不確実な環境下でのインカム、債券戦略に投資妙味があるか
貿易戦争は誰にとって好ましいものではないでしょう。現実になると、インフレと成長に対してマイナスの影響が出ると考えています。これは、おそらく市場や企業の業績に影響を与える可能性があると見ています。また、貿易戦争は米国の貿易問題を解決することはないと思います。しかし、投資家たちは、次期大統領のドナルド・トランプ氏の政策の詳細がより明確になるまで、様子を見ています。現時点では、私たちは債券戦略に投資妙味があると考えています。社債などクレジットはいくつかの指標で割高に見えますが、債券戦略によるリターンは、来年の間はインフレの水準を上回ると見ています。
貿易戦争が迫っている?
2016年、トランプ氏が初めて米国大統領に選出されたとき、中国は米国の総輸入の22%を占めていました。その割合は現在(執筆時)、13.5%です。一方、米国は中国の総輸出の18%を占めていましたが、現在は15%を下回っています(出所:グローバル・トレード・アトラス、米国商務省経済分析局、アクサIMグループ)。トランプ氏は中国の米国向け輸出品に60%の関税を課すと警告しています。中国は米国への依存度が低くなっているにもかかわらず、これはまだ大きな打撃になると見ています。筆者は今回の米国大統領選挙の時、北京にいました。筆者の印象では、中国は米国の新たな関税に対応するために、不動産問題に対処し、国内需要を刺激するためのさらなる措置を発表する可能性が高いと考えています。ワシントンと北京からの政策発表のタイミングは不明です。しかし、一方が他方に依存する可能性があると見ています。明らかなことは、新しいトランプ政権の下での米中関係の行方が、世界の貿易見通しや投資家のセンチメントに影響を与えるだろうということです。貿易量、企業の売上高、市場評価に影響が出ると見ています。
変化するパターン
保護主義色を強める世界に対応して、世界の貿易は転換しています。2016年と比較して、メキシコとユーロ圏の両方では米国のシェアが中国よりも大きくなっています。米国への最大の輸出国であるメキシコは、トランプ主義の保護主義からリスクにさらされており、カナダも同様です。一方、中国は輸出先を多様化しています。米国や欧州連合(EU)よりも、アジアのほうが中国にとって重要になっています。中国からアジアへの輸出は、2000年頃の中国の総輸出の約5%から、現在では約18%に増加しています。これは地理的な理由だけでなく、多くの世界のサプライチェーン(供給網)における、特にテクノロジーや耐久消費財の分野での中国の位置づけによるものです。
また、中国がアジアに輸出や生産を転送することで米国の関税を回避しようとしたという見方もあります。もしそれが本当であれば、米国の保護主義政策の対象が広がることが予想されます。中国はまた、ダンピング(公正な競争を妨げるほど不当に安い価格で販売すること)を行っているとして様々な国から非難されており、米国市場向けに輸出していた商品を割引価格で他の国に転送することによって、現地の企業に損害を与えているとされています。EUが中国製電気自動車の輸入関税を引き上げたという決定は、世界貿易が不運な方向に進むもう一つの例と見ています。
政策の誤った選択
輸入品が輸出国で補助金を受けている場合など、関税を課すことにはしばしば理由が立ちます。また、ダンピングの明白な証拠がある場合も同様です。しかし、貿易赤字を減らすために関税を使用することは特に論理的ではありません。米国は国内総生産(GDP)の3%以上の対外経常収支赤字を抱えています。経済理論によれば、国際収支の赤字は国内の貯蓄と国内の消費および投資支出の不均衡を反映しています。米国が対外経常収支赤字を減らしたいのであれば、より多くの貯蓄をし、支出を抑える必要があります。ケインズ経済学によれば、それは低い経済成長を意味します。
極端な場合には、相対価格(為替レート、関税が実質的な影響を与える可能性があるもの)が貯蓄と消費の決定に影響を与えるかもしれませんが、それは4年の大統領任期中には起こらないでしょう。米国の貿易赤字を減らすための真の解決策は、有権者に約束したものとは異なります。関税は輸入した企業の利益率を下げるか、より可能性が高いのは、消費者に高い価格をもたらすことでしょう。皮肉なことに、ドルは強いままであり、その結果、米国への純輸入が増加する可能性が高くなると考えられます。
関税政策は、経済的にも金融市場にもマイナスの影響を与える可能性があるトランプ氏の政策の一部に過ぎません。減税をして、政府の借入を増やすこともその一つです。イデオロギーに基づいて連邦政府予算に攻撃することもまた、その一つです。また、移民、環境補助金、およびその他の社会問題に関する提案もあります。だからこそ、11月5日以降の市場コメントで最も使用されている言葉のひとつが「不確実性」であるのも無理はないと考えています。
基本的な見解は依然としてポジティブです
不確実性は満足感を揺るがします。しかし、投資に関して重要なのは、リスクが具体化してキャッシュフローや資産の評価を混乱させるかどうかです。現時点では、トランプ氏の政策がどの程度実施され、どれほどの速さで実施されるかを評価するのは難しいことです。当社グループの基本的な経済見通しでは、経済環境は依然として健全です。米国の成長は長期の平均成長率のトレンドを上回ると予想しています。これにより、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げの余地がある程度制限されると見ています。市場が予測する2025年末のフェデラルファンド金利(FF金利)は3.9%であり、これは実質的に来年の間にFRBによる25ベーシスポイント(bp)の利下げが3回しかないことを示唆しています。もしそれがトランプ政権による拡張性が強い財政政策の姿勢と一致しているなら、債券利回りが低下する余地はほとんどないと考えられます。
クレジットは相対的に魅力的です
しかし、市場は、FRBが引き続き緩和的な姿勢を取ると見ています。これが債券に対する持続的な肯定的見方を支えています。インフレは中央銀行の目標水準をわずかに上回っているかもしれませんが、実質の政策金利はまだ比較的高い水準にあります。中央銀行は、ソフトランディング(景気の軟着陸)又はそれに近い状態にしようとしながら、FRBは緩和政策をもう少し進めて、景気拡大を維持しようとすると見ています。さらに、米国経済が法人税の引き下げや規制緩和から刺激を受け、ヨーロッパではさらなる利下げが見込まれる中、当社グループの社債市場の見通しは依然としてポジティブです。投資適格社債市場は、米ドル市場で約5.25%、英ポンド市場で5.5%、ユーロ圏で3%以上の利回りを提供しています。社債戦略のファンドマネージャーは、これらの市場平均よりもさらに良い利回りを見つけることができ、インカムを中心とした健全なリターン見通しを生み出すことができると見ています。足元の3ヶ月間で、米国の投資適格社債市場は、年率換算で約4.6%のインカムリターンを上げています。米国のハイイールド市場では約6.5%となっています。
しかし、割高か?
筆者と顧客との会話の中で、顧客からクレジット市場の評価について懸念が示されています。確かにスプレッド(安全資産との利回り格差)は比較的低水準になっていますが、一方で、利回りは比較的健全な水準にあると思います。しかし、スプレッドを詳細に見ていくと一部に興味深いものがあります。従来、社債の利回りは同じ満期の政府債の利回りと比較され、「対国債スプレッド」が算出されます。この尺度では、米国の社債は過去10年間の分布の下位1パーセンタイル(百分位数)以下のスプレッドであり、割高の水準にあると見られます(参照データ:ICE Bank of America 債券データベースの週次データ、2024年11月21日現在)。しかし、もう一つのスプレッドの見方として、社債の利回りを金利スワップ曲線と比較する方法があります。これはやや異なる見方を伝えています。このスプレッドは縮小していますが、国債に対するスプレッドが示唆するほど狭くはありません。市場を広く見てみると、欧州の社債スプレッドは、スプレッドの上記二つの測定方法において米国ほどには極端な値にはなっていません。
国債が値下がりしている
ここで、国債の価格が下がっていることを取り上げます。国債の利回りは金利スワップ曲線を上回っており、特に利回り曲線の長期部分で顕著です。これは米国と英国では比較的長い間続いてきましたが、最近ではユーロ市場でも表れ始めています。国債市場は供給と需要の要因により影響を受けます。量的緩和期間中、中央銀行からの大きな需要により国債の価格が上昇して、利回りは金利スワップ曲線の下にありました。現在、借入を減らそうと苦労している政府の場合、懸念されているのは国債の過剰供給です。多くの保険会社のようにスワップを基準とする投資家にとって、債券利回りがスワップに比較して上昇することによって、パフォーマンスには困難な環境が作り出されています。
これは複雑で需給状況に係ることですが、結論としては、財政見通しの悪影響を受けて国債の評価が下がっていると考えます。また、社債は、単純な「対国債スプレッド」で示唆されるほどには割高ではないかもしれません。ただし、社債の現在の価格設定は、相対的に良好なファンダメンタルズと比較的強い需要に支えられて値上がりしており、割安ではありません。場合によっては、投資家の一部は、相対的な価値の観点から、引き続き下落する可能性のある先物金利曲線に対して、国債はまだ割安になっており投資妙味があると考えるかもしれません。
株式市場とトランプ氏
株式市場は依然としてトランプ・トレード(トランプ氏が今後実行すると考えられる政策等を考慮して行う投資や取引)を反映しています。過去1か月で最も好調だった株式市場は、ほとんど米国の市場であり、中小型株式市場や成長株式銘柄、ナスダック市場などです。法人税の引き下げとテクノロジーテーマの強さによって、米国株式市場は長期にわたり他市場に対して優位性を維持すると見ています。例えばエヌビディアを見ると、2024年8~10月期の売上は予想を上回り、350億ドルを記録しました。同社の株価は年初来で196%上昇しています。
パフォーマンス等のデータの出所:LSEGワークスペース・データストリーム、ブルームバーグ、アクサIMグループ。特に記載がない限り、2024年11月21日現在。
企業への参照は例証のみを目的としており、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
(オリジナル記事は11月22日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
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