米国新大統領は金融市場と世界経済に何をもたらすか
米国大統領選挙でトランプ氏が圧勝し、2期目となるホワイトハウス復帰が決まりました。当社グループの投資エキスパートが米国市場の見通し、新大統領の提案する政策が世界経済に与える影響、そして資産クラス全体における投資への影響を分析します。
ジル・モエック Gilles Moëc
アクサグループ・チーフエコノミストおよびアクサ IM リサーチヘッド
トランプ氏は選挙キャンペーンにあたり、移民問題、財政政策、貿易関税という3つの主要項目を掲げた非常に明確な経済綱領を掲げました。
移民問題では、不法移民を米国から排除する計画を表明しました。ピュー研究所によると、米国の労働人口に占める不法移民の数は約800万人で、全体の約5%を占めます1 。 労働人口の5%を排除すれば、労働市場の状況は顕著に変化し、賃金とインフレ率の上昇が起こると見ています。
財政政策についてトランプ氏は、2017年の政権中に導入した減税措置を延長すると述べています。米議会予算局によれば、この減税は、もともとすでに高い水準にある米国の財政赤字に、毎年国内総生産(GDP)比約1%の赤字を今後10年間にわたって上乗せすることになるとしています2 。
また、法人税率を21%から15%に引き下げ、社会保障給付とチップによる収入を所得税から免除することも言及しています。ペン・ウォートン予算モデルは、2017年の減税延長とこれらの追加措置を合わせると、米国の財政赤字はGDPのおよそ2%増加すると試算しています3 。
最後に貿易についてですが、トランプ氏は中国製品に60%の関税をかけ、世界で中国以外の国の製品には10%の関税をかけると約束しています。これによって米国のインフレ率が比較的大きく上昇し、国債の供給が大幅に増加する可能性が高くなり、長期金利の上昇につながると見ています。選挙後の市場の反応は、しばらく前から見られた動きの延長線上にあり、市場が合理的に行動していることを示唆していると考えます。
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オリビエ・ブランシャール Olivier Blanchard
元国際通貨基金( IMF)チーフエコノミスト、ピーターソン国際経済研究所シニアフェロー
全世界に10%、中国に60%の貿易関税をかけると、当初は特に中国からの輸入が減少し、米国内の国産品需要が増加すると考えています。これはトランプ氏が望む貿易赤字の削減をもたらしますが、第一段階に過ぎないと見ています。
そこでは、 — すでに為替市場に現れ始めているように — 米ドルの相場が上がるでしょう。また、貿易赤字が縮小すれば、投資家は米ドルに対してより楽観的になるでしょう。経済が完全雇用に近い状態であれば、内需の拡大はインフレ圧力になると見ています。そうなれば、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに踏み切り、さらなるドル高につながる可能性が高くなるでしょう。
こうした場合、1~2年後には情勢が大きく悪化し、輸出と輸出企業は苦境に立たされることになると見ています。トランプ大統領には3つの選択肢があると考えます。まず、FRBに利下げを命じることですが、これは、FRBの反対に遭う可能性が高く、中央銀行は大統領の管理下にないため、成功する可能性が低いと見ています。次に、関税をさらに引き上げるか、または、インフレと米ドルの高騰に直面して関税を下げるかです。
1,000万人近い不法移民を国外退去させることは1年でできることではなく、トランプ氏は1年に100万人を国外退去させる計画を立てている可能性の方が高いでしょう。ただしそれさえも実現せず、象徴的な少人数の国外退去を選ぶかも知れません。国外退去措置によって、特に農業分野では、労働力不足が顕著になるでしょう。農村部での支持を考えると、トランプ大統領はこの点には注意が必要と思います。移民が去った後の欠員を補充する必要があるため、求人が増え、労働市場が逼迫し、インフレにつながると考えます。これが、FRBにとって政策金利を変更する必要が出るかも知れないと私が考えるもう一つの理由です。
仮にトランプ大統領が減税措置を延長し、社会保障給付を所得税から免除した場合、GDPに対して3~4%とすでに大幅な米国の財政赤字をさらに1%~2%拡大する可能性があると見ています。6%の基礎的財政赤字は、米国にとっても非常に大きな数字と考えています。
金融市場を含めて規制緩和が進むとも考えています。暗号通貨市場の規制が不十分であることは懸念です。というのも、暗号通貨市場は現在、問題が起きればマクロ経済に広く影響を及ぼしかねない規模になっているからです。
選挙前の1週間に比べれば不確実性は少なくなりましたが、それでもまだ多くの不確実性があり、それが投資や消費に影響を与え、需要や活動を減少させる可能性があると見ています。しかし、それが上記の効果を抑え込んでしまうとは思いません。
要旨: 今後2年間、米国の金融市場や経済は比較的好調かも知れませんが、それ以降の展望は難しくなると見ています。
ニック・ヘイズ Nick Hayes
アクサ IM コア、アクティブ債券アロケーション及びトータルリターン・ヘッド
選挙結果に対する債券市場の反応は、これまでのところまちまちです。国家主義的で成長志向のトランプ時代が到来するとの見通しに対して市場が先ず起こした反応は、米国債利回りの上昇でした。これは、消費拡大見通しやインフレ期待の高まりとイールドカーブ(利回り曲線)のスティープ(急勾配)化を反映していると見ています。しかし欧州と英国の債券市場が米国よりもアウトパフォー マンスを示し、通常、株式と相関関係にあるクレジット・スプレッドが特に米国で縮小したため、米国債のボラティリティ(変動)は幾分相殺されました。
この状態が続くかどうかを見極めるには、まず選挙までの環境を見るのが良いでしょう。利下げサイクルは現在進行中ですが、特に米国では利下げ幅が以前の予想よりも小さくなる可能性があると見ています。そのため、債券はかなり不安定な環境にあると見ています。確かに米国債、英国債、ドイツ国債市場の動きは、もはやゼロ金利の世界ではないことを反映しています。つまり全体的に見れば、利回りは下がり始めていますが依然比較的高い水準にあり、ボラティリティも比較的高くなっています。
債券のリターンは、一直線ではないにせよ過去12~18カ月にわたっておおむねプラスでした。キャリーと利回りの水準が高まったことで、債券市場ではここ数年来の好環境となったものの、米国のイールドカーブの変化が他の地域に影響を及ぼすかどうかを市場が予測して動こうとするために、ボラティリティが高くなると思います。
世界の債券市場全体を見てみると、国債は世界のマクロ経済が好転していることに反応していますが、クレジットカーブが低下しながら、スプレッドが従来と比べ縮小しており、クレジット・プレミアムが付加されています。したがってクレジット・スプレッドはある程度はまだ魅力的ですが、現在の米国ハイイールド債券のオールイン利回りについてトータル・リターンの観点から今後1~2年にかけて投資の魅力度が比較的高いと、当社グループは見ています。逆に、欧州のリセッション(景気後退)の可能性が高まっていることから、欧州ハイイールド債券市場は、デフォルト率が上昇する状況に直面する可能性があると見ています。ただし、欧州のハイイールド債券市場は、一般的に質が高く償還期限が比較的短い債券が相対的に多いため、米国市場とはリスク属性が異なることに留意することが重要と考えます。
ドミニク・バーン Dominic Byrne
アクサ IMコア、グローバル・エクイティ・ヘッド
選挙前の市場動向は、株式市場の短期的な反応の論理を説明するのに役立つことがあります。昨年1年間、米国株のパフォーマンスが相対的に堅調だったことは、市場が選挙リスクに翻弄されなかったことを示しています。この中には金融サービスなど、トランプ氏の勝利によって強さを見せると予想されるセクターも含まれていました。ヘルスケアや消費財などのディフェンシブなセクターや、素材など中国の影響を受けるセクターは比較的軟調でした。
選挙に至るまで、株式市場の動きは一貫してトランプ氏の勝利を示していました。これは、注目度の高い「トランプ」対「ハリス」モデルポーフォリオ、すなわちハリス勝利またはトランプ勝利のいずれかで良好なパフォーマンスが予想される銘柄を集めた異なるバスケッ トの内、「トランプ」モデルポートフォリオのパフォーマンスの方が強かったことによっても示されています。
株式市場は比較的好調に推移してきました。インフレと金利の低下に加え、企業の業績サイクルが比較的良好であることは、株式市場にとって短期的には良好な環境を示していると見ています。規制緩和、税制、イールドカーブのスティープ化は、国内金融株、景気循環株、小型株、バリュー株に恩恵をもたらすと考えています。
国内の景気刺激策と並行して、米国の国内産業の活動を押し上げる可能性のある関税政策は中国、韓国、ドイツ、メキシコなどの輸出主導経済に悪影響を与える可能性があります。当社グループが選好する市場のひとつは日本株ですが、企業改革の恩恵を引き続き受けていると見ています。その上で、日銀がイールドカーブのスティープ化とともに円防衛に動けば、金融セクターにはプラスとなるでしょう。
中期的には、政策がインフレ率や金利、経済成長、企業収益に将来的にどのような影響を与えるかがより明確になるまで、株式市場の状況はすぐには明らかにならないと見ています。とはいえ、米国の国内産業に注力し労働力が縮小することは、ロボット工学と自動化が長期的な構造的な成長傾向を示すことを意味すると考えます。
近年の米国での政権交代はS&P500指数に全般的な影響はほとんど及ぼしてきませんでした。S&P500指数はトランプ大統領1期目の就任期間を通じて約65%上昇しましたが、ハリス氏による交代前のバイデン氏の任期中のパフォーマンスとほぼ一致しています。 当社グループは、短期的には株式市場にポジティブな見方をしており、中期的な経済成長の可能性についても楽観的な姿勢を維持しています。
データの出所:ブルームバーグ、2024年11月現在
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
(オリジナル記事は11月8日に掲載されました。こちらをご覧ください。)
本資料で使用している指数について
S&P500指数:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社が算出する米国の500社の値動きの平均を示す時価総額加重平均型株価指数です。
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