得したことによって、執筆時現在で共和党は100議席のうち51議席を獲得し(民主党42議席)、単独過半数を得ています。共和党はさらに数議席獲得するかもしれません。下院はまだ(執筆時)結果が決まっていませんが、下院選挙はそれほど決定的な差は無く、当社グループとしては、かなり接戦になると考えていましたが、最終的には大統領選挙の結果と同じになると予想しました。下院の過半数獲得には218議席が必要ですが、執筆時に、共和党は197議席を獲得しており、民主党の180議席を上回っています。 さらに、共和党は2022年の選挙では222対213の僅差で過半数を得ていましたが、今回の選挙では、ここまでの開票では3議席の純増となっており、過半数獲得に向けて進んでいると思われます。こうしてトランプ氏の大統領選挙は全面勝利となる可能性がありますが、不確実さを認識しつつも、この全面勝利は今年の7月1日以降当社グループが考えていた基本シナリオです。

この素早い結果の判明は政治見通しに明確性を提供しており、歓迎すべきことと見ています。しかし、米国に関する見通しに関連する不確実性は、政局面から政策面の不確実さに移行しています。選挙遊説中に、トランプ氏は第2期に中心とするテーマについて、詳細は不明ながら明確に述べていました。経済的な観点については、関税、移民規制、財政緩和、規制緩和に着目しています。当社グループの最近の経験によれば、市場の投資家の中には、これらのテーマの多くは、大統領の第1期目には検討されていたものの、少なくとも約束されたほどには実現されなかったものだと考えて自らを慰め、第2期も同様の結果を予想している投資家もいます。当社グループとしては、これは自己満足に過ぎないのではないかと懸念しています。トランプ政権の第1期に対する不満の多くは、国家機構に対する彼の経験不足を反映したものと見ています。プロジェクト2025やその他の準備の主眼は、第2期で政策公約をより効果的に実現することでした。当社グループは、トランプ大統領が本当に全世界に10%の包括的関税、中国に60%の関税を課すのか、米国内にいる800万人以上の不法移民を国外追放するのか、トランプ氏が推し進めてきた財政緩和を共和党政権が全面的に実施するかどうか疑問に思っています。しかし当社グループは、トランプ氏が2025年にこれらすべての方向に進み、米国の経済見通しに顕著な影響を及ぼすと考えています。

これらの政策の多くは実施に時間がかかると想定していますが、2025年には関税の導入、移民の流入制限、そして財政緩和政策への動きが見られると予想しています。当社グループは、2025年と2026年の予測を12月4日に発表する予定です。しかし、関税導入と移民制限を供給ショックと考え、財政緩和を需要の後押しと見なしています。これにより、米国のインフレは再加速する可能性があると見ています。また、関税の規模と導入速度によっては急激なインフレになるかもしれません。

成長に関しては、金融市場の反応にも寄りますが、2025年に向けて米国の経済活動は堅調さを維持すると予想しています。経済成長は2024年の堅調な2.8%からは緩むものの、2025年にはおそらく2.3%の成長となって、長期成長トレンドを上回る水準で推移すると見ています。しかし、2026年にトランプ氏の政策が広く実施されると仮定すると、経済成長には実質的な強い風当たりが予想されます。当社グループは、インフレが強まる場合にはFRBの金融緩和の余地を狭めると考えています。トランプ氏の勝利に対する期待が高まり、開票データで勝利が近づく中、市場では、FRBの利下げ予測が縮小され、FRBが9月に予想外の50bpの利下げを行った後2025年末までに政策金利を利下げして3.00%にすると見られていましたが、4.00%に引き上げられました。実際、当社グループは、FRBが次の会合(11月と12月)で各0.25%の利下げを進め、今年末までに4.50%にすると予測していますが、その後は3月にもう1回の利下げをして4.25%にすると見込んでいます。しかし、経済成長が著しく減速するリスクがあり、その場合にはFRBは2026年に利下げを再開すると見ています。

こうした経済政策のほかに、当社グループは、金融市場や経済見通しに影響を及ぼす地政学的な動向にも警戒しています。トランプ氏は何度もロシアとウクライナの紛争を大統領就任の初日に解決できると述べています。当社グループは、軍事支援を取り止めることでウクライナに解決を強いるリスクがあると懸念しています。これは今後10年間の欧州の安全保障の展開に影響を与え、欧州の防衛支出や公共財政に影響を与える可能性があります。

さらに、措置の規模に関係なく、トランプ氏が再び中国との貿易摩擦を強めると見ており、すでに脆弱な中国の経済見通しに影響を与えるでしょう。中国当局は現在政策会議を開催しており、米国の政策の新たな方向性を一部考慮して、新しい景気刺激策の対象を定めて発表することを目指しています。しかし、これは最近いくぶん改善されていた地政学的な緊張をさらに強める可能性があります。最後に、中東は現在、微妙なバランスの中にあります。地政学的な緊張はここ数年、不安定な均衡を保っており、トランプ氏の発言からは、同氏がこのバランスを大きく変える可能性があることが示唆されています。この後の地政学的な均衡がどこに落ち着くかはわかりませんが、当社グループは、それに対する金融市場のセンチメントが変化するリスクを考慮する必要があると考えます。

これらの進展のいくつかは金融市場で影響を及ぼしているようであり、実際にはここ数週間に「トランプトレード」に向けた広範な動きに影響してきました。短期金利の予想はほとんど変わりませんでしたが、来年9月のFF金利予想は足元の2週間で上昇し、米国5日火曜日の朝からは11bp上昇しており、これはFRBの緩和余地縮小に対する懸念と一致していると見ています。また、2年債利回りは8bp上昇して4.26%となりました。10年債利回りは17bp上昇し、4.44%となりました。これは長期インフレ期待の上昇や、長期の財政持続可能性への懸念を考慮した可能性もあると見ています。他の主要通貨に対し米ドルは上昇しました。米ドルは5日に通貨バスケットに対して0.5%下落した後、1.5%上昇し、4か月ぶりの高値となりました。これはおそらく、金利差が予想よりも縮まらず、関税導入によって影響を受けることを見込んでいると思われます。最後に、S&P500先物は5日に1.2%上昇した後、6日もさらに上昇を示しました。株式市場は、規制緩和による恩恵を十分に予測していると考えられます。


ジル・モエック(Gilles Moëc、AXAグループ、チーフ・エコノミスト、アクサIM リサーチ・ヘッド)の見解:

米国大統領選の結果によって、欧州中央銀行(ECB) は利下げを急ぐことになると予想

現時点では、共和党は大統領および上院を制し、また下院でも僅差ながら過半数を保持する可能性があります。後者については、結果が完全に出るまでには時間がかかりますが、現時点では共和党は、失う恐れがある議席についてもかなり健闘しているように見えます。こうした議会構成によって、トランプ氏が自らの政策を急速に実行することが可能になり、その実行を促進することになると見ています(2026年の中間選挙後、共和党はトランプ氏の後継者に焦点を合わせることになると思います)。

今、下院では僅差での過半数を持つことで、共和党内の財政保守派はトランプ氏のプロジェクトを抑制しようとする余力を持つことになると見ています。ペン・ウォートン予算モデルによると、トランプ氏のプロジェクトによって財政赤字が国内総生産(GDP)に対して年間約2%増加するとされています。しかし、もしトランプ氏が税制案で阻止されることになれば(これは民主党が下院を奪取した場合も起こり得ます)、トランプ氏は自分が直接コントロールする貿易関税と移民問題に全力を注ぐという誘惑にかられるかもしれません。あるいは、トランプ氏が、財政プロジェクトへの同意を渋る共和党員に対して、貿易関税の収入を自らの減税政策の資金として提示するかもしれません。

いずれにしても、これは金利の上昇につながり、移民規制によるインフレ(昨年、約2%の労働力純流入がなかった場合、米国のインフレは沈静化しなかったと考えます)、また、国債の大幅な増発によってインフレが上昇することにつながると見ています。

欧州では、主なポイントは欧州中央銀行(ECB)が利下げを加速させる必要があるということです。輸出指向企業では様子見の姿勢が優勢になるため、経済が改善する見込みは低くなると思われます。欧州製品に課せられる10%の米国関税自体はおそらく対応可能と見ていますが、中国製品にかかる60%の関税は、中国の需要を低下させる可能性があるか、または中国の人民元の大規模な切り下げを引き起こし、または米国市場以外で欧州と中国の供給業者の競争が激しさを増す可能性があり、混乱をもたらすことが考えられます。エネルギー価格の変動は不確実性のもう一つの源になる可能性があります。中東での紛争がさらに激化する可能性が高まっていると見ています。

欧州の各国政府は、フランスとドイツが国内で政治的な困難に直面している中、安心感や指導力を提供する理想的な立場にはありません。一方で、欧州連合のポピュリスト(大衆主義者)たちは有利な立場を推し進めようとすると思われます。現在の構図では、ECBが迅速に対応できる能力を持つ唯一の欧州機関と見ています。

最近、米国の長期債利回り上昇が欧州の長期債利回りに波及する動きが見られ、これは欧州の財政規律にはマイナスの影響を及ぼすかもしれません。これが、ECBが利下げ速度を上げて、影響を軽減しなければいけないもう一つの理由です。幸いなことに、ECBのタカ派も考えを変えつつあるようです。

本稿中のデータの出所: ブルームバーグ、2024年11月6日現在

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(オリジナル記事は11月6日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

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S&P500:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500銘柄の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。

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