ともあれ、市場は落ち着いている?
まだ初期の段階ですが、米国大統領ドナルド・トランプが就任して現在(執筆時)まで発言や行動は、金融市場が悪化する反応を引き起こしていません。むしろその逆です。年の初めの二週間は不安定な動きが見られたものの、その後は株式市場も債券市場も価格が上昇しています。同氏のメッセージは明確であると思います。つまり、成長と富の創造です。両方を確保するための同氏の手段を、心地よいものではないと感じている人もいるでしょうが、それ以上の多くの人に歓迎されていると思われます。市場への投資を続けることで利益がもたらされています。また、分散投資を行うことでも利益を確保できると見ており、その機会が数多く存在すると見ています。現状は、成長とインカム、両方を得ることができる相対的に良好な投資機会であると思います。
ますます前進
トランプ大統領の20日就任の最初の週には、同氏の発言や脅しに対して、場合によっては市場が悪い反応を示す可能性が十分にあったと思います。しかし、今のところそうなっていません。大統領は、市場の見立て通り予測不可能です。投資家は、同氏の優先事項が富の創造であり、富の創造を妨げる障害を取り除くために可能な限り手段を使うことだと認識しています。これは大学で教えられる経済理論に基づく優先事項ではなく、対立と取引を利用して「同氏の側にいる人々」に利益をもたらすことを目指す事項です。トランプ氏が誰に利益をもたらしたくないかは比較的わかりやすいと思います。つまり、米国への移民、諸外国、同氏に投票しなかった人々、また前政権に近い人々であると見ています。「トランポノミクス(トランプ氏の経済政策)」による利益が、過去3年間のインフレによって生活水準に打撃を受けた低所得層にどのように波及するかは明らかではありません。しかし、大衆の怒りを引き出すために「ウォーキズム(社会の諸問題に目覚めること)」を終わらせ論点をゆがめて反論することは、少なくとも今のところ米国への自信と楽観論を生み出すには十分です。市場はそれを反映していると見ています。同氏の就任後、債券市場の利回りは低下し、株式市場の株価は上昇し、また、米国企業の業績は引き続き拡大を続けています。
強気
2021年のバイデン氏の大統領就任からトランプ氏の今回の就任まで、S&P 500指数は合計63%(年率13%)のリターンを記録しました。トランプ氏はこれを上回りたいと考えていることは間違いないと思います。同氏が人工知能(AI)やテクノロジー全般、石油・ガス産業、金融の規制緩和を支持していることは、株式市場のパフォーマンスが継続することにとっては希望の中核と見ています。同氏が防ぎたいのは、インフレや金利、他国との競争がその富の創造を妨げることであると思います。同氏は関税が米国の消費者よりも外国の輸出業者に打撃を与えると考えていると、思われます。一方、同氏は外国の投資家から何十億ドルもの投資の約束を確保したことを大々的にアピールしています。新しい政権に対して好意を寄せる声が、今のところ、米国市場にとってプラスに働く要因になっています。
欧州の番か?
しかし、2025年に入ってこれまでのところ、米国以上にペースを握っているのは欧州の株式市場です。従来と同様に、欧州市場のパフォーマンスが向上する時期ではないかとの議論が多くありますが、これは少し不公平ではないかと思います。なぜなら、ユーロストックス指数は昨年10.1%のトータルリターンを達成したからです。よく見られるとおり、相対的に割安なバリュエーションについて議論があります。数週間前、筆者は経済循環調整およびインフレ調整された手法を使用して株価収益率(PER)を計算しました。1 この調整後において、米国のPERは約30倍近く、欧州では20倍近くにあり、また、今後の収益の予想に基づく現在の未調整PERはこれらよりも低くなっています。欧州市場を国別の市場で見ると、配当利回りが3.0%を超える市場があり、スペインやイタリアなどの市場ではさらに高くなっています。 来年の収益に対する市場の成長期待は改善しており、1月時点で8.4%の増益予想に達しています。筆者は、欧州株式についてバリュエーションは相対的に割安であり、マクロ経済の見通しは決して悪化していないと見ています。センチメントが弱く、政治的問題や財政への懸念、ドイツの弱さが影響していますが、これらによって、もっと楽観的な見通しが出てくる余地があります。ウクライナ戦争の終結、中国経済の底打ち、そして欧州中央銀行(ECB)の利下げ等は、欧州株式市場にとってポジティブな要因となると見ています。さらに、トランプ大統領が米国におけるグリーンテクノロジーへの支持を弱めている中で、欧州では炭素転換に対する政府の支援が続き、エネルギー安全保障を達成する必要性が高いことから、欧州のグリーンエネルギーは恩恵を受ける可能性があります。結果として、株式市場が今年、再び10%のリターンに達することは不可能ではないと見ています。
- 44Ki44Kv44K1SU06Q0lP44Kq44OV44Kj44K544Gu6KaL6KejOiDnsbPlm73moKrlvI/luILloLTjga/jg5Djg6rjg6Xjgqjjg7zjgrfjg6fjg7PjgYzmr5TovIPnmoTpq5jjgYTjgoLjga7jga7jgIHmipXos4flrrbjga/kvp3nhLblvLfmsJfjgIIyMDI15bm0MeaciDnml6U=
一方、米国は?
欧州株式市場に投資する理由はある程度合理性があるように見えます。一方、米国株式市場への投資は軽視できないと見ています。2024年10~12月期決算シーズンは、全体として期待を上回る業績で始まっており、今後の成長も比較的強気の見通しが多くなっています。2025年年初以来、株式市場のパフォーマンスはセクター間でバランスがある程度取れており、資本財とエネルギーのパフォーマンスが最上位になっています。ホワイトハウスからの一連のコメントや大統領令、そして輸入に対する関税がまだ発表されていないという事実は、株式投資戦略にとって追い風要因となっています。米国の株式市場が下落した年初第1週目に引き起こされた相対的なバリュエーション調整に対する市場の懸念は、その後債券市場の利回りが低下したことで、このバリュエーション調整への懸念がさらに強くなることはありませんでした。米国の消費者は健全な雇用市場、実質賃金の増加、そして 資産効果から恩恵を受け続けています。少なくとも国の有権者の半分は、政治の動向に非常に楽観的な気持ちを抱いていると思います。企業としては、新しい政権は非常にビジネス寄りと見ています。アニマル・スピリットが広がっていると思われます。テクノロジーへのビジネス投資支出は、引き続き重要な原動力となるでしょう。借入コストは数年前より高くなっているかもしれませんが、市場では上場企業の収益は14%の成長が期待されています。米国企業をプラスに評価しない要素はほとんどないと見ています。
社債もまた
ファンダメンタルが株式市場にとって相対的に良好な場合には、社債にとっても同じように良好である場合が多いと思われます。上場社債市場は年初来では基準金利を上回るパフォーマンスを上げています。例えば、米国ハイイールド債券市場はこの超過リターンがすでに1.0%を超えています。これは、クレジットスプレッドの縮小化は債券発行体の強固なファンダメンタル状況を反映しているという認識が広がっていることを意味していると見ています。米国ハイイールド債券市場では、最近の平均的な質が改善していること(CCC格債券の割合が減少し、BB格債券の割合が増加)、および市場のデュレーションが低下していることが、構造的にスプレッドの縮小を正当化する要因となるかもしれません。今年2025年に、米国ハイイールド債券市場のリターンが約7%、欧州ハイイールド市場では約6%を達成することは、実際に起こり得ることと見ています。
そして、インカムの問題に戻らなければなりません。健全な収益成長は、欧州での配当利回りやクレジットからのインカムリターンを支えています。金利が昨年のピークレベルから低下し、今後さらに金利が引き下げられると予想される中、キャッシュを保持することからの利息収入は減少しています。過去12ヶ月を振り返ると、キャッシュの収入は米ドル、ユーロ、ポンド市場における社債からのインカムリターンを上回っていました。しかし、これは変わりつつあり、キャッシュリターンが低下し、債券のインカムリターンが高くなっていることは、市場でのクーポンの水準が高いためです。
2020年末時点では、米国投資適格社債の平均クーポンは3.8%、欧州では1.6%、英国では4.0%でした。現在、これらの平均クーポンはそれぞれ4.3%、2.5%、4.3%に達しています。比較的低クーポンの社債が償還を迎えることから、今後クーポンの平均値はさらに上昇すると見ています。先週新規発行された米ドル建社債を見ると、クーポンは4.5%から6.0%の水準にありました。債券市場では価格下落のリスクがあり、インフレや財政見通しへの懸念によって基準金利が上昇することを通じて、社債価格にマイナスの影響を起こす可能性があると見ていますが、しかし、インカムの水準は社債市場全般にわたり徐々に改善を続けると見ています。
米国市場が中心か
現状は、投資するには相対的に良好な機会と思われます。トランプ氏の富の創造という優先事項が株式市場を押し上げており、ガザでの停戦やウクライナでの停戦協議の話題があることにより、地政学的リスクは少し軽減されていると見ています。また、今月これまで発表された経済指標では、インフレが現状安定していることを示唆しています。しかし、今後市場にとってマイナス要因に直面する可能性があると見ています。もし米国がカナダ、メキシコ、中国に対して貿易関税を課すなら、これは米国の消費者や米国のインフレ状況を悪化させる影響があると見ています。米国の成長は比較的堅調で、また労働市場の需給の比較的引き締まっているため、トランプ政権が反移民政策を進める場合には、インフレが加速する可能性があります。また、アニマル・スピリットが行き過ぎることもあるかもしれません。例えば、レバレッジドローンのデフォルト率は上昇を続けています。投資家は新しい政権に関連する数々の潜在的なリスクを比較的長い間抑え込んだままにしていると見ています。これらのリスクは、市場のボラティリティ上昇やリスクオフの期間として現れる可能性があると見ています。これに対応して投資を続ける最善の方法は分散投資をすることと考えます。それはつまり、欧州と米国の株式に投資し、また、再び中国の回復に備えること、債券からのインカムを利用すること、そしてこれらの相対的に高い利回り水準で長めのデュレーションを持つことです。テクノロジー、広義のエネルギー(電気および関連するすべてのもの)、そして金融(銀行)が注目すべき主要なテーマであると見ています。
中央銀行の動きを忘れないこと
各主要中央銀行は今週再び注目されることになります。米国連邦準備制度理事会(FRB)が1月29日に次の政策決定を発表します。市場は利下げの可能性をほとんど織り込んでおらず、アクサIMグループも利下げを予想していません。それでも、トランプ大統領就任後初めてのFRBの発言を聞くのは興味深いことであり、これは1~3月期の債券市場の地合いを基礎づけるかもしれません。ECBはその翌日30日に理事会を開きます。市場は25ベーシスポイント(bp)の利下げを織り込んでおり、アクサIMグループも同様に予想しています。イングランド銀行が2月6日に開く会合もECBと同様の状況です。総じて、世界的な金融政策の進展は株式や債券への投資戦略にとって引き続きプラス要因であると見ています。
パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ブルームバーグ、アクサIMグループ。特に記載がない限り、2025年1月23日現在。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
(オリジナル記事は1月24日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
本資料で使用している指数について
S&P500指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
ユーロストックス指数:STOXX社が算出・公表しているユーロ圏における株式市場の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
※本資料中の指数等の著作権、知的財産権、その他一切の権利はその発行者に帰属します。
ご留意事項