気候変動:投資家が「公正な移行 」を実現するためにできること
「公正な移行(Just Transition)」という考え方は、決して新しいものではありません。米国の労働指導者たちは、1990年代初頭から雇用と環境の対立を指摘しており、近年はその傾向が強まっています。公正な移行は、2015年の気候変動に関するパリ協定で言及され、同年には国際労働機関 (ILO) が適切な雇用の創出と社会的保護の推進を目的としたガイドラインで言及されています。
公正な移行の根底にあるのは、低炭素エネルギー、建築、輸送、工業生産への移行が、国や産業、また労働者やそのコミュニティに大きな問題をもたらすという認識です。これらの問題の社会的影響を予測できなければ、気候変動に関する進展を遅らせ、地域や世界レベルでの不平等を拡大し、発展途上国および先進国の間の脆弱な均衡を崩すことになりかねません。
公正な移行に対応しない世界では、政情不安およびシステミックリスクが高まります。アセットマネージャーにとっては、長期リスクとリターンの不均衡によって、投資がはるかに困難になるでしょう。しかし、責任ある投資家は、公正な移行を気候変動対策に組み込むにあたり企業の進捗状況をすでに評価し始めていると当社は考えています。
社会的排除および不平等リスクの拡大
気候変動リスクはよく知られています。1 気候変動に関連した食糧不安、水不足、損害は、悲惨な人道的結果を引き起こし、投資家に大きな影響を与える大規模な移住や移動を引き起こす可能性があります。2 しかし、気候変動への対応には、それ自体のリスクも含んでいます。新しい時代が最も脆弱な人々の状況を緩和できるかどうかは、その移行の性質によって決まります。
将来の成長、雇用創出、適切な労働条件の促進など、真に公正な移行が長期的にもたらす潜在的な経済的恩恵を、多くの研究が示しています。2017年の経済協力開発機構 (OECD) 報告書の試算では、決定的な移行政策パッケージにより、2050年までに長期的な生産をG20経済圏全体で平均5%押し上げることが可能とされています。3
別の報告書では、野心的な気候変動対策により、2030年までに世界経済全体で3,700万人の雇用純増が可能と結論づけています。4 この純増数は、エネルギーミックスの変化、電気自動車の普及、既存および将来の建物のエネルギー効率の向上など、持続可能な手法や循環型経済の考え方の導入によりもたらされると見込まれています。
総体的に見れば、雇用に関するポジティブな話もあるかもしれませんが、個々の生活や各地域または国への影響は不均一であり、環境の持続可能性がもたらす雇用創出の可能性は決して所与のものではありません。移行に伴う雇用の喪失は避けられません。炭素や資源を大量に消費する産業は縮小に向かうでしょう。公正な移行には、労働者を再配置するための再教育と、新たな需要を満たすために急速に拡大しているセクターにおける適切な労働条件を確保するための監視が必要です。
投資家にとっては、主要国が労働市場の動揺を抑えることができれば、大きな潜在的利益を得ることができるでしょう。社会対話(社会政策に関する政府、使用者、労働者の代表が行う対話)は、労働と環境の両方を考慮した枠組みおよび法律を推進し、リスクを管理するための適切なガバナンス構造の実施に貢献するものであり、これらの問題の多くで女性に不釣り合いな影響があるといった特定の問題に取り組むものです。
グリーン産業を推進し、適切な労働条件を確保し、気候変動の物理的リスクまたは移行による所得リスクに対する第一線の防御として社会保障制度を構築する公正な移行にとっては、規制と政府の政策が極めて重要になります。
アセットマネージャーにできること
アセットマネージャーが行動を起こす動機は明確です。移行に伴う潜在的な社会的影響は、大規模なマクロ的進化から、個々の発行体における迅速な影響や価格調整まで多岐にわたります。企業が気候変動対策の一環として公正な移行を確実に取り入れるために、アセットマネージャーによる企業とのエンゲージメントは、このプロセスの強力な一翼を担います。
公正な移行は、学術的な研究が着実に蓄積されているにもかかわらず、まだ未成熟な概念です。人的資本管理は、変革期には極めて重要であるにもかかわらず、気候変動に対する企業の対応においては欠落しています。
エンゲージメントが気候変動問題に対する効果的な推進力となり得ることを目の当たりにしてきました。5 また、公正な移行を推進する上でも極めて重要です。まずは、企業の戦略を理解することが重要です。
- 気候変動による影響 (従業員、サプライチェーンにおける雇用、影響を受けるコミュニティに対して)
- 人材管理への影響 (リストラの必要性、雇用の量と質、賃金や年金への影響)
- 顧客にとって手頃な価格を維持しつつ、リスクを軽減し、従業員のスキルアップ/技能再教育および新しいビジネスチャンス創出に向けた投資
ワールド・ベンチマーキング・アライアンス (WBA) およびClimate Action 100+の投資家連合は、公正な移行に向けたアプローチ開発を進めてきました。6 7 この2つのイニシアチブは、この分野で企業とのエンゲージメント構築に役立ちます。というのも、特定分野の設立間もない企業にはよくあることですが、一貫した情報開示が最初の課題となっているからです。適切なデータを収集することは、社会的側面については気候の場合よりも困難で、指標の客観性と適切性を検証する必要があります。エネルギー、建築・建設、運輸、農業、食品などの高排出セクターが最も問題ですが、それぞれが関連する基準は大きく異なり、コミュニティに及ぼす潜在的な広範な影響の範囲も異なってきます。例えば、電気自動車のバッテリーおよびソーラーパネルに使用されるリチウムおよびコバルトなどの原材料の使用量増加において、人権や環境問題に注目が集まる可能性があります。
公正な移行に対する理解が着実に深まり、企業がアクティブ運用を行う責任ある投資家と交流することで、真の統合の第一歩に向けた行動変革がすでに起きています。当社は、「公正な移行を目指す連合 (Coalition for a Just Transition)」という協働エンゲージメントのイニシアティブに参加することで、最も影響を受けるセクターのベストプラクティスを特定し、当社のソーシャルプログレス(社会進歩)投資戦略におけるリーダー企業を見出す可能性を高めるとともに、遅れをとる企業の特定およびエンゲージメントをサポートしてくれると考えています。
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