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Investment Institute
マーケット見通し

夏の夢


夏休みのシーズンが近づいてきました。著者は夏休みに入る前にあと2、3回、市場に関する自身の観察をいくつか紹介しようと思います。投資家にとって金融市場は今年の前半は好調に推移しましたが、夏休みシーズンが終わった後もそうであるかどうかはわかりません。


金利は低下へ

現在の金利先物価格が示唆する今後の金利推移は、リセッション(景気後退)が回避され、実質短期金利がプラスを維持することを示しています。金利を引き上げ、景気後退を引き起こし、その後、金利を当初の水準近くまで引き下げるという教科書的なサイクルとは異なり、先物市場では、今回の引き締めサイクルが始まったときの水準より300~350ベーシスポイント(bp)高い水準で金利が下げ止まることが織り込まれています。短期金利では、米国と英国では3.5~4.0%、ユーロ圏では2.5~3.0%で安定することが織り込まれています。これはゴルディロック(適温)・シナリオです。もう1つ、別のシナリオは債券投資戦略には追い風になるものですが、成長が弱まる為ある時点で金利が織り込まれた水準を下回るというものです。この第二のシナリオでは、債券が他資産よりもアウトパフォームすると見ています。しかし、第一のシナリオ、ゴルディロック・シナリオを証明するか反証するかは、データ次第であると思います。最近の軟調なデータでは、債券投資戦略にとって追い風となるシナリオは無視できないことが示唆されています。

実際、米国の6月のインフレデータは、状況を変え始めたかもしれません。米労働省が発表した米国の消費者物価指数は前月比0.1%低下、前年同月比では5月の3.3%から3.0%に低下しました。これを「サム・ルール」1 にあてはめると、あと「失業率が0.1%上昇するだけ」で米国が景気後退に陥ることを示唆しています。つまり、金利フォワードカーブ(先物曲線)は高すぎるように見えます。

クレジットのインカム

筆者は社債などクレジットという資産クラスを引き続き選好しています。クレジットスプレッドは、フランスの政治リスクにより6月に拡大しましたが、その後再び縮小しています。しかし、大幅に縮小する余地は限られている為、昨年の10~12月期と2024年の1~3月期に発生した、スプレッドの縮小によって国債に対してクレジットがアウトパフォーマンスする状況が繰り返される可能性は低いと見ています。経済成長の減速がより顕著になれば、市場の質の低いセクターでクレジットスプレッドの拡大が見られるかもしれません。それでも、平均的な投資適格債指数で利回りが90〜120bp上昇すると、インカムリターンを押し上げる原動力となると見ています。現状(執筆時)では、クレジットの悪化の兆しは見られません。今後の決算シーズンが予想どおりに進めば、リターンは堅調に推移すると思われます。今のところ、投資戦略としては、ハイイールドが引き続き好ましいクレジット資産クラスのユニバースと考えています。

政治は依然として懸念材料

今夏これまでは、欧州の政治は市場に長期的な影響を及ぼしていません。英国総選挙の結果は市場の予想通りで、新政権は今のところ市場には好意的に受け止められていると思われます。フランスでは選挙結果が最終決着に至らなかった為、ドイツ国債に対するフランス国債のスプレッドは1か月前よりは上昇していますが、選挙を突然発表した直後よりは低い水準です。そして、他の資産への波及はほとんど見られません。しかし、米国の選挙はボラティリティを刺激する可能性があると見ています。ジョー・バイデン米大統領は民主党候補に留まる決意をしているようですが、11月までにバイデン氏を交代させたいという意向が一部にある為、景気後退リスクの高まりもこれに加わる可能性があります。市場では、ドナルド・トランプの勝利は金利とインフレの上昇を意味するという見方がすでに出てきています。つまり、ボラティリティは現在のような安定した水準にとどまる可能性は低いと思われます。

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小型株が意味するところは何か?

ラッセル 2000 指数に代表される米国小型株のパフォーマンスは、今年は横ばい状態が続いています。同指数の年初来パフォーマンスはS&Pグロース株を約 27% 下回っています。大型バリュー株もあまり伸びておらず、ダウ・ジョーンズ工業株平均指数と S&P バリュー指数は それぞれ約6.5% の上昇にとどまっています。しかし、これはよく見られる状況と思われます。米国株のリターンはグロース株がけん引しています。情報技術指数のトータル リターンは 約34%です。S&Pグロース指数とラッセル 2000 指数の相対価格差は極端な状態であり、こうした状態は1999 年に崩壊し始めたドットコム・バブルの直前に見られたのが最後です。

現在の小型株に対する成長株の相対的なバリュエーションは、景気循環の終盤の特徴が多少表れていると思われます。1999年から2000年にかけて株価が下落した要因はテクノロジー株のバリュエーションでした。米国株の上昇が一部分に集中しているという話が最近市場で盛んに言われていることを考えると、何らかのバリュエーション調整が起こる可能性は否定できないと思います。しかし、そのきっかけが何なのかを特定するのは困難です。期待外れの業績、あるいは、米国大統領選挙後の政治環境がテクノロジー企業にとって好ましくないという感覚が、調整のきっかけになる可能性があると思います。一方で、今後の決算シーズンで再び好調な業績が発表され、テクノロジー革命がいかに根源的なものであるかが浮き彫りになる可能性もあると思われます。

今年、小型株のパフォーマンスはこれまで横ばいとなっていますが、これは米国のより広範な基礎的なビジネス環境に関するメッセージである可能性があります。小型株のパフォーマンスは米国ハイイールド債券をも下回っています(ただし、2つの資産クラスの24か月間の相関は90%近い)。ハイイールド債券のリターンのほとんどはキャリー(市場の状態に変化がない場合に一定期間内にその投資対象から得られるインカム・ゲイン)によるもので、現在の比較的高い金利環境を反映していると見ています。小型株のPERはほとんど動いていませんが、12か月の収益予想は2023年末から下方修正されています。ハイイールド債券のパフォーマンスはキャッシュフローに関してほとんど問題がないことを示唆していると思われますが、小型株のプライス・パフォーマンスは、キャッシュフローの伸びがほとんどないことを示唆しているか、少なくとも株式と債券のリターンがかなり似ている傾向にある場合でも、投資家がリスクの高い株式よりもリスクの低い債券を選好していることを示しているものと思われます。

しかし、小型株指数はインフレデータが良好だったことを受けて上昇しました。利下げは、まさに市場が中小型銘柄の株価上昇に必要としているものなのかもしれません。金利低下、テクノロジー企業の利益確定、小型株の好調なパフォーマンスの開始。これらが夏から秋に起こり得るシナリオの 1 つかもしれません。

大きなトレンド

市場のエコノミストらの見方では、人工知能(AI)と低炭素経済への移行は、どちらも長期的には生産性を高める可能性があるとしています。AIの恩恵が現れ始めている一方で、エネルギーコストの低下と安定化は多くの経済圏の企業や家庭に恩恵をもたらすと思われます。AI関連株と再生可能エネルギー関連株のパフォーマンスが大きく異なっているのは興味深いことです。ロシアのウクライナ侵攻を受けて原油価格が上昇して以来、テクノロジー株が市場をアウトパフォームしている一方、NASDAQクリーンエッジエネルギー・リキッドシリーズ指数はアンダーパフォームしています。これは時間軸の問題かもしれません。AI技術は現在はすでに提供され始めており、一方で、再生可能エネルギーが電力発電の市場シェアを拡大​​していますが、再生可能エネルギー生産の収益獲得は、依然として多額の先行投資と資金調達コスト、そして不確実な価格環境によって妨げられていると考えています。しかし、「グリーンテーマ」をめぐる株式投資へのつるはしとシャベルのアプローチ(特定の産業で製品を生産するために使用する道具やサービスに投資する戦略)は、炭素移行への投資増加に伴い成果を上げていると見ています。

必要なものは電力

再生可能エネルギーの発電は急速に成長しており、生産コストは低下しています。金利が下がるにつれて、資金調達コストも低下するでしょう。国際エネルギー機関は年次報告書「電力2024」の中で、電力需要が2026年まで毎年3.4%増加すると予測しています。主要な推進力は、より良い世界的成長、政策による促進と目標、輸送の電化等です。テクノロジー分野も同様です。AIを動かすデータセンターの構築により、電力需要が急速に増加しています。大手テクノロジー企業は、100%再生可能エネルギーを使用することを約束しており、データセンターやより広範な企業運営に電力を供給するために再生可能エネルギーで発電された電力を確保しています。たとえば、メタ、アップル、マイクロソフトの三社は最近、合計で3万メガワット時を超える再生可能エネルギーで発電された電力を確保したと発表しました。こうした需要により、電力網における再生可能エネルギーの割合が増加し、再生可能エネルギーの価格競争力が向上し、すべてのユーザーに恩恵をもたらすと見ています。風力発電と太陽光発電のコストがさらに低下するにつれて、再生可能エネルギーで発電された電力の割合は急速に増加すると考えています。これはいつか再生可能エネルギーセクター全体の株価に反映されるであろうと見ています。

確かに、一部の株はそうなっています。太陽光パネルの設計・製造を手掛ける米国企業ファーストソーラーは、今年約33%上昇*しています。アメリカン・スーパーコンダクター・コーポレーションは再生可能エネルギー発電会社ですが、発電および送電網ソリューション用の部品を供給しています。同社の株価は今年約150%上昇*しています。再生可能エネルギーの産業構成の中には、収益の伸びとフリーキャッシュフローの増加が見られる企業の例が他にもあります。需要がさらに高まるにつれ、売上と収益性は改善すると見ています。そして、テクノロジーと再生可能エネルギーの関係は、別の形で機能しています。エヌビディアのウェブサイトの項目の1つを概観してみると、同社の半導体チップがエネルギー分野で需要予測と再生可能電力の配給を最適化するために使用されていることが宣伝されています。これは、強力な二つの原動力による経済革命と見ることができると思います。

*:年初来7月11日現在

夏の夢

ですから、夏休み中に少し夢を見ることにしましょう。AI が医療、交通、都市計画、金融、製造業の分野でより優れた成果をもたらし、そのすべてがクリーンで再生可能な電力で動く未来を想像してみてください。経済にプラスの影響を与える可能性は膨大と思われます。株式投資家にとって、市場の成長の可能性が高いと考えられるこれらの長期的トレンドを投資戦略のポートフォリオに組み入れることは魅力あることと思います。株価水準のバリュエーションは調整されるかもしれませんが、根底にある経済トレンドはしっかりとしており、長期的には大きなリターンをもたらす可能性があると見ています。

企業への参照は例証のみを目的としており、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。

パフォーマンスやその他市場データの出所:レフィニティブ・データストリーム、ブルームバーグ。特に記載がない限り7月11日現在。

過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。

(オリジナル記事は7月12日に掲載されました。こちらをご覧ください。)

本資料で使用している指数について

ダウ・ジョーンズ工業株価平均指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の優良企業30社の値動きの平均を示す株価平均型株価指数です。

S&P総合500指数、S&Pグロース指数及びバリュー指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数であり、及び、グロース株とバリュー株の値動きの平均を示す指数です。

NASDAQクリーンエッジエネルギー・リキッドシリーズ指数:米国NASDAQに上場している流動性のあるクリーンエネルギー企業の値動きの平均を示す調整時価総額加重平均型株価指数です。

ラッセル2000株式指数:米ラッセル・インベストメント社が算出する米国株式市場に上場された時価総額上位1001位から3000位までの2000社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型の株価指数です。

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